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5-2 球陣と先輩(1)

 13,2017 16:56


「じゃあ、15持久走行くよー!!」

2

相変わらず残暑が厳しく、9月とは思えない暑さだった。
日焼け止めなんてもう既に全て流れ落ちてしまっただろう、
そう思うくらいに汗だくになって私は、-否、私達はグラウンドを走っていた。
勿論私は陸上部でも、その他の運動部でもない。
ではどうして私がこんな目に遭っているかというと、それは三日前に遡る。
その日は月末にある体育祭、そのメイン競技の一つである"応援合戦"と、
うちの学校の伝統種目である"背水の陣"の学年別団会議が行われた。
会議内容の大半が占めるのは、それぞれの代表-応援団員と陣員の選出。
去年はそれらが決まるのを他人事のようにぼんやりと眺めていた私だったけれど、
今回ばかりはそうはいかなかった。
"陣員"への立候補という恐ろしい使命を抱えていたのだ。

ラビットメールの送り先、染山先輩は私と同じ青団の"陣員"。
ということで新倉君から陣員になれるかどうか相談されたのだ。
「無理なら別にいいよ」とそう言われると、
まるで役立たずと言われているようで、思わず「やる」と言ってしまったのだけれど。
(これこそ身の程知らず、ね)
陣員に求められるのは、圧倒的な運動神経。
私には一番ハードルが高い分野だ。
しかし、結局立候補をしても、選ばれなければ意味がない。
そう思ってやけになって挙手をした私。
経過をとばして結論だけを言えば、呆気ないほど簡単に私は陣員の座を獲得してしまった。

「戦力のバランスがおかしいんじゃないの…」
青団二年女子には、目立った運動部はいなかったらしい。
しかしその一方、男子の方には相当強者が揃っていたようで、
二年男子代表に選ばれた谷川 理玖(たにかわ りく)君は、
驚くほどの身体能力を持っているようだ。
疲れた様子もなく、楽々とトップ集団に混ざって走っている。
ちなみに三年生の先輩たちは勿論実力揃いで、
今行われているランニングで足を引っ張っているのは私と他二人。
一年代表の笹野君と野原さんだった。
「め、目眩がする…」
笹野 瑛斗(ささの えいと)君は、眼鏡をかけている小柄な男の子だ。
代表になった理由が、モテてみたいからだそうだ。
人の事は言えないけれど、ボールが飛んできたら取るよりも避けるタイプだろう。
野原 心美(のはら ここみ)ちゃんはお団子頭のこれまた小さな女の子で、
何もない所で転ぶ姿を今日だけでも3回は見た。
「宮森、笹野、野原ー!ちんたら走るなー。
 それともなんだ?練習が物足りないのか?よし分かった。5分追加するぞー」
「ひっ、これでも真剣に走っています!戸田先輩!」
一番前を走る陣員の大将、戸田先輩がにやりと笑った。
悪い先輩ではないんだけど少しSっ気があるのかもしれない。
そう感じていたところで、
前にいたポニーテールの先輩が少し速度を落として私の隣に並んだ。
「名前は宮森ちゃん・・・であってる?」
「は、はい。染山先輩」
「私の名前、ちゃんと覚えてくれてるんだ?ありがと」
そう言って先輩は嬉しそうに笑った。
染山 莉那先輩。
今回の、ラビットメールの受取人。
「ねえ、宮森ちゃんはどうして陣員になったの?
 運動部ではなさそうだし、一年の二人は球陣の過酷さを知らないからしょうがないとして、
 なんとなく宮森ちゃんだけ浮いて感じる。あ、駄目とか言っているんじゃなくてね?」
足を止めることなく走り続けているのに、染山先輩は息ひとつ上がっていない。
これでC組じゃないなんて。
荒く息を吐きながら、どう言い訳をしようかと考える。
私は新倉君みたいに上手いことは言えないのに。
ああ、酸素が欲しい。
何も答えられない私に、染山先輩はニッと笑って言った。
「・・・なあに、もしかして陣員に好きな奴でもいる?」
「え!?」
思ってもみなかった話に私は思わず声を上げる。
前の方で戸田先輩達が、私達の方を振り返ったのが見えた。
「誰?」
何も言ってないのに先輩は勝手に話を進めていく。
ああ、こうなったらもうどうにでもなれ。それで先輩が納得してくれるなら。
嘘はつきたくはない、…なんて言っている余裕はない。
「まあ、そんな感じです」
「まじで?誰?協力するよ、私」
「えーっと・・・」
ちなみに、千里は青団の応援団員になった。
後から聞いた話だけれど、千里を団員にするか陣員にするかで三年の先輩達がもめていたとか。
確かに千里は運動神経がいいから、陣員でもいけると思う。
やはりどの学年も陣員はC組が多いけれど、中には例外もいる。
一般に頭脳派と呼ばれるA組の中にも陣員になる生徒はいて、
大倉君は赤団、井上さんは白団の二年陣員になったらしい。
そんな中の私だ。
よくもどんくさいのに陣員になったものだと思う。恥をかくしかない。
(ああ、もう…)
そう、球陣で恥をかく覚悟はした。
だけどこんな、嘘の恋愛話で恥をかくことになるなんて・・・!
「誰にも勿論言わないけど?」
ニコリと微笑んだ染山先輩、その笑顔で「早く言え!」と脅迫をしているから恐ろしい。
戸田先輩と何だか似てる。恐ろしい大将・副将!
「・・・た、谷川君です!」
先を走る谷川君をちらりと見る。
ごめんなさい、谷川くん。
三年の先輩の名前を出したら、本気でどうにかされそうで怖かったから、つい・・・。
後ろめたさから俯いて走っていたものの、何も返事がかえってこないことが不思議で、
顔を上げて先輩の方を向けば、先輩は前を見ていた。
谷川君の方を。
その表情は私をからかっていた時の笑みはない。
「先輩・・・?」
先輩はもう一度私の方を見て微笑んだ。
下手くそな、作った笑みだった。
どうして先輩がそんな表情をするのか、言葉が出ない私は先輩を見つめる。
「参ったな・・・」
先輩はため息をついて、
「谷川だけは、応援できないよ」
そう言うと先輩は先に行くと言ってペースを速めた。
谷川君をあっという間に抜き、戸田先輩のすぐ後ろまで走っていった先輩。
私は唖然とその様子を見つめた。
「先輩…?」
谷川君だけは駄目。
・・・もしかして、と妄想してしまう。
谷川君が先輩の弟だったら?それを先輩は知っていて私にああ言ったんだとしたら?
谷川君も先輩がいるから、この陣員に立候補したんだとしたら?
あまりにも単純な自分の思考回路に呆れるけど、今の私にはそれしか考えられなかった。
体育祭までは、あと二週間と少しだ。



