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5-1 お姉ちゃんへ(1)

 31,2016 16:16



5th mail 世界でたった一人の

1

長いようで短かった夏休みはあっという間に終わり、気がつけば始業式を迎えていた。
校長先生の話を聞きながら、私は体育館の窓から見える外を眺める。
(暑い…)
九月だというのに、まだ汗ばむ日が続いている。
今月の終わりには体育祭もあるというのに。
その頃には今よりも過ごしやすくなっているだろうか。
始業式が終わり教室に戻って自分の席につくと、右隣からふんわりとした優しい声が聞こえた。
「藍那ちゃん、席隣だね。よろしくね」
愛澤 美月。
「うん、よろしく」
「後ろの方の席でラッキーだったね」
「ほんとにね」
私は愛澤さんの言葉に素直に返した。
旅行以来こうして話をするのは初めてで、少し照れくさい。
だけど、以前まで感じていた愛澤さんへの嫌悪感はもう無くなっていた。
嬉しそうに愛澤さんは微笑むと話を続けた。
「体育祭の団も藍那ちゃんと一緒だったら良かったのにな」
「愛澤さん、何団だっけ?」
「赤だよ。藍那ちゃんは青だったよね」
始業式の後、体育祭の各団のメンバー発表があった。
ちなみに三年生だけは夏休み前には決定していて、
聞いた話によれば休み中に団長達によって下級生選別のドラフト会議が行われていたらしい。
団はオーソドックスに赤白青黄の四つで、私は愛澤さんが言うように"青"団になった。
同じ青団には依織や千里もいる。
「赤団には愛澤さんの他に誰がいたっけ?」
「えっと確か・・・大倉君とか綾君とか」
私は、ぱちぱちと瞬きをした。
新倉君は赤団なんだ、とそうなんとなく心の中で呟く。
そういえば今日は一度も新倉君と話をしていない。
そんなことを考えていると、タイミングよく新倉君が前のドアから教室へ入ってきたのが見えた。
愛澤さんも新倉君を見つけたらしく、「綾君ー!こっちこっち!」と手を振る。
「どうしたの、美月ちゃん?」
「今ね、藍那ちゃんと体育祭の話をしていたの。綾君も赤だよね?よろしくね!」
そう言って、愛澤さんは新倉君に微笑んだ。
同性でも見惚れる、とても可愛い笑顔だ。
そっと周りを見回すとクラスの男子達がうっとりと愛澤さんを見つめているのが分かった。
自分に向けられた笑顔でないのに、満足気な顔をしている。
それでいいのか、男子。
内心そうつっこみながら、私は新倉君に視線を向ける。
「美月ちゃんも赤なんだ?よろしく」
そう会話を交わす二人を見ながら、ふと私は思う。
そういえば新倉君は、愛澤さんのことをどう思っているんだろう。
こんな可愛い子に微笑まれて、好きになったりはしないんだろうか。
(もしくはもう好きとか・・・?)
でもそれにしては、愛澤さんに向ける微笑みには下心がないように思える。
二人の会話を聞きながらぼんやりとそんなことを考えていると、
HRの時間を知らせるチャイムが鳴った。
新倉君は前の方の席だったはずだ。
新倉君は軽く愛澤さんと言葉を交わし会話を終わらせると自分の席に戻ろうとして、
何かを思い出したように、もう一度私達の方を振り返った。
その目は愛澤さんではなく私の方を向いている。
「え・・・何?」
戸惑った私に彼は言った。それは予想外のタイミングで。
「青団でよかったね ― 藍那」
名前で、呼ばれた。
「・・・・・・っ!」
顔が熱くなるのが分かった。
きっと私の顔は赤くなっているに違いない。
新倉君は私の気も知らないで、微笑むと自分の席へと戻っていった。
その背中姿を見て私は両手で顔を覆った。
旅行の帰りに、彼が言った言葉を思い出す。

