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4-3 今度あなたと出会ったなら(1)

 26,2016 15:28



3

男の子は、強くて逞しい生き物なんだ ― そう昔から思っていた。
今の今までは。
「うわああああ!宮森さん、ちょっと待って、ちょっと待って!」
私の腕を掴み、がたがたと震える大倉君に是非訊ねたい。
どうして怖がりなのに肝試しをしようと提案したのかを。
「大倉君、押さないで!」
あまりにも大倉君が怯えるせいで、私の恐怖は余計助長されていた。
懐中電灯はあるものの、辺りは真っ暗だ。
別荘の周りにはあまり建物はなく、木が生い茂る中を細い小道が通っているだけだ。
肝試しのルートはその小道を進み、途中の墓地にある自分の学生証を取って、
来た道とはまた違うルートを通り、別荘に帰ってくるというものだった。
しかし、このままでは墓地にすらたどり着ける自信がない。
このまま引き返したいくらいだ。
学生証は明日の朝か昼に、皆で取り行けばいいんじゃないか。
そう思ってそれを大倉君に提案したものの、大倉君は怯え顔のまま私に言った。
「駄目だって!明日の朝は雨が降るって天気予報で言ってた。
学生証、びちゃびちゃになるじゃん!!」
「・・・・・・」
とりあえず前に進むしかないらしい、腕に掴まっている大倉君を連れて。
墓地までは一体あとどれくらいだろう。
そもそもどれほど歩いただろう。
後ろを振り返って別荘を確認したいけど・・・怖くて振り返れない!
「早く帰りたい!」
「俺も!」
「言い出したのは大倉君でしょう!?」
「はい、本当にすみません!!」
二人の声が涙声になってきたところで、不意に近くの茂みから何か音がした。
ガサ、ガサガサガサ。
「・・・何の音?」
ガサガサガサ。
恐怖から顔が引き攣るのが分かる。
口元が震えそうになる。
私の腕を掴む大倉君の手が強張るのを感じた。
風は吹いていない、だから葉ずれの音がするわけない。本当ならば。
でも音はする、そしてその音は、
「―――――――!」
何もないはずの真横から聞こえた。
「うわああああ!」
私と大倉君は同時に地面を蹴った。
足が縺れそうになりながらも、必死で走った。
走り始めてすぐ、今まで掴まれていた腕が自由になったのを感じた。
それと同時に、自分の横を駆け抜けていく― 大倉君。
「待っ・・・」
待って。そう言おうとしたけれど、恐怖から上手く声が出ない。
大倉君は私の方は見向きもしないで一人走っていく。
何とか追いかけようとするものの、残酷にも足の速さは歴然としていた。
体が冷たくなっていく。
待って、追いていかないで―。
急に視界が回転した。気が付けば私は地面に突っ伏していた。
何に躓いたのかは分からない。何せ視界は真っ暗だ。
私は上半身を起こす、そして大倉君の姿を探し ―愕然とした。
「・・・・・・っ」
大倉君の姿は何処にもなかった。
私はしゃがみこんだまま自分の体をそっと抱く。
「どうしよう…」
一人になってしまった、こんな夜の暗闇の中で。
懐中電灯は運悪く、大倉君が持っていた。
目に涙が浮かんでくるのが分かった。
私は小さく叫んだ。
「誰か・・・っ!」


