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2-2 兎のニック(2)

 12,2016 15:04



ずぶ濡れになった服は当分乾きそうにはなかった。
私はセンリの服を貸り、木に自分の服を引っ掛けた。
センリは細見に見えるけれども、こうしてセンリの服を着てみるとぶかぶかとしていて体格差を感じた。
ところで。センリは兎のニックと先ほどから話し込んでいる。
どうやら二人は知り合いらしかった。
「―・・・お前もあそこを追い出されたのか?ニック」
「はい、そうなんですよ。ちょうどセンリさんがそうされた次の日に」
「他の奴らもか?」
「どうでしょうねー。ぼくは二番目、でしたから。
でも猫のミーアとか、ルーンさんとかジャパネさん達も…追い出されている可能性は高いでしょうね。
本当に彼女は一体どうしてしまったんでしょう?」
彼女、が指すのはおそらく魔女のことだろう。
話からすると、センリと同じように兎のニックや他にも何人か城に住んでいたものの
ある日突然魔女の元から追い出されてしまった…ということなのだろう。
「オネット、状況は把握できているか?」
「うん、とりあえず二人が知り合いってことは。
でもさっきから一つ、どうしても腑に落ちないことがあるんだけれど・・・あの、兎のニックさん」
「何でしょう?あ、ぼくのことはニックと呼んでくださいね」
「じゃあ、ニック」
「はい」
言っていいものかどうか悩んだ末、私は素直に抱いていた疑問を口にした。
「・・・どうして話せるの?兎なのに」
私の言葉があまりにも突然だったからか、センリは横で笑い、ニックはきょとんとした顔をした。
そしてさも当然のことのようにニックは言った。
「ぼくだけじゃないですよ、猫のミーアさんも話しますよ」
「えっと・・・うん。でもね、私が知っている兎も猫も今までお話なんかしなかったわ」
「そうなんですか?随分と幸せな世界に暮らしてこられたんですね」
「え?」
「ジェパネおじさんなんて早口言葉が得意なんですよ」
「んー・・・」
まるで噛みあわない会話に困惑していると、センリが横から「気にするだけ無駄だ」と言った。
もしかしたら魔女に魔法をかけられたのかもしれない。
そう考えながら、私は話を戻した。
「それで、ニックも魔女の家にいたのよね?」
「はい、そうですよ。家じゃなくて、城ですけど」
「城なの!?…うん、とりあえずはそれでいいとして、
やっぱりニックも城への行き方はもうわからないのよね?」
「いえ?知ってますよ」
私は唖然とニックを見つめた。隣では同じようにセンリが驚いた表情をしている。
「なんで分かるんだ?」
「センリさんが何処に飛ばされたかは知りませんが、ぼくはわりと近くだったんですよ。
そうですね、距離としては目視して城が見えるくらいには。
で、狼に追いかけられて逃げてきて…やっと落ち着けた頃にご飯を食べて…る間に川が!
川があ!!」
溺れていた時のことを思い出したらしく、ニックは耳を抱えて絶叫した。
私はその小さな背中を優しく擦る。
「わ、分かったわ。ニック。
でも良かった、城への行き方を知っている人に出会えるなんて」
ニックはその私の言葉に怪訝そうに顔をしかめた。
「"良かった"?・・・まさかあなたは魔女に会うつもりなんですか?」
私は一つ頷いた。するとニックは今度はセンリの方を向いて、真剣な声で訊ねた。
「センリさん、あなたもですか?」
「・・・ああ」
「それは止めた方がよいのでは?」
ニックの言葉を聞いて、センリと初めて会った時のことを思い出した。
こんな風にセンリも魔女に会うことをいいようには思っておらず、止められた。
ニックもその時のセンリと同じ気持ちなのかもしれない。
「事情が事情だからな。オネットもアイナに魔法をかけられていて困っている。
俺は俺でペンダントを奪われていて取り返したい。
内容は違うが目的は一緒だった、だからこうして一緒に旅をすることになった」
「・・・魔法をかけられた?」
「ええ・・・。私、大好きな人に求婚されたの。でも、自分が言いたい言葉が言えなかった。
正反対の言葉が出てきたの。きっと、そんな魔法がかけられているんだわ。
自分の気持ちと反対のことを言ってしまう魔法」
「気持ちと反対のことねぇ・・・」
ニックは私の言葉を繰り返すと「悲しいですね」と小さな声で呟いた。
「オネット・・・そんな名前を持つあなたが、皮肉にもあまのじゃくな姫にさせられてしまったと」
「・・・・・・」
「ええ、そうなの」
私とニックのやり取りを、センリは複雑そうな表情で聞いていた。
自分の幼馴染という魔女を思い出しているのだろうか。
「ニックも魔女を知っているのよね?ニックから見た彼女はどんな人なの?」
そう聞けばニックはそっと空を仰いだ。
雲が一つもない空は寂しげな水色をしている。
「・・・悲しい人ですね」
ニックは、私の方を向いてもう一度同じ言葉を繰り返した。
「悲しい人、です」
意外な言葉だった。
正直、恐ろしいとか意地悪とかそんな言葉が出るものだと思っていた。
悲しい人。
こうも称される彼女は、今一体何を思っているのだろうか。
「城はここから見て西の方角にあります」
ニックは太陽が照っている方を指差した。
「ありがとう、ニック」
「…オネット、もうそろそろ行くぞ」
「うん」
私はそう頷くと、乾ききっていない服を小さくまとめて抱くようにして持った。
ニックの方に体を向けると、ニックは物言いたげに私を見ていた。
名残惜しいけれども、軽く手を振って私は言った。
「ニック、またね」
するとニックは意を決したように、私に真直ぐ見つめたまま言った。
「オネットさん、待ってください。ぼくも連れて行ってくれませんか?」
「え・・・?」
「城への行き方を知っているのはぼくだけです。
ぼくがいた方がいいんじゃないですか?」
「一緒に来てくれると確かに心強いわ。でも、これは危険な旅よ」
「ぼくも」
ニックは言う。
「ぼくも魔女に魔法をかけられているんです。だからぼくも、彼女に会いに行かないと」
どんな魔法をかけられているかは、ニックは話してくれなかった。
きっと話せないほど、辛いものだったのかもしれない。
私はセンリの方に向き直ると、背の高い彼を見上げて言った。
「ニックも一緒に…いいわよね?センリ」
するとセンリは少し考えた後、仕方がないといった様子で頷いた。
「よろしくお願いします。オネットさん、センリさん」
こうしてニックが旅の仲間に加わった。

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