汗を拭いて、着替えたところで廊下の時計を確認するともう六時を過ぎていた。
外はすっかり夕焼け空が広がっている。
遠くの方で鳥が群れて飛んでいくのが見えた。
急に廊下の奥の方からざわざわとした人の声が聞こえてきて、そちらに顔を向ければ
青団の・・・おそらくは青団の応援団員達が教室へと戻ってきているのが見えた。
その中に見知った顔を見つけて私は、「あっ」と声を漏らす。
すると彼らの視線が一気に私の方に向いた。
驚いた時に声を上げてしまう癖を本当にどうにかしたい。
「藍那」
そんな私の気持ちとは裏腹に、千里が爽やかな笑顔を向けて私に手を振った。
何だか恥ずかしいけれど、嬉しいと感じるのも正直な気持ちで、
少し照れながら手を振りかえすと、千里の周りの男の子たちが千里を小突いた。
よく見れば、名札に入った青のラインが三本。
千里以外はみんな三年生の先輩達らしい。
その内の一人の先輩がからかう様に千里に言った。
「何だ、本郷。彼女いたのかお前?」
・・・!!
息を呑んだ。
ちょっと止めてよ!と心の中で叫ぶ。
何て最悪な冗談を!
頭の中が真っ白になった。
千里とそういう話をするのを今までずっと避け続けていた。
違う、と言われるのも他に好きな子がいる、と言われるのもどっちも私には辛い言葉だ。
まさかこんな場所で聞かされることになんて。
耳を塞ぎたい、そう思っていると千里がふっと息を吐いて先輩達に微笑んだ。
ああ、言われる。
違うって、恋人なわけないって。
そう覚悟した私に、しかし千里は言った。
「藍那は俺の憧れです、大切な女の子ですよ」
無意識に目を閉じていた。だけどその言葉に私はそっと目を開く。
自分の足が視界に入る、微かに震えているのが分かった。
「えっと、それは・・・」
気まずそうな男の先輩の声が廊下に響く。
また違う先輩が空気を読んだのか、話を流すように言った。
「まあ、何だっていいじゃん。
 とりあえず本郷、今日やったとこ明日も忘れるなよ」
「はい、分かりました」
ぞろぞろと先輩達は階段を上っていった。
「……」
今は放課後。静まり返った廊下に佇むのは私と、千里。
違う、と言われると思った。想像しただけで怖かった。
だけど千里はそうは言わなかった。
千里が好きな女の子を私は知っている。
だからその言葉に恋心が含まれていないのは分かっている。
でも、嬉しかった。”大切な女の子”、その一言が嬉しくて。
そしてたまらなく、切ない。
「球陣の方も練習終わったんだ?」
静寂を破ったのは千里だった。私の方へと歩いてきて、優しく微笑んだ。
私は千里を見上げて「うん」と一言だけ返した。
千里は私の恋心には気づいていない。
それが時々とても哀しくなる時もある、辛いとも思う。だけど。
「一緒に帰る?」
片思いをしていられるこの時間すら愛しいと思えるようになった。
きっと"彼"の、おかげで。
私は笑顔を作って言った。
「うん、帰ろう」



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