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5-3 まだ見ぬ君をさがして(3)

 02,2017 18:53



土曜日から水曜日までの長かった連休が終わり、
体育祭まであと僅かとなった木曜日。
ようやく染山先輩は球陣の練習へと戻ってきた。
陣員の前で頭を下げ、
「練習休んでごめん。あと二日、死ぬ気で練習するから」とそう言った先輩は、
その言葉通り、いつもよりも活気に溢れた様子で練習に励んでいた。
ただし、死ぬ気で練習する羽目になったのは私を含め、後輩陣員だったけれども。
それにしても。
「あー!どうしよう!」
球陣の練習が終わった私は、自分の教室へ戻ってきて頭を抱えて叫んでいた。
ここ数日、先輩の弟について得られた情報は何もなかった。
明日は体育祭なのに、何の成果ないなんて。
「・・・何の役にも立ってないじゃない」
そう声を上げた時、後ろからガラッと扉が開く音が聞こえた。
「?どうしたの、藍那ちゃん」
その声を聞いて、余計に頭を抱えたくなった。
ああ、振り返らなくても分かる、愛澤美月だ。
私は何事もなかったように、そっと手を頭から離すと愛澤さんの方を見た。
「愛澤さん…まだ残ってたの」
にこり、と笑ったつもりだけれどおそらく顔は引き攣っていると思う。
だって無人の教室で頭を抱えて叫んでいるなんて・・・変質者だ。
とにかく、さっきのことを上手く誤魔化さなくてはいけない。
そう思って口を開こうとした所で、
「藍那ちゃん、何か悩んでいることがあるの?」
と真剣な顔で先手を打たれた。
そんな澄んだ可愛い目で見られると・・・ああ、上手く誤魔化せない・・・。
「ちょっとね・・・」
勿論先輩の家庭環境のことや、ラビットメールのことは言えない。
だけど下手に嘘をつくと確実にいつかぼろが出る。
そう思って、
"手伝いを頼んできた人(新倉君)がいて、
お手伝いというのがとある困っている人(先輩)を助けてあげること"
と、かなり掻い摘んで説明をすることにした。嘘はついていない。
すると愛澤さんはうんうんと相づちを打ちながら、私に言った。
「そっか。藍那ちゃんは誰かのために頑張ってるんだね」
「うん、まあ・・・でも役に立てないのが悔しくて」
「役に・・・誰の?」
「・・・ん?」
愛澤さんの言葉が理解できなくて、何度か瞬きをして私は首をかしげた。
すると愛澤さんも同じように小首を傾げて、大きく丸い目で私を見つめ返してきた。
いちいち可愛い。
「藍那ちゃんが一生懸命なのは話を聞いていて分かるんだけど、
 ・・・藍那ちゃんはその"手伝いを頼んできた人"と、"困っている人"、
 どちらの…誰のために頑張っているのかな?って」
「え?」
思わず、言葉に詰まった。
誰のため?
愛澤さんは小首をかしげて真っ直ぐに私を見た。
誰のって…。
新倉君と先輩のどちらのためかって…そんなの決まってる。
「困っている人の方だよ」
「そっか。
 役に立つなんて言っていたから、頼んできた人のためなのかなって思っちゃった。
 そしたら、その人は藍那ちゃんにとってどんな人なのかなぁって」
私は愛澤さんの話を呆気に取られながら聞いていた。
先輩の為だと思っていたし、実際そうだ。
でもラビットメールの存在意義が少しずつ分かるようになってきて、
新倉君のやっていることを否定できなくなったどころか、
自分にできることがあれば協力してもいいんじゃないかって思っているのも事実だった。
でも、だからって新倉君の為だなんて悔しくて言いたくない。
新倉君が私にとってどんな人かだなんて、そんなこと、
「分からないよ」
そう言った時だった。タイミングよく教室に入ってきた人物がいた。
「あれ、美月ちゃんまだ帰ってなかったの・・・って藍那も?二人で何してるの」
「綾君、お疲れ様!」
