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2-1 狩人のセンリ(3)

 11,2016 21:38



「あなたが魔女に奪われた物は何?」
今歩いている道は、道と呼んでいいかも分からないほどの獣道だった。
でこぼことした地面は体力を奪っていく。
センリと横に並んで歩くと、やはり次第に私が遅れ始める。
それに気が付いているようで、センリは何も言わないが時々休憩を入れてくれた。
そして本日何度目か分からない休憩の時、私はセンリにそう聞いたのだ。
「奪われたものは、母親の形見のペンダントだ」
少し目を細め、センリはポツリと呟く。
「形見・・・どうしてそんな大切な物を…?」
それを聞きたいのは奪われたセンリの方かもしれない。
けれど思わずそう聞いてしまった私にセンリは微かに笑って言った。
「分からない。でも理由がどうであっても、取り戻すつもりだ。
あれは母が俺に残した唯一の物だから」
その言葉に切なさを覚える。
どうして魔女は酷いことばかりするんだろう。
人の幸せや大切なものを奪うのに、どんな意味があるのだろう。
このままではいけない、私も、センリも。
「・・・絶対に取り戻そう」


森を彷徨い始めてから二日目の夜が来た。
今晩は雨が降っていた昨日と違って、天候はさほど悪くはない。
しかし日が落ちてからは気温が急激に下がり、冷たい空気が森中を包んでいた。
月は雲に覆われ、暗い夜の森は不気味なほど静まり返っている。
怖いと思った。十年間この森に通い続けていたのに、初めて"怖い"と思った。
早く朝が来てほしい。
私は腕をさすりながら、そう願った。
「水を探してくる。すぐに戻るから此処で待ってて」
火をおこした後、センリが鞄の中から瓶を取り出しながら私にそう言った。
「一人で行くの…?」
「ああ」
私はセンリを見つめる。
昼間、私たちは歩きながら食べられるキノコや木の実、果物を採取した。
だから明日の朝までの食料は十分ある。
しかし、彼が言うように水は随分と不足していた。
喉の渇きを潤すためだけでない、調理をするのにも水は必要だ。
水を探しに行かなければいけない。
そんな状況は分かっていた。
そして体力のない私が一緒に行っても足手まといになるだけ、ということも。
頭では分かっている。でも私は堪え切れずに言った。
「行かないで」
思い出すのは昨晩の事だった。
もし、彼が行った後にまた何かが襲ってきたら?
そうでなくても、この不気味な暗闇の中で一人でいるのは怖かった。
この森はもう私が知っている森ではないのだから。
センリは一瞬何かを考える素振りをした後、私に言った。
「大丈夫だよ、オネット」
「・・・?」
「見てて」
センリは右手を空に掲げると、小さく何かを唱えた。
その瞬間、彼の手からは蒼い光が広がり、それはまっすぐに私の方へ伸びると、
私の体を優しく包んだ。
そして驚いて言葉ができない私の両目をセンリは自分の手で隠す。
「――――」
「?センリ・・・?」
「・・・怖がるものは何もない、オネット」
その言葉と共に、センリは私の目から手を離す。
私は目を開けた、そして。
「・・・・・・え?どうして!?」
思わず大きな声を上げた私は、自分の目の前に広がる光景から目が離せなかった。
そこにあったのは一面の花畑。
あの湖のように、色取り取りの花が地を埋め尽くしていた。
信じられない光景からようやく視線をセンリの方へと向けると、彼は優しい笑顔で笑っていた。
「これはセンリが?・・・あなた魔法が使えるの!?」
「ああ。といっても俺ができるのはこの魔法だけだけど」
「でも森をこんな風に変えることができるなんて、そんなこと」
「・・・いや」
センリは顔を横に振ると、そっと自分の足元に咲いていた花をそっと千切り、私に渡した。
薄黄色した小さな花だった。
「触ってみて」
それを受け取ると、私ははっと息を飲んだ。
手に感じたのは予想していた花びらの柔らかさではなく、かさついた葉の感触。
確かに見た目は花なのに。
「俺はこの森を変えたわけじゃない 。
目の前に存在しているのは確かにサーヴァリアの森だよ」
「でも私にはお花畑に見えるわ」
「それは俺が森にではなく、お前の目に魔法をかけたから。
俺は何かを違う物質に変えるなんてできないけど、見える視界を変えることはできる。
目をくらます幻術のようなものだよ」
さっき私の目に触れたのはそういうことだったらしい。
今も私の目には怖い森ではなく、明るい春のような森が映っている。
だけどそれは全て幻らしい。
「ただそれだけでは勿論、獰猛な生物に見つかってしまう。
だからもう一つ魔法をかけておいた」
もう一つ。私は少し考えてた後、あっと声を上げた。
「最初の蒼い光、あれかしら?」
「そう、あれはオネットの体全身にかけたんだ。
体が透明、つまり周りからは何も見えないという魔法をね。
勿論術者である俺には見えるけど」
私は自分の体を見てみた。
そこにはちゃんと手や足、体がある。私自身には見えるらしい。
「これなら大丈夫だろ?」
私は頷いた。
すると満足そうに彼も頷き、私を見つめると手を私の方へと伸ばす。
頭にふわっと優しい感触がした。
「ただ、さっきも言ったように”消えている”わけじゃなくて”見えない”だけだ。
だから感触もあるし、匂いもある。だから嗅覚のいい動物が近づいてくる可能性もある。
もしも、危険だと思ったら叫んで」
そっと頭を撫でながらセンリは笑った。
「大丈夫、今晩は昨晩とは違う。俺がいる」
その言葉に心が温かくなった。なんでだろうか、すごく安心する。
「・・・待ってる」
センリは「行ってくる」と言うと私から手をそっと離した。
何故かそれを名残惜しく感じながら、私はそっと地面に座った。
センリが戻ってくるまで、昨日の虎のような生き物が現れることはなかった。
また、センリも水を汲んですぐに帰ってきた。
二人で簡単に集めた食材を調理をして、空腹を満たした。
「センリ、戻ってきてくれたからもう大丈夫だよ。魔法を戻して」
センリは本当にいいのか?と私に尋ねた後、私の目を元通りに戻した。
すると森は元の暗い森へと姿を変える。
だけど今度はさっきよりも怖いとは感じなかった。
「おやすみ、オネット」
きっとこの人のおかげだ。
向こう側を向いて横になっているセンリの背中を見ながら、私は眠りについた。

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