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5-1 お姉ちゃんへ(3)

 05,2017 12:40



「綾?何してんの、こんな所で」
翌日、さっそく先輩のクラスに行くと、先輩は窓際にいたにも関わらず、
すぐに僕を見つけて声をかけてくれた。
以前会った時よりもまた少し大人っぽくなった先輩に軽く頭を下げる。
「・・・お久しぶりです、夏来先輩」
水谷 夏来。
先輩と僕は同じ中学校出身だ。
しかし同じ部活だったわけでも、家の方角が近いわけでもない。
僕と先輩はとある事件をきっかけに顔見知りになった。
それは運命と言うにはあまりにも非常に情けのない僕の黒歴史だ。

当時中学一年生だった僕は、名前も知らない三年生の先輩に告白をされたことがあった。
それだけを聞けば聞こえはいいけれど、問題なのは相手が異性ではなく、男という同性だったことだ。
しかもどうも相手は同性愛者というわけでもないようで、…要は僕を本気で女だと勘違いしていたらしい。
制服を着ているところを見たら、一目瞭然で男だと分かっただろうに、
間が悪いことに呼び出された時がちょうど体育前の休み時間で、僕はジャージを履いていたのだ。
"俺と付き合ってくれないか?"
勿論男と付き合えるわけがない。
何と言って断ろうかと狼狽していた僕の前に、突然颯爽と現れた人がいた。
泣きボクロが印象的な大人っぽい女性。
それが夏来先輩だった。
夏来先輩は僕を見るなり、すらっとした綺麗な手で ―僕の頬を強く打った。
「何、人の彼氏を奪おうとしてんの!?この泥棒猫!」
勘違いもいいところ。
夏来先輩はどうも僕の方が告白をしたと思ったらしい。
しかも男の先輩の方は、夏来先輩と付き合っているのに、僕と浮気をしようとしていたのだ。
その事実と、顔を打たれた衝撃が酷くて、僕はしばらくポカンと先輩を眺めていた。
「・・・・・・?」
しばらくして先輩は僕の様子がおかしいことに気づいたらしい、
怪訝そうに僕を見つめた後に「嘘・・・?まさか」と呟きながら僕に近づいた。そして。
ぺたりと僕の―・・・股間を触って言ったのだ。
「あるわ」

あの時と同じように、落ち着いた声のトーンで先輩は僕に言った。
「どうしたの、三年の教室なんかに来て。男どもに食われるよ」
「おっしゃる意味がわかりません」
先輩の綺麗な形をした唇が横に伸びた。
怪しい笑みを浮かべて、先輩が僕の腕にそっと手を触れる。
「・・・で何の用なの?」
触らないで下さい、と僕は先輩の腕を退けながら言った。
「そのまさかです。先輩に聞きたいことがありまして」
「え、本当に私に用なわけ?」
意外そうに目を見開いた先輩。
僕だってできることならあなたにあまり頼み事をしたくなかった。
後々、面倒かつ厄介で恐ろしいことになるから。
「先輩は、染山さんを御存知ですか?」
「染山・・・莉那のこと?莉那に何の用?」
すっと細められた瞳。先輩は怪訝そうに僕をじっと見つめた。
こう見えて先輩は頭がきれる。下手な言い訳は通用しないはずだ。
そう思って僕は事前に用意してきていたものを見せた。
「何これ」
先輩は僕の手のひらに乗っているものを見て、きょとんと首をかしげた。
僕は笑顔を作って言った。
「ハンカチ、ですね」
一目見て明らかに男物だと分かるハンカチ。
そこには刺繍で染山と文字が入っている。
しかし、これは僕が用意したもの。勿論誰のものでもない。
「3年生の下駄箱の近くに落ちていたので・・・」
「莉那のじゃないよ。莉那がこんな男物のハンカチ、持っているわけないじゃない」
僕ははぁとため息をつく素振りをする。
「ですよね・・・。実は先輩から染山先輩の名前を聞くまでは、男性だと思っていたんです。
そっか・・・そしたら、これは誰のハンカチでしょうか」
僕はそう言いながらわざとらしく首をかしげた。
ここまでは全て僕の予定通りだ。
「他に3年生で染山さんという男の先輩はいますか?」
「いなかったと思うけど。綾達の学年は?」
「2年にはいませんよ。・・・本当に染山莉那さんのではないんですか?
それなら― 例えば、"弟さん"がいるとか」
「弟・・・?」
その時ガラリと扉が開く音が聞こえて、僕と先輩は教室の入り口を振り返る。
四人の男子生徒が、教室に入ってきた。
その内の一人と目が合う。きりっとした吊目が涼し気な背の高い男だった。
吊り目の先輩はそのまま僕らの方に歩いてきた。
「夏来」
「おかえり、万葉(かずは)」
「おう。ところでこのすげぇ可愛い子は誰?」
万葉と呼ばれた男にじろじろと見られて僕は苦笑いをした。値踏みをされているようだ。
「二年の新倉綾君よ」
「ああ、あの噂の美少年!」
何だか反応に困る会話が交わされた後、夏来先輩は思い出したようにポンと手を叩いた。
「そういえば莉那と万葉って家が近所よね?」
「まあ、近所といえば近所だな」
「莉那って、弟いる?」
吊目の先輩は視線を斜め上に向けると、「んー」と声を出した。
「いなかったと思うけど・・・」
夏来先輩と万葉先輩のやり取りを見ながら僕は考える。
弟の存在は、きっと友人にも話していないのだろう。
美衣に調べてもらった調査では、染山という名前の生徒はこの学校で染山莉那しかいない。
ということは勿論弟の方の苗字は染山とは異なる。
今、美衣に染山莉那の旧姓を調べてもらっているところで、これ以上の情報はまだ何もない。
ここから何処まで調べていけるだろうか。
そうだせめて ―染山莉那本人と接触ができるなら。
しかし、過剰な接近は怪しまれる。それは染山莉那だけでなく依頼主本人にも。
さて、どうしようか。一度藍那と相談をするべきか。
そう思いながら僕は時計に目を向ける。もうそろそろ自分のクラスに戻らないと。
「先輩方、ありがとうございました。このハンカチ、職員室に届けてみます」
「それがいいかもね」
夏来先輩のてきとうな返事に「はい」と笑うと僕は教室を出ようとする。
と、背後から二人の会話が聞こえてきて、
「そういえば莉那、青団の副将になったらしいぜ」
僕は部屋の扉の近くで足をぴたりと止めた。
教室の掲示板に張られたプリントを読む振りをして、二人の会話に耳を傾ける。
「えー!?莉那が!?」
「ああ、幼馴染としては負けられねぇわ。今回の会議で相当こっちもいい人材揃えてるしな」
・・・・・・。
これ以上ここにいては怪しまれる。
そう思ってやっと僕は扉に手をかけた。

