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5-4 体育祭(4)

 18,2017 14:59



◆ ◆ ◆

「綾ーお疲れ!」
「そっちも、お疲れ様」
体育祭が終わり、僕らは後片付けに追われていた。
「体育祭自体は別にいいんだけど、こればっかりはめんどうだよなぁ。
 あ~!でもすっげー楽しかった!」
隣でヨシが叫んだ。
ちなみに白団の圧勝かと思われた球陣は、
赤団大将である片桐先輩の獅子奮迅の活躍に逆転優勝をした。
更に僕も参加していた応援合戦が準優勝をし、赤団は総合優勝までしてしまった。
「綾の応援団員姿、よかったぜー!キリッとしてて」
「ありがとうヨシ。褒めてくれて嬉しいけど、とりあえず手を動かして」
「はーい。あ、綾ちゃん、倉庫行くならこれもついでに持って行って」
「うん、分かった」
僕はヨシから案内板を受け取ると、倉庫へと向かった。
その道の途中、三年の先輩達が群れをつくり、写真を撮り合ったりしているのを見かけた。
最後の体育祭、先輩達にとっては今日はかけがえのない一日だったに違いない。
それを横目で見ながら、僕は人気の少ない倉庫への小道に入る。
運動部の部室が並んでいるが、人気がなく誰の声もしない。
やがて倉庫に辿りつくと、僕は一度看板を地面におろし、倉庫の扉を開いた。
ガラリという音が響き、
「え・・・藍那?」
僕は扉を掴んだまま、三秒ほど固まってしまった。
まさか倉庫に先約がいるとは思わなかったし、
しかもいたのが藍那だったのだ、驚かずにはいられない。
藍那も僕の方を振り返り、目を丸くしている。
「君、何でこんなところにいるの?」
「・・・何でって片付けをしているからに決まってるじゃない」
見れば、藍那は散らばった大量のポールを幾つかにまとめようとしていたらしい。
確かにこれだけのポールがそのまま置かれていたら、他の備品が置けない。
僕の運んできた看板も結構な大きさだし。
「僕も手伝うよ」
「当然よ」
ここで「ありがとう」という言葉が出てこないのがとても藍那らしい。
いや、僕が相手だからだろうけど。
ラインパウダーの入ったダンボール退かしながら僕は藍那に言った。
「依頼の件、お疲れ様」
「・・・うん」
「今回はほとんど君が頑張ってくれたね、ありがとう」
「私はあまり何もしてないよ。なるようになっただけだと思う」
藍那はそう言って謙遜をした。
僕は首を横に振った。
なるようになったわけじゃない、状況を変えたのは間違いなく藍那だ。
競技中、何を言っているかはこっちまでは聞こえなかったけど、
藍那は野原心美に何かを叫んでいた。何かを訴えかけていた。
その時の野原心美の表情を、揺れる瞳を、僕はこの目ではっきり見た。
何もしてないなんてことはない。
君が心から野原心美に語りかけたからこそ、彼女は前へ進むことができたんだ。それに。
「陣員になったこと自体、君はラビットメールに大きく貢献したことになるよ」
初めの頃の藍那なら、絶対に陣員にはなっていなかっただろうから。
それには藍那も同意した。
「そうね。球陣は何と言うか、私には荷が重い競技だった」
「でもよく頑張って逃げてたね」
「それって褒められることなの? ・・・ねぇ、そういえば球技中にあなた・・・」
藍那はそこまで言うと、急に口を閉ざした。
眉をひそめて、僕を怪訝そうに見ている。
「どうかした?」
「・・・何でもない」
「でも何か今僕に聞こうとしなかった?」
話を露骨に切ったのが気になったから食い下がって聞くと、
それが気に食わなかったらしく、藍那はキッと僕を睨んで言った。
「何でもないってば!しつこいわね!」
辛辣だ。
怒らせて嫌われるのも堪えるので、これ以上追及するのは止めよう。