「・・・それじゃあ、その借りを返してもらおうかな」
借りを作っているみたいで嫌だと、そう話した私に新倉君は言った。
「君のこと、藍那って呼んでもいい?」

どうしてそれが借りを返すことになるのか、全くその意図を掴めないものの、
旅行では新倉君に助けてもらったこともあり、その時はただ頷いたけれど・・・。
何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。
だって名前を呼びたがるって・・・新倉君に何のメリットがあるんだろう。
「ねぇ、藍那ちゃん」
隣で遠慮がちに愛澤さんが私の名前を呼んだ。
「・・・え?」
愛澤さんは、はにかみながら言った。
「新倉君と仲いいんだね」
「!?」
そうだ、あの人は愛澤さんの前で堂々と・・・!
「そんなことないよ!」
ああ、分かった。新倉君にとってのメリットが。
きっと私に嫌がらせをしたいだけに違いない。
(・・・最悪だわ)


◇ ◇ ◇


「綾ちゃーん♪」
学校が終わり、帰ろうとしていた時に甘ったるい声が聞こえてきて僕は足を止める。
「あ、凄く嫌そうな顔してるー。失礼!」
「美衣、お前がそのテンションで話しかけてくる時は大抵ろくな事がない」
案の定振り返ると、にんまりの顔が美衣がそこにいた。
二つ縛りの髪が、ゆらゆらと揺れている。
「何かあったのか?」
恐る恐るそう訊ねれば、美衣は目を細めた。
「"何かあったのか?"・・・じゃないよね?それを聞きたいのは私の方。
藍那…って呼ぶようになったんだね!」
「見てたのかよ」
「見てないよ。噂になっているのを聞いただけ」
「は?噂?」
「そういうのに女子は敏感なのよ。特に綾ちゃんだから尚更」
ますます訳が分からず、首をかしげると美衣は「まぁ、いいわ」と乱雑に話を戻した。
「それでどういうことなの?
旅行の前は苗字で呼んでいたと思うんだけど、
一体何がどうして呼び捨てで呼べるようになったわけ?」
ずいっと体を前に出して、僕との距離を詰める美衣に思わず後ずさる。
「もしかして、私の知らないところで何か進展でもあったの?」
嬉しいのか単に面白がっているだけなのか、にこにこと美衣は笑っている。
しょうがないなと僕は旅行での肝試しの一件について美衣に話した。
美衣は初めは、にやにやとした顔で話を聞いていたものの、
美月ちゃんと彼女のやり取りのところでは、真剣な表情に変わっていた。
そして彼女が放った第一声がこれだった。
「大倉君、サイテー」
今回の件について、ヨシには大変反省してもらった。
土下座をして何度も「ごめんなさい!」と謝るヨシを見れば、
悪気がなかったことは分かるけれど、それでも彼がしたことは許しがたい。
藍那が「もう大丈夫だから」と言って、結局は僕と藍那とヨシと美月ちゃんだけで
話を終わらせたけれど、やはり千里は何か勘付いているように見えた。
「まあそんな感じで・・・藍那のことは藍那って呼ぶことにしたんだよ。
前から美衣に対しては藍那って言ってたし、
本人を目の前にして呼び捨てにしそうになった危ないことも何度かあったし。
それなら本人に許可を貰えば何の問題もないかなって」
「ふうん、下心なしに?」
「どんな下心だよ」
「僕の事を意識してほしい!っていう・・・ってそんな冷めた目で見ないでよ、冗談よ。
でもどうせ名前を呼ぶのなら、逆にあなたも名前で呼んでもらったらいいのに」
「彼女にそれをお願いして呼んでくれると思う?」
「思わない」
間髪を入れず即答された。
おいおい、少しは僕に気を使おうとか思わないんですか、美衣さん。
とそんなことを思ったその時。
くすくすと笑う美衣の後ろ ―少し離れた所に見知った顔が見えて「あ」と僕は呟いた。
