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2-1 狩人のセンリ(2)

 07,2016 19:36



鳥が鳴く声が聞こえ、私はそっと目を開けた。
木漏れ日が顔へと落ちてきて、思わず手で目を覆う。眩しい・・・。
「あれ・・・、朝?」
そっと体を起こすと、視界には深い緑がたくさん飛び込んできた。
私ははっとして息をのんだ。そうだ、ここはサーヴァリアの森だ。
王子と別れてから、魔女に会いに行こうと森の中を歩いて…そうだ、虎に襲われたんだ。
「・・・起きた?」
「きゃっ!?」
寝起きの頭で必死に記憶を辿っている私の前に、一人の青年が突然現れた。
…もっと正確に言えば、木の上から降ってきた。
軽々しく着地したところを見れば、怪我はなさそうだ。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど」
「いえ…大丈夫。あなたは…」
少し罰が悪そうな表情をしている青年を見つめる。
"綺麗な男の人"、それが第一印象だった。
灰色がかった綺麗な鶯色の髪は肩につくほどの長さで、首の後ろで小さく一つに縛られており、
瞳は落ち着いた緑―常盤色をしていて白っぽい肌に映えている。
そして簡素な焦げ茶色の服を身に纏っており、担いでいるのは弓筒だ。
歳は自分と同じか、少し上だろう。
背はもしかしたらイズミ王子よりも高いかもしれない。
「気分はどうだ?」
「疲れは大分とれたように思います」
「そうか」
この人は、昨晩のあの人だ。
虎が襲いかかってきて、もう駄目だと思った時にこの人が現れた。
「あなたが虎から私を救ってくれたのよね?」
彼は私の横にドサッと音を立てて座ると、私の方に向き直った。
「ああ。危ないところだったな」
「はい…本当にありがとうございました」
獲物を狙う鋭い虎の目を思い出して、私は身震いをした。
あの時にこの人が現れなかったら、きっと私は死んでいただろう。
「俺が居合わせたのは不幸中の幸いだったな。
この森は危ない。危険な生物が至る所に徘徊している。
…なんでこんな危ない場所に一人でいるんだ? ― 迷い込んだのか?」
私は静かに顔を横に振った。
「いいえ、私は自分からこの森に来ました」
「自分から?この森がなんて言われているか知っているのか?」
「・・・”サーヴァリア、魔女の森”」
私の言葉に青年は眉を顰め、酷く驚いたような顔をして私を見た。
そして低い声で私に囁く。
「ここが魔女の森だと知って自分からやってきたのか?・・・正気の沙汰とは思えない」
彼の口調ぶりから、やはりこの森は危険な魔女の森なのだと改めて実感する。
「昨晩怖い思いをして分かっただろ、ここはお前みたいなか弱い奴が来る場所じゃない。
森の入り口まで送ってやるから、早くこの森から出ていけ」
そう言うなり彼は立ち上がり、木の傍に置いていた弓を持つと
私の腕を掴み無理やり立たせようとした。
でも私は体に力を入れてそれを拒んだ。
「・・・帰らない」
「!何を馬鹿なことを」
「だって、帰れないの!」
きっと昨晩のような危ないことがこの先幾つも待っている、そう分かっていても。
「・・・一体この森に何を求めている?何を探している?」
浅はかだと思っているのだろうか、青年は鋭い目で私に追求した。
私はその視線を逸らさなかった。
真っ直ぐに青年を見返して、私は答えた。
「魔女を、探している。
魔女にかけられた魔法を解くまで、この森からは帰れない」
「・・・・・・」
「だから、手を離してください。
救ってもらって、心配してもらって、なんて恩知らずかと思うけれど」
そう私は彼に懇願した、けれども彼は私を見つめたままで手を離してくれる様子がない。
訳が分からず戸惑う私に彼はやっと口を開いた。
「魔女が魔法をかけたと言ったな?どんな魔法を?」
青年はそう言うと、再び私の横に座った。
握られた手はそのままで。
次第に熱くなってきたそこに一度目を落とすと、私は彼を見た。
事情を話さない限り、手を離してくれないらしい。


私はゆっくり話し始めた。
自分は一国の姫でずっと思い慕う王子がいること、そして昨晩あった辛い夜のこと。
青年は静かに話を聞いていたが、話が終わると私に言った。
「その魔女のことはよく知っている」
「・・・え?」
「俺の幼馴染だ」
…幼馴染!?
予想だにしなかった事実に私は唖然と青年を見つめる。
「ということは…あなたは魔女の仲間なの?」
「いや…仲間とは少し違う。俺はあいつの母親に拾われ、育てられた。
だからあいつとは血のつながっていない兄妹のようなものだ」
一緒に育った…ということは、一緒に住んでいるということ?
そこで私はずいっと体を前に乗り出して、青年に聞いた。
「それなら魔女の居場所を知っているのね?!」
「・・・いや」
しかし青年は顔を振る。
「あいつの家から俺は追い出されたんだよ、数週間ほど前にな。
それから急に森の地形が変わった。
おそらくはあいつが魔法でそうしたんだろう。何の為かは分からないが」
「そう…なの。手がかりはないのね」
青年の言う言葉が本当なら、魔女を見つけるのはやはり容易くなさそうだ。
それならば少しでも早く、出発しないといけない。
「ねえ、話したからいいでしょう?私そろそろ行かなくちゃ」
空は薄い水色をしている。
森が深いために、空は木々の隙間から覗くようにしてやっと見えるほどだった。
こんな場所でまた夜を迎えたら、昨晩のようなことになりかねない。
そう思って私は彼の腕を振りほどくと、立ち上がった。
「ごめんなさい」
「…待て」
そして走り出そうとするも私の腕を、またもや彼は掴んで引き留めた。
振り返れば、同じように立ち上がっていた彼が私を見下ろしていた。
焦って私は声を荒げた。
「っ・・・私は行かなきゃいけないんです!離して!」
「落ち着いて。もう止めるつもりはない、行きたければ行けばいい。
だけど、俺も行く」
「え・・?」
「俺も探しているんだよ、あいつを ―アイナを」
アイナ、それが魔女の名前らしい。
「俺はあいつから取り返さなきゃいけないものがあるから。
それなら目的は違うが向かう場所は同じだろ。
・・・一人でこの森は抜けられないと思うけど、どうする?」
ふっと体から力が抜けた。
狡い言い方だな、と私は笑う。
土地勘のない非力な私だけでこの森を往くのと、
虎を倒せるほどの力を持つ青年と二人で往くのとでは、
どちらがいいかなんて考える余地もなかった。
私は素直に頭を下げた。
「よろしくお願いします。私は、―オネットと呼ばれてます」
「オネットか、いい名前だな」
そして青年は優しく微笑んだ。
「俺はサーヴァリアの狩人、 センリだ。よろしくな」
初めてみたセンリの笑顔はとても優しく、まるで王子を思い出させるような笑顔で、
私は胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
「はい」
そして私とセンリは歩き出した。

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