藍那は、はぁとため息をつくとポールを移動させながら言った。
「でも、陣員になってよかったって思ってる。
 優勝も準優勝もできなかったけど、皆で一つの目標に向かって頑張ることもできたし、
 野原さんと染山先輩が分かり合えるのを傍で見ることもできた。
 私にとっても、今日はいい思い出になると思う」
「君なりに楽しめた?体育祭」
「うん。去年は終わった後も何も感慨も湧かなかったけど、今年はとても楽しかった」
そして藍那はボソリと呟いた。
「・・・千里の和装も見れたし」
藍那はそう言って頬を赤らめた。
「ああ、あれ凄かったよね」
僕は青団の応援合戦を思い出す。
青団の応援団員は定番の学ランではなく、和装だった。
それだけで他の団よりも人目を引くものがあったが、更にその中でも一人、
圧倒的なオーラで見る人を魅了する人物がいた。千里だ。
もとより彼は袴などを部活でよく着衣してるが、あれは反則だ。
色気と、男らしさと、そして和風の雅さと、男の僕でも見惚れてしまいそうだった。
「千里に告白する人、また増えるんじゃない?」
「嫌味な男ね、あなたって。
 ところで・・・私の手紙は本当に返してくれるのよね?」
「……急にどうしたの?」
藍那が千里に宛てた、手紙。
内容は単純明確なラブレター。
彼女が送るつもりもなく、でも気持ちを抑えきれなくて書いたもの。
それを預かって、三ヶ月が経つ。
「半年の手伝い後、返すって約束したよね?」
「本当なの?それ」
「約束は守るけど・・・」
最近は手紙について触れてこなかったのに、急にどうして確認してきたんだろう。
千里に告白が増えると、言ってしまったから?
もしかして。
「まさか君、本気で千里に告白する気になったの?」
藍那は手に持っていたポールを下ろした後、無言で僕の方を振り返った。
そして真剣な目で僕を見つめ、やがて首を横に振った。
ガサリと倉庫の中の物が落ちたのだろうか、物音がしたが、
まっすぐに僕を見つめる彼女から視線が外せなかった。
「もとより千里に伝えようなんて思ってないよ。
 私は臆病だから。前にも、後ろにも進めない」
こんな片思いを一体いつまでしたらいいんだろう、そう言って彼女は自虐的に笑った。
「・・・・・・」
僕は何も言わなかった。
何も言えなかった。
やめたらいいとも、頑張ればいいとも。
今も昔もそうだ。彼女にとって何が最善の慰めなのかを、僕は知らない。
傷つけたくないから見守る事しかできないなんて、なんて無力なんだろう。
「と、とりあえず」
沈黙に耐え兼ねたのか、藍那はわざとらしく明るい声で言った。
「今回の件も一件落着でよかったね!じゃあ、私は教室に戻るから」
脇目も振らず、彼女は教室の方へと駆けていった。
そうこの時、もう少し彼女が周囲へ注意を向けていたらきっと気づけていたのかもしれない。
倉庫傍で呆然と、立ち去るにも立ち去れないでいた彼女に。
「さて、僕も戻るかな」
倉庫を出た僕は、ふと誰かの気配を感じて、校舎とは反対の方に視線を向けた。
その瞬間、心臓が止まるかと思った。
倉庫の横にしゃがみ込みこんでいる少女がいた。
少女は僕に気が付き、視線を上げる。
僕は彼女の名前を呼んだ。
「美月ちゃん・・・」
美月ちゃんは、泣きそうな顔で僕を見つめて言った。
「綾君、今の話は本当なの?」
何も言えないでいる僕に、彼女は繰り返す。
「藍那ちゃんは、千里のことが好きだったの?」

この日ようやく美月ちゃんは知ったんだ。
何故今まで藍那が自分を避けていたのか、を。
そして自分が友達になりたいとずっと願っていた藍那と、
同じ人に恋をしてしまったんだということを。

<5th mail ...complete>



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