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2-2 兎のニック(1)

 12,2016 15:04



「本当に君って、悲しい人だね」
"誰か"が少女の無機質な横顔を見ながらそう呟いた。
その言葉が聞こえているのかいないのか、
魔女は静かに自分の手の中にあるものをじっと見つめている。
それは金色の小さなペンダントだった。
楕円形をした青い宝石がキラキラと輝いており、
その中には何かの鳥を模った紋章と花びら一枚が埋め込まれている。
微かに宝石に入っている罅をそっと撫でると魔女は目を閉じた。
「私には選択肢なんてない」
「・・・・・・」
そう言ったきり魔女は何も言わなかった。
"誰か"は森が映った鏡に視線を向けると、ぎゅっと手を握った。
「選択肢がないなら、作ってあげるよ」
魔女はそっと瞼を開けると怪訝そうに、"誰か"を見つめた。
「何を言っているの?」
「・・・彼女が死ねば、君は自由になる」
魔女は大きく目を見開き、思わずその名前を呼ぶ。
「―     !?待って!」
しかし"誰か"微笑むと、魔女の制止も聞かずに部屋を飛び出した。
その後ろ姿を見つめていた魔女は、やがて一つため息をつくと視界を鏡に戻した。
ぎゅっと握ったペンダントは、体温も何も感じられない。
冷たさが指に伝わるだけだった。
首を振って、喉から絞り出すように魔女は痛切に呟いた。
「王子・・・」

2

魔女を探して三日目。
時間は正午辺りだろうか。
今まで獣道ばかりを進んでいた私たちはふと聞こえた音に足を止めた。
水の音だった。それも穏やかなものではなく、荒々しい水しぶきの音。
眉を顰めながら歩くセンリの後に続き、音がする方に歩いて行くと-
すぐにそれは姿を現した。
「こんなに大きな川が森の中にあるなんて」
私は思わず息を吐く。
目の前に広がるのは、急流の大きな河川だった。
その幅は数十メートルと広く、向こう岸がとても遠く感じられた。
「サーヴァリアには、こんな川はなかったはずだが」
「…ということは?」
「アイナが、俺たちを近づけさせない為に魔法で作ったんだろう」
そんなことまでするなんて。
私はセンリの言葉に愕然としながらも、なんとか渡れないかと辺を見回した。
しかし、川の果ても回り道ができる所もみつからなかった。
試しに川に足を入れてみるとすぐに急流に体を持っていかれそうになり、
そんな私に気づいたセンリが慌てて腕を引いて助けてくれた。
「泳ぐのはまず無理だな。流れが速すぎるし、それに水深も結構あるみたいだ。
掴まって進めるようなものもない、となると・・・」
「ここを渡るのはやっぱり無理かしら」
「そうだな」
そうなると、来た道を戻らなくてはいけなくなる。
「先に進みたいのに…」
悔しさからそう言って唇を軽く噛むと、センリが肩を軽く叩いた。
「別の道を探そう」
「・・・そうね」
センリは川から背を向け、元の道へと歩き始める。
他にも道がきっとある。大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら、センリの後を付いていこうと振り返った。その瞬間だった。
甲高い悲鳴が何処からか聞こえてきた。
「・・・・・・・― 助けて!!」
「・・・!?」
思わず後ろを振り向けば、川の上流から何かが流れて-否 流されてくる。
必死に顔を上げようとしているのだろう、
水面から出たり入ったりする頭にはふんわりとした長い耳が二つ見えた。
白い-兎?
兎は苦しそうにもがいている。
大変だ、このままでは溺れてしまう。
あんなにも小さな体、きっと長くは持たない。
「センリ・・・!!」
私はセンリの方は向かずに彼の名前を叫ぶと、川に向かって走り始めた。
後ろから「駄目だ、やめろ!」とセンリの声は聞こえたが、私の足は止まらない。
息を呑んで、片足に力を入れると思いきり地面を蹴ってそのまま川に飛び込んだ。
冷たい水の感触と、体の動きを封じてくる水圧を一気に感じた。
ちょうど目の前に白兎の姿が見えて、私は必死に手を伸ばした。
「・・・きゃっ」
しかし流れが速くて、その体を掴み損ねた。
兎は私の存在に気づいたのか、驚いたようにまん丸い目で私を見つめている。
「掴まって・・・!」
もう一度手を伸ばすと、一瞬遅れて兎も私に近づこうと手足をバタバタと動かした。
あと少しなのに。あと少しで届くのに。
そうしている内に、耳に激しい水音が聞こえてきて-私は弾けるように右を向いた。
川が途中で切れている。
・・・いや違う、切れているのではない、これは。水が落ちている。下へと。
「・・・・・・滝・・・!!」
ドドドドドドド。
兎も気づいたようで、更に体をバタバタと激しく動かしている。
このままだと落ちる、だけどその前にこの兎をどうにか助けなくちゃ。
「届いて!」
そう願って腕を極限まで伸ばした。やがて手に何かが触れた。
- 掴んだ!
兎の小さな体を引き寄せた。もう滝まで50メートルと迫っていた。
守るように兎を胸に強く抱きしめた。体が滝へと引き寄せられる。
― 駄目、落ちる!!
覚悟を決めて目を閉じたその時、

