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6-1 すれ違いベクトル(1)

 09,2018 22:57



6th mail 運命と赤い罠

1

「ねぇ、ラビットメールが手紙を届けてくれたよ!」
「例のポストはもう閉鎖されちゃったんじゃなかったの?」
「新しいポスト見つけたの!」
体育祭が終わり、10月になった。
少し暑さもやわらいで、過ごしやすくなった火曜日の午後。
昼休みのA組にD組の岡崎さんがやってくるなり、中島さんと楽しそうにそんな会話をしていた。
岡崎 芹菜。
会話をしたことはないけど、顔と名前は知っている。
ちなみに誰が好きで、どんなラブレターを書いたかも知っている、
なんて言ったらストーカーのように思われるかもしれない。けど、これには事情がある。
私は前の方の席で談笑している男子の群れ―その内の一人、新倉綾に視線を向ける。
新倉綾は、 岡崎さんには気にも留めず、千里達との話に夢中になっている、
ように見える。
だけどよく見れば、時々、チラリと視線を岡崎さんの方に向けているのが分かる。
「・・・知らないふりしちゃって」
体育祭の後、新しいポストの場所が決まった。
場所はほぼ変わらない、特別塔の2階奥、廊下にある使われていないロッカーだった。
二日だけ兎のシールを貼っておいたら、やはり目聡い生徒は気づいたようだった。
翌日にはすぐに一通の手紙が入っていて、
それが2年D組の岡崎 芹菜さんのものだったわけだ。
内容はシンプルなラブレター。
私と新倉君はいつものように調査をし、想いが実りそうだということで手紙を届けた。
結果は勿論成功だった。
「藍那ーただいま」
「おかえり、依織」
食堂にパンを買いに行っていた依織が帰ってきた。
私の前の席に座ると、袋からパンを取り出して机の上に並べていく。
カツサンド、フレンチトースト、ジャムパン・・・え、こんなに食べるの。
正直カツサンド一つだけでも結構なボリュームだよ?依織。
小柄な体の何処にそれが入っていくのか知りたい。
「そういえば次の時間のHRで、学園祭のクラスの出し物決めるんだよね?」
「そうそう。実行委員が今、くじ引きに行っているから」
来月の頭には学園祭が開かれる。体育祭が終わって数週間も経っていないけれど、
今から準備を始めないと、きっと間に合わない。
そして出し物はというと・・・各クラスの実行委員がくじで決めることになっていた。
種類は主に4つ。飲食を取り扱った模擬店、お化け屋敷や巨大迷路などのアトラクション、
あとはクラスで一つのテーマを発表する展示(上映)系と、ステージ発表系だ。
「依織は何がいいと思う?」
「そうだね、無難に模擬店かな。メイドカフェとかはそういうのは御免だけど。
 あーでも美月ちゃんがいるから、男子がそっちの方に話を持っていきそう」
「愛澤さんだけが着るならともかく、私達が着てもね」
「似合わないよね」
お互いのメイド姿を想像して笑う。
でも、依織なら小柄だからわりと似合うと思うけど、
口を尖らせて不機嫌な表情でいるのが想像できてしまう。
「まぁ・・・でもステージ発表系じゃなければ何でもいいかな」
パンを頬張りながら、ぼそりと依織が呟いた。


「みんなー着席ー!」
A組のお祭り男― 大倉君と、大倉君に負けないぐらいエネルギッシュな井上さんが、
教室の教壇に立ち、クラスの皆に言った。
「大倉、くじ引きどうだったんだよー!」
「まともなの引いてきたかー?」
大倉君は、ふふんと鼻を鳴らして小さく折りたたまれた紙をポケットから取り出した。
「じゃあ、今からお前らに発表する!」
そう言って大倉君は、紙を広げ始めた。
皆は固唾を飲んでその様子を見守る。
やがて大倉君は、広げた紙を皆が見える様に前に突き出して言った。
「"休憩スペース"・・・つまり準備物は一切なし!
いやー、俺まじでくじ運強すぎねぇ?」
得意気にそう言う大倉君の横で、井上さんも上機嫌で言った。
「クラスで何もしないのは寂しいし、面白みに欠けるけど、
部活の方の出し物に専念したい者はすれば良し、
そうじゃない者 は大いに他のクラスを周って遊び放題!!!
好きな人と回って思い出を作る時間も沢山ある!
普段、勉強ばっかりしてるからってきっと神様が私達にくれたご褒美だわ!」
盛り上がっている大倉君と井上さんを余所に、他の生徒は沈黙した。
休憩スペース、…ということはつまり。
稲垣君が呆れたように、大倉君に言った。
「何処がくじ運強いんだよ、ヨシ。
お前休憩スペースの意味知らないの?」
「ん?知紘、休憩スペースの意味って・・・・・・?」
稲垣君は後ろの席に座っている千里の机を、コンコンと指で叩いた。
説明を千里に丸投げしたらしい。
千里は一つため息をつきながら、答えた。
「休憩スペースは、ステージ発表のことだよ、ヨシ」
大倉君と井上さんが顔を見まわせて、何度かパチパチと瞬きをした。
コントのようなやり取りをした後、二人は叫んだ。
「「えーーーーーーー!?」」
A組の全生徒が大きくため息をついた。
「どうして休憩スペースがステージ発表になるの!?」
「ステージ発表は、主に部活動の発表が多いんだが、
1つだけクラス単位での発表がプログラムの中に組み込まれる。
その分、そのクラスの教室が休憩所になるっていうだけなんだ」
千里がそう説明すると、新倉君がそれに付け足した。
「で、4クラス×3学年、つまり12分の1の確率でそれをヨシが引いたってわけだよ」
知らなかった事実に衝撃を受けたような大倉君と井上さん。
流石に堪えているらしい…と思ったのも束の間。
大倉君はバアンと机を叩いて言った。
「そうか、そうなのか!このA組にステージ発表が課せられたのか!
これも運命ってやつだな!よしお前ら、今こそ皆が団結して一つになる時!
全体未聞のステージ発表を繰り広げてやろうぜ!!!!」
「そうね!学園祭で何もしないなんて勿体ない!青春は今!今なのよ!」
「「「・・・・・」」」
クラス皆が、揃って頭を抱えた瞬間だった。
気持ちの切り替えが早いといえばいいのか、ポジティブと言えばいいのか。
呆れて誰も言葉が出ない中、大倉君は高揚したまま話を続けた。
「ステージ発表といえば劇だな!劇!
明日の放課後まで、クラスにある意見箱にやりたい劇を書いて投票してくれ!」
誰も異を唱える元気はなかった。
こうして2年A組はステージ発表が決定し、項目はまさかの演劇となった。



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