◇ ◇ ◇


美月ちゃんと僕は暗い小道をゆっくりと歩いていた。
本当はもっと早く歩けるけれど、美月ちゃんが怖がっていてなかなか前に進めないでいた。
「う~・・・」
僕の服の裾をぎゅっと掴んで、目までもぎゅっと瞑る美月ちゃん。
可愛い。これ、他の男だったら瞬殺されていたな、きっと。
「美月ちゃん、やっぱり怖いのは嫌?」
「・・・嫌い」
余裕がないのか、短く答える美月ちゃん。
だけど僕は知っている。
女の子らしく怖がりだけど、でもこの子は肝心な時には勇気を出せる子だ。
例えば。
「でも急流にウサギが流されてきたら、助けるでしょ?」
美月ちゃんは目をそっと開けて、僕を見る。
急に突拍子もない話をしたからだろう、首をかしげた。
「・・・助けるかもしれない」
僕は思わず笑った。
(ほら、やっぱり)
助けるかもしれない、そう言うけれど・・・きっと助ける、この子なら。
「まあでも、実際には止めた方がいいと思うよ。
きっと千里さん・・・千里が物凄く怒ると思う」
「千里が・・・?」
「うん、千里が」
そうこう話をしている内に、僕達二人はポイント地点である墓地に着いた。
そこは小さい墓地ながら静寂に包まれ、とても張り詰めた空気をしていた。
本来は死者が眠る土地に遊び半分でくるものじゃない。
美月ちゃんが僕の腕に顔を埋めて震えている。
「綾君・・・早く出よう」
「うん。とりあえず早く学生証を見つけよう」
僕は軽く美月ちゃんの肩をトントンと叩きながら、辺りを見回し学生証を探す。
一体何処に置いてあるのだろうか。
そもそもヨシは何時の間にここに来たのだろう。
そんなことを考えながら、ゆっくりと墓地を進んでいく。
すると一番奥の墓の囲いの上に、何かが置いてあるのが見えた。
懐中電灯で照らすと、それは探していた学生証だった。
「あったよ」
無事に第一グループ、第二グループは自分の学生証を見つけたようで
残っているのは四人分のそれだった。
僕は美月ちゃんに彼女の学生証を手渡しする。
美月ちゃんはそれを確認することなく片手で握りしめると、再び僕の腕に縋り付いてきた。
僕は自分の学生証をポケットにしまうと、残りの二つに目を向ける。
ヨシと藍那のだ。
持って行ってあげたいけれど、おそらく二人もここにたどり着くはずだから。
だから、申し訳ないけれどこのまま置いていくしかない。
「綾君、行こ?」
焦ったように美月ちゃんが声を上げた。
僕は「うん」と頷くと、墓地の道を戻り始める。
「ねえ、綾君って・・・怖くないの?」
「そうだね、あんまり。それにお化けよりも怖いものをたくさん知ってるからね」
例えばそれは、人の憎悪だったり。
例えば大切なものを失う悲しみであったり。
「綾君・・・?」
でも今は、昔話は止めよう。
僕は首を横に振った。
「ううん、何でもないよ」
墓地を出たところで、美月ちゃんはようやく僕から離れた。
息を大きく吐くと、自分の学生証を見て「これで帰れるね」と呟いた。
知紘と千里はもう戻っただろうか。
10分間隔でスタートしているし男だけのグループだから、きっとさくさく進んで行ったに違いない。
2グループ目は女の子だけだったけど・・・まあ、大丈夫だろう。
なんだか、そういうのに強そうな二人だし。
「じゃあ、僕らも帰ろうか」
懐中電灯で進路方向を照らし、僕がそう言った ―その時だった。
静寂を切り裂くような、けたたましい叫び声が聞こえてきた。
僕と美月ちゃんは振り返る。
「・・・!?」
後ろだ、後ろから何かがやってくる。
美月ちゃんも僕も呼吸を止めて、暗闇を見つめる。
叫び声は徐々に僕らの方に近づいてくる。
美月ちゃんを僕の背に隠し、僕はその声の方へと懐中電灯を向けた。
「―・・・誰だ!!?」
やがて光が、僕らの方へ全力疾走してくる男の姿を照らした。
青白い顔をして、大きく口を開けて絶叫しているあれは―
「大倉君・・・?」
ヨシだった。
ヨシは、僕らを見て「うわあ!」と言ってのけ反ると後ろに倒れ込んだ。
ガツンと懐中電灯が地面に落ちた痛々しい音が響く。
「・・・ヨシ・・・何してるの?」
僕は、地面に座り込んでいるヨシに聞く。
「綾ぁ~美月ちゃん~!」
ヨシは僕らの顔を見てほっとしたのか、泣きそうな顔をして僕の足に縋り付いてきた。
「こわ、怖かったー!」
どうしてヨシが叫び声を上げながら走ってきたのか、それは分からない。
だけど僕はそんなことよりも、どうしてもヨシに確認しなければいけないことがある。
背中に冷たいものが走る。
僕は言った。
「ヨシ、 ―宮森さんは?」
ヨシは藍那とペアだった。
それなら、どうして今此処に彼女がいない?
地面に転がっているのは、二人のグループの懐中電灯。
僕の質問にヨシは硬直したように固まった。
僕が問いかけるまで気づかなかった、といった顔だった。冗談じゃない。
「置いてきたの・・・?」
珍しく低い声でそう言った美月ちゃんにヨシは「ごめん、俺・・・」と俯いた。
その一言で理解する、藍那は一人何処かに置き去りにされているのだと。
僕と美月ちゃんは顔を合わせる。
こうしてはいられない、早く藍那の所へ行かないと。
暗い山道で何も持たずに一人で。
(・・・・・・っ、くそっ)
「僕が行く!美月ちゃんと、ヨシはこのまま別荘に戻って!」
藍那を一人にさせたくなかった。
弱みを隠そうとする強情な所がある、だけどあの子は怖いものが苦手だ。
一体今どんなに不安な気持ちでいることだろう。
最初から僕が一緒だったら。
自分自身に苛立ちを覚えながら、駆け出そうとした僕の腕を引っ張る人がいた。
「私も連れて行って、綾君」
「美月ちゃん…」
美月ちゃんは変わらず、震える手で僕の腕を掴んでいる。
しかしその目は強い光を放ち、僕をまっすぐに見ていた。
「でも美月ちゃんは、」
「行かせて、綾君」
美月ちゃんは必死に僕に懇願する。
頭上から月明かりが僕らを照らす。とても優しくも明るく、強い光が。
僕は何も言わず、ただ一つ頷いた。



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