稲垣 知紘。今日もお洒落に制服を着崩している彼は、
久しぶりの学校で疲れたのか眠たいのか、気だるそうに鞄を持っている。
向こうも僕に気づいたらしく、こちらに近づいてきた。
「綾そんなところで何して・・・あれ、美衣ちゃん?!」
「・・・こんにちは、稲垣君」
「二人ともこんな所で何やってんだ?」
何も、と僕が言う前に美衣が人差し指を唇に当て、にこりと微笑んで言った。
「んー・・・綾ちゃんと私のヒ・ミ・ツ」
知紘がぱくぱくと口を動かし、僕ら二人を交互に見ながら指を指した。
いけない、大変に不名誉な誤解をされてしまっている。
僕は全力で否定することにした。
「知紘が思っていることは100%ありえない」
実際知紘がどんな想像したかは分からないけれども。
「あー、びっくりするわ。
前から二人実は付き合ってるのかなって思ってたりしてたんだよな」
「えーそう見えちゃうのー?」
「何でお前が嫌そうに言うんだよ、さっき誤解を招いたのお前だろ。
…それにしても知紘、どうして僕らがそういう関係だと思ったの?ありえないよ」
そう、天地がひっくり返っても多分ありえない。
美衣は過去を共有している兄妹のような関係だ。
その関係に恋愛感情は存在しない、絶対に。
「何でだろう・・・ああ、美衣ちゃんを見かける時は必ず綾がいるからかな」
知紘のその言葉に僕はちらりと美衣に視線を向ける。
美衣はそれに気が付いたのか、僕の方を見て口元をゆっくりと上げた。
それは傍から見たら微笑んでいるように見える。
だけど僕には分かる。美衣の纏っている空気が変わった。
笑っているけれど、笑っていない。
知紘は気づいていないようだけれど、今美衣は知紘に向けて ―ひどく警戒している。
「そんなことないよ?だって私、よく稲垣君とすれ違ってるもん」
「え?本当に?おかしいな・・・美衣ちゃんがいたら気付くと思うんだけどな」
「私、存在感ないんじゃないかなー?」
「違うって。俺がぼーっとしてんのかも。
ねぇ、じゃあ今度すれ違ったら声かけてよ」
美衣は微笑んだまま「りょーかい♪」と親指と人差し指で丸を作った。
そして「私行かなくちゃー。用を思い出しちゃった」と言うと、僕らに手を振ってこの場を離れた。
そう、"離れた"という言い方できっと正解だろう。
美衣がさっき言った言葉は嘘だ、きっと用事なんてなかった。
「なあ、綾」
「ん?」
「・・・美衣ちゃんって」
美衣が走り去った後を見つめながら、知紘が小さく呟いた。
「誰か気になる奴とかいんのかな」
少し寂しそうな、不安そうな声に違和感を感じた。
その言い方は、まるで美衣のことが好きだと言わんばかりの。
「知紘」
まさか、とは思った。
だけど知紘の表情を見れば、それが間違いじゃないことに気づく。一体いつから。
「いつから、美衣のことが好きだったの?」
知紘はまだ美衣がいなくなった方を見つめたまま、首を横に振る。
「分からねぇけど、気が付いたらすごく気になる女の子になっていた」
意外と言えば意外だったかもしれない。
知紘とはそういう話をしたことが全くなかったから。
当たり前のことかもしれないけれど、知紘も普通に恋をするんだな、なんて思ってしまった。
- しかしその相手が美衣というのは、少し厄介だ。
「応援するよ、知紘」
「まじで?お前がそう言ってくれると心強いよ」
だって、このままでは確実に美衣は知紘を受け入れたりしないから。
僕は心の中で呟く。
知紘。
美衣に思いを伝えるのは、そう簡単なことではないよ。
今のままではどんなに君が美衣を想ったとしてもきっと叶わない。
そう ―美衣の本当の姿に、気が付かなければ。



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