青団、副将。
その言葉が何を指すのか、この学校にいる生徒ならばすぐにピンとくるだろう。
この学校の体育祭メイン種目の一つ -"背水の陣"。
競技内容はドッジボールだが、この学校独自のルールがある。
莉奈先輩らから聞いた話を電話で報告すると、美衣は不思議そうな声を上げた。
「綾ちゃん、どんなルールだっけ?」
「忘れたのかよ、美衣」
「教えて!」


◆ ◆ ◆


背水の陣。
試合はそれぞれの団、4チームが同時に行うドッジボールである。
外野はそれぞれの内野の対角線上に入る。



参加人数は各団12人ずつ。その12人の内、5人以上が女子であること、
また1、2年から男女1人ずつ(計4人)をメンバーに入れることが決められている。
初めにコートに入るのは9人のみ。その9人は"先鋒"と言う。
その内、外野は一人以上。人数は戦略として各団で決める。
開始時に外野にいた者は、一番初めに相手を当てた時のみ内野に入れる。
内野は一度当てられると外野から内野に戻ることはできない。



先鋒以外の3人は、大将1人と副将が2人。
この3人は陣の外におり、先鋒の内野が2人以下になってから陣に入る。



試合は大将が討ち取られた時点で負けである。
大将が陣に入ってきた時点で、他のチームは大将を狙い撃ちすることが多い。
そして大将を討ち取った団が、敗ったチームの陣地を勝ち取る。

※黄色が青の大将を討ち取った場合はこうなる。


これを繰り返していくわけだが、
最後に2チームが残り、ちょうど陣地が半分ずつになる場合があれば、3:1になることもある。
3:1になった時は内野は周りを全てに敵に囲まれ、逃げ場がどこにもないことから



背水の陣と呼ばれる。


◆ ◆ ◆



「あーそんなルールだったかも」
「だったかも・・・って・・・」
1年の時、先輩たちを見てキャーキャー騒いでたのは何処の誰だったろうか。
そう嫌味を言うと、美衣はぷうっと頬を膨らませた。
「そんなこと言うと、何も教えてあげないんだからね。
私を呼び出したってことは、各団の情報が欲しいからでしょ?」
美衣はそう言いながら、机の上にノートを広げてボールペンで名前を書き始めた。
「まず今年の優勝候補は、白団ね。
大将はサッカー部部長の高瀬 万葉(たかせ かずは)」
「万葉・・・?」
確かさっき夏来先輩と話していた吊目の男はそんな名前ではなかっただろうか。
あの人がサッカー部の部長だったのか。
「そして副将の一人はあなたも十分知ってる水谷 夏来。
 3年生のメンバーが全てスポーツ万能のC組って所が強みね。
次に強そうなのと言えば、赤と青。
赤の大将は片桐 弓月(かたぎり ゆづき)。
白の大将、高瀬 万葉の親友で剣道部の主将。
頭がいいし、顔もいいしで女子から絶大な人気を誇る先輩よ」
頭脳明晰でルックスもいい。
まるで千里みたいだなと僕は思った。
「青の大将は戸田 春樹(とだ はるき)。
引退したけれど、野球部のピッチャーだった人よ。
そして二人いる副将の内一人は染山 莉那」
美衣は染山 莉那の文字をぐるぐるとボールペンで何度も囲む。
「今回のターゲットさんがこの人ね?」
「そう。何か分かった?」
「染山 莉那、3年D組。D組にいながらC組のように運動神経が抜群。元体操部。
性格は明るく、さばさばとして面倒見がいい。
弟君のことは調べてみてるけど、少し時間がかかりそう。
今のところは不思議なくらい、何の情報も手に入らないの」
「そっか…」
美衣で探れないとなると、やはり直接接触するしかなくなる。
三年生と関わる機会なんて―・・・。
そこまで思って僕は美衣を見る。
「球陣の陣員、1・2年はまだ決まってないよな?」
「え?うん。大抵は、三年生が目を付けていた後輩に声をかけたりするけど、
直接決まるのは明日の放課後の学年の団会議だったはずだけど。―・・・まさか」
染山先輩は青団だ。
ということは、青団の生徒であれば彼女に接触できるかもしれない。
試しにちらりと美衣を見ると美衣はべっと舌を出して言った。
「私はやりませーん」
予想通りの反応だった。
僕は赤団だからそもそも無理だとして…となれば、頼りになるのは彼女しかいない。
「あの子、球技とか得意そうじゃないけど、いいの?」
「頼むだけ頼んでみるよ」
そう言って僕は、携帯電話を取り出し ― 藍那にコールをした。



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