FC2ブログ

スポンサーサイト

 --,-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

5-3 まだ見ぬ君をさがして(1)

 31,2017 23:05



「眉間に皺がよってるよ、綾君」

3

木曜日。
教室で昼食をとっていると、美月ちゃんが僕の顔を覗き込むようにして言った。
いつの間にか考え事をしてしまっていたらしい。
心配そうに見つめてくる美月ちゃんに僕は「何でもないよ」と答えた。
「・・・そういえば藍那とは、仲よくやっているの?」
「うん。ラビットメールと、あと綾君のおかげだよ」
美月ちゃんはとても嬉しそうにそう言った。
その笑顔を見て、僕も嬉しくなった。
この子が笑っていてくれると、それだけで心が温かくなる。
優しさを、元気を分けて貰えたような気分になるのだ。
「どういたしまして」
そう答えると、美月ちゃんは
「でもまだ二人で遊びに行ったりとかはしてないの」
と結構高い目標を口にした。
でも、美月ちゃんならいずれその夢を叶えることができるだろう。
…羨ましい。僕が相手だったら藍那は絶対に了承しないだろうから。
そんなことを考えていると、美月ちゃんは周りを気にした後、ふふと微笑んだ。
「ねえ、綾君は―藍那ちゃんの何処が好きなの?」
おっと。その言葉に僕はドキリとする。
これはばれているのだろうか、それともカマをかけられているのだろうか。
いやおそらくは、前者だ。
カマかけなんて卑怯な手を、美月ちゃんは使わない。
「なんで気づいたの?」
本人も気づいていないのに、美月ちゃんが気づくなんて。
笑ってそう言えば、美月ちゃんは人差し指を立てて頬に当てると言った。
「私、藍那ちゃんとずっと仲よくなりたいって思ってたでしょう?
 だから分かったの。綾君も藍那ちゃんに近づきたいって思っているんだなって」
「近づこうとして後退ばかりしてるけどね」
「そんなこと・・・」
「藍那は別に好きな人がいるから」
勿論その相手の名前を口には出さなかった。
ただそう言ってしまった後に、少し後悔をした。
こんなことを美月ちゃんに話すべきじゃなかったかもしれない。
二人とも同じ人を想っているのだから。
「そっか、藍那ちゃんも恋をしているんだね」
いつかは、美月ちゃんも知ることになるかもしれない。
藍那も千里のことを想っていることを。
こんなにも彼女と仲良くなったことを喜んでいるのに。だから、願う。
「美月ちゃん、この話はこの場限りにしてね」
まだ知らないでほしい。気が付かないでほしい。
長い間切望して願った美月ちゃんの幸せが、崩れてしまわないように。
「あ、チャイム」
間合いのよいところで、チャイムが鳴った。
僕と美月ちゃんはお互いの顔を見た後、そっと自分の席へと戻った。



応援の練習の後、僕は周りに注意を払いながら特別塔に向かっていた。
誰の気配も感じないのを確認して、情報室の扉を開けて中に入る。
もう馴染みになったこの場所に、僕は一つの決心をして訪れていた。
パソコンが並んでいる机の傍に歩いていき、足を止める。
ラビットメールのポストは閉じられている。
ここの鍵は僕が持っている。
だから僕しか本来は開けられないはずだった。
しかし始業式の日、鍵をこじ開けた人物がいた。
それが誰かは分からない。
あれ以来、こじ開けられた様子はない。
だが、いつまたそうされるか分からない。
もしも、ラビットメールに投函された手紙を盗まれたり悪用でもされたら?
その可能性があるならば、このポストを閉鎖するしかなかった。
制服の胸ポケットに入れておいた小さな付箋を取り出した。
美衣に貰った、可愛らしい付箋。
そこには不思議のアリスをモチーフに、兎と時計が描かれている。
それを引き出しに張り、僕は持っていた黒ペンで文字を書いた。

Close.You'll see me in another place by Rabbit mail.  (また別の場所で会いましょう)

ラビットメールを辞めるつもりはない。
しかし、このポストはもう使えない。
実は前々から移動の計画はあった。
あまりにもこのポストが知られすぎて、受信するスピードが速くなったからだ。
今は大丈夫だが、いずれ追いつかなくなる。
そしたら一つ一つの手紙に真摯に向き合えなくなってしまう。
それでは意味がない。
僕は机の上に、鍵を置くと部屋を後にした。
教室に戻ると僕は鞄から携帯を取り出し、藍那の電話にコールをする。
机に鞄がかけられていないのを見れば、家に帰ってしまった可能性が高い。
5コールほどした後、藍那は電話に出た。
『・・・もしもし?』
「もう、家?」
『うん。もしかして何か話でもあった?』
「昨日電話した後に、分かったことがあって」
『え?何が分かったの?』
藍那の声は、何かを期待しているかのように弾んでいる。
それもそうだろう。
昨日、一番可能性の高かった一年生の笹野瑛斗が染山莉那の弟でないと知って、
そして染山莉那が手紙にネガティブな反応を示したことを、ひどく残念がっていた。
進展を望んでいるんだろう。
でも今から告げる事実は、更に彼女を落胆させるに違いなかった。
それが分かっていたから僕は一度ため息をついて、努めて冷静に言った。
「染山莉那に、弟は存在しない」
『・・・・・・』
電話越しに、藍那が絶句しているのが分かった。
しばらく無言が続き、やがて藍那の動揺した声が聞こえてきた。
『それ、どういうことなの?存在しないって、なんで』
「染山莉那の弟に成り得る人物が一人もいないんだ。少なくともこの学校には」
『それなら、違う学校?』
「違う学校の生徒が、ラビットメールのポストをわざわざ使用しないよ。
 誰かに頼んだっていう可能性もないわけではないけれど、
 それなら、手紙が届いていないという状況を見てあんなメモを書き残したりしない」
『じゃあなんだっていうの?悪戯?』
「僕にも、分からない」
素直にそう言えば、少しの無言の後、『ごめんなさい・・・そうよね』という小さな声が聞こえた。
「それで、今日の染山莉那の様子はどうだった?」
『先輩、今日も練習を休んだの』
藍那のその言葉に僕は口に手を当てて、思考する。
練習を休んだ染山莉那。
本当に弟が存在しないのなら、あの手紙が悪戯であったなら、そこまで動揺するだろうか。
『どうしたらいい・・・?』
本来はラビットメールは手紙を渡すまでが一連の仕事で、その後のケアはほとんどしない。
だから今回ももう手紙を届けてしまった時点で、後は依頼者に任せるしかないのだ。
そう、本来は。
僕は考えた末、藍那に言った。
「もう少し探りたい。染山莉那に話を聞くことはできる?」
藍那もこのままでは終われないと思っていたらしい、
すぐに「やってみる」という返事が返ってきて電話は自然に切られた。



→ menuに戻る
→ net novel ranking
スポンサーサイト

Comment - 0

Latest Posts

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。