新倉君だった。
さぁっと血の気が引いた気がした。心臓が早鐘を打つ。
タイミングよく…じゃない、タイミングが悪すぎる!
「えっとね、今ー・・・」
愛澤さんの言葉にはっとする。今の話題、新倉君に聞かれたくはない。
そう思って愛澤さんの声に被せるように私は声を張り上げて言った。
「新倉君、お疲れ様っす!!!」
無情に教室に響く自分の声。二人の刺すような視線。
ああ・・・私の阿呆。
新倉君は一瞬怪訝そうな顔をした後、苦笑いをしながら「うん、お疲れ」と言った。
何かを感じとったに違いない。
だけど空気を読んだのか、それ以上詮索してくることはなかった。
微妙な空気の中、不意に愛澤さんが「あっ」と声を上げる。
「私、もうそろそろ帰らないと」
そう言うと、愛澤さんは私と新倉君に可愛く手を振り、教室を出ていった。
必然的に教室に残される私と新倉君。
先に口を開いたのは新倉君の方だった。
「本当に一学期の時のことが嘘のように、美月ちゃんと仲よくなったね」
「仲がいいかは分からないけど、普通には話せるようになったみたい」
「いいことだと思うよ」
そう言って新倉君は優しく微笑んだ。
どうしてそんな笑みを私に向けるんだろう。
愛澤さんの希望が叶ったから?
前々から思っていたけど、やっぱり新倉君は愛澤さんのことが好きなんだろうか。
…いやいい、これ以上考えるのはやめよう。
「それよりも、明日は体育祭だっていうのに・・・結局先輩の弟は分からないまま。
 私はどうしたらいい?」
今の最大の問題はこれだ。
染山先輩の弟は体育祭にこだわっていた。
体育祭が過ぎたらもう名乗り出てこない予感がする。
先輩は、恨んでなんていないのに。どうやったらそれを伝えてあげられるんだろう。
「どうすれば、先輩を助けてあげられる…?」
私が伝えなくてはいけないのに、私が絶対に。
どうしていいか分からず俯いていると、すぐ近くから新倉くんの声がした。
「君に負担をかけすぎたかな」
いつの間にかすぐ隣にいた新倉君が私を心配そうに覗き込むと、
手をそっと私の方に向けてきた。
わけが分からず、じっとしているとポンと優しく頭を叩かれた。
「まだ明日、体育祭が終わるまで時間がある。
 どうしても名乗り出てこないのなら僕にも考えがあるから。
 大丈夫、全部を君に背負わせるつもりなんてないよ」
温かい。
その言葉はまるで魔法のようだった。
どうしたらいいか分からなくてずっと悩んでいたけれど、
その不安な気持ちがすっと軽くなった気がした。
「―・・・ありがと」
そう素直に言えば、新倉君は「ははっ」と笑った。
「君が僕に対して弱気だなんて珍しいね。
 その調子じゃ球陣負けちゃうよ?」
「・・・何よ!そんなことないわ。やる気は十分なんだから!」
「へえ?球技の苦手な君がどれだけ生き残れるか、楽しみにしているよ」
「なんですって?」
いつの間にかいつもの調子に戻っていた。
それが、新倉君の気遣いだということに気が付かないほど鈍感ではない。
撫でられていた場所がまだぽかぽかと温かい。
だけどそれに気づかない振りをして、私は新倉君の調子に合わせた。
「あなたも、似合わず応援団員になんてなって!
 先輩達に呑まれないか、しっかり見ててあげるから!」
べっと舌を出して言えば、新倉君はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「へー"しっかり"僕のことを見ててくれるんだ?」
「勘違いしないで!応援はしないから!!」
新倉君はまだ可笑しそうに、口元を押さえると自分の机から鞄を取り、私に言った。
「とにかく、明日はラビットメールの件もそうだけど、僕らは僕らで体育祭を楽しもう」



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