「っ・・・離すなよ!!」

耳元で鋭い罵声が聞こえた。
それと同時に何かに腰を掴まれ、体は思わぬ方へと引き寄せられた。そう、上へと。
閉じていた目をそっと開けてみれば、
「空を飛んでる・・・?」
揺ら揺らと揺れる私の体は空中にあった。そして。
自分を抱きしめるように支えてくれるセンリの顔が目の前にある。
その表情は・・・物凄く不機嫌そうだ。
「・・・飛んでいるわけがないだろ」
彼は木に縛ったロープを握る手を少しずつ緩め、そうして私とセンリと兎はゆっくり下へと降下していく。
地面につくなり、センリは鞄の中に入っていた布きれで私と兎の体を乱暴に拭いた。
痛い。でも抗議できるような雰囲気はない。
やがて髪から雫が落ちなくなるほど乾いた時、センリは私と兎に言った。
「一体どういうことだ?」


「・・・・・・本当にごめんなさい」
正座をして誰かに謝ったのは生まれて初めてかもしれない。
隣で兎も同じように正座をしている。
可愛い。
見慣れない光景に思わず胸がうずいて兎を見つめていると、
センリに「オネット?」と低い声で名前を呼ばれて、咄嗟に視線を前へと戻した。
センリは腕を組んで、険しい表情で私を見下ろしていた。
「・・・後先を考えにも程がある。止めろ、と言ったのが聞こえなかった?」
「聞こえた、けど」
「あの急流の中、まさか泳げるなんて考えたわけではないよな?」
勿論そんなことは考えてはいなかった。
でも兎を放っておけなかった。
あのまま流されていたら、死んでいたかもしれない。
助けられるのは私達しかいなかった。
そう途切れ途切れの言葉で言えば、センリはきっぱりと言った。
「一人でどうにかできると思った?」
真剣な目が私の痛いところを付いてくる。
その瞳を見つめ返す内に、目の奥がどんどんと熱くなってきた。
どんどんぼやけていくセンリの姿に、それでも視線を外さずにいると、
今までずっと黙っていた兎が言った。
「この子を責めるのはやめてください。ぼくを助けようとして必死になってくれただけですから」
若い少年のような声だった。
センリは顔をまだ私に向けたまま、視線だけを兎に移すと大げさにため息を吐いた。
そして呆れたように呟いた。
「そうだ。まずお前は何であんな風に流されてたんだよ、ニック」
ニック。
聞き慣れない名前に私は首をかしげる。
その拍子に、目に溜まっていた涙がすうっと頬を滑り落ちた。
「ぼくも必死だったんですよ。
木の実を食べていたら急に地面が川に変わってそのまま流されたんです。
所謂不可抗力ってやつですね」
「…はぁ」
「ため息をつかないでくださいよ、センリさん。・・・って、お嬢さん!」
話についていけず黙っていた私の顔を見て、ニックと呼ばれた兎が驚いた声を上げた。
「泣いていますよ、センリさん!泣かしましたよ、センリさん!!」
「うるさい、ニック」
センリは騒がしい兎を一刀両断すると私と視線を合わせるように屈みこむ。
そして私の頭にそっと手を乗せた。
「ごめん、強く言いすぎたかもしれない。だけど、心配だったんだよ」
「…うん」
心配をしてくれた。心配をかけた。
優しさと申し訳なさでまた涙がこみ上げてきて、私は口元を抑えてただ頷いた。
「ニックを助けたことを怒ったんじゃない。
俺が怒ったのは、自分だけでどうにかしようとしたことに、だ。
昨日言ったはずだ、"俺がいる"。一人でどうにかしようと思うな」
声色がさっきとは違い優しくて、私は思わず俯く。
すると今度は隣から、兎がすぐ傍にやってきて私の膝に手を置いて言った。
「何にせよ、お嬢さんがぼくの命の恩人であることには変わりないですよね」
兎は澄んだ青みがかった目で私を見た。
「お嬢さん、ありがとうございました」

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