FC2ブログ

2-3 仲間と共に(1)

 12,2016 21:37



3

ニックと出会った日のその夜中、私は夢を見た。
私が立っているのはどこかの教会のようだった。
大きな鐘が自分の真上で揺れて、その音を響かせている。
とても大きな、耳をふさぎたくなるような音だった。
ふと自分の姿を見ると真っ黒なドレスを私は身にまとっていた。
色だけを見れば喪服に見える、しかしこれはウエディングドレスだ。
何故こんな服を着ているのだろうか。
そう思っている内に、鐘がピタリと病んだ。
静まり返った教会。耳の奥で先ほどまでなっていた鐘の音がまだ響いている。
正面には色鮮やかなステンドグラスがあった。
そこに描かれているのは鷹だろうか鷲だろうか、鋭い爪を持つ鳥だ。
ふと、足元が滑って私は視線を下へと落とす。
そこにはステンドグラスから差し込んだ七色の光が輝いている、はずだった。
「何これ…」
床を埋め尽くしていたのは、赤。ただそれ一色だけであった。
その赤色が一瞬何かを連想させて、私は口元を手で覆った。
自分の心臓の音が聞こえる。ドクン、ドクンととても速く脈を打っている。
ああ、これは何?
そう思っていると、後ろからギィッと鈍い音が聞こえてきた。
教会の扉が開いたのだ。誰かの足音が聞こえる。
途端に体中が冷えていくような感覚がして、私は身動きが取れなかった。
後ろを振り向けない。
誰かは私に言う。
「こんなところにいたのか」
腕を掴まれて振り返った。
「っ・・・!」
知らない青年が冷たい目で私を見つめていた。
「もう逃げられないぞ」
笑った顔に恐怖を感じる。知らない、この人は知らない。
それなのにどうしてだろう。
その瞳の色を、私は知っている。


「・・・・・・はっ・・・!」
飛び起きると、私の体に乗せられていた上着はパサリと地面に落ちた。
傍で焚き火をしているから体全体は温かいが、手先だけが冷たくなっていた。
嫌な汗をかいでいる。
「むにゃむにゃ…ジャパネおじさんはにんじんでしょー…」
すぐ近くに仰向けになって熟睡しているニックがいる。
一体何の夢を見ているのだろうか。想像はできなかった。
ふと私はあることに気づいて、後ろを振り向いた。
「センリ・・・?」
センリがいない。
センリが寝ていた場所には、毛布が綺麗に畳まれて置いてあった。
一人で一体どこへ行ったのだろうか。
ニックを起こさないようにそっと立ち上がると、私はゆっくりと当てもなく歩き始めた。
月明かりが足元を照らす。
草と草の間に小さな影が動いているのがうっすらと見えた。
それを踏まないように気を付けながら、進んでいく。
センリを見つけるのにはそんなに時間がかからなかった。
少し視界の開けた場所、センリは静かに月が輝く空を仰いでいた。
その横顔がどこか寂しそうで、どこか切なげで、声をかけるのを躊躇われた。
センリはそっと左手を空へ掲げていく。
そして月に手のひらを差し出すように向けると、目を瞑って ― 何かを呟いた。
私の場所からその呟きは聞こえない。
「センリ」
小さくその名前を呼べば、センリはゆっくりと瞼を開き、私の方に顔を向けた。
「・・・オネット」
それだけ言うと、センリは私に向かって歩いてくる。
しかしその途中で足を止めると、担いでいた弓を素早く抜き、矢を私に向けた。
「センリ・・・?」
どうして私に矢を向けるの・・・?
困惑している私に構わず、センリは矢を放った。
目を閉じる暇さえなかった私はセンリをただ直視した。
顔の横を風が通り過ぎる。一瞬だった。そして、その直後。
「ググググググ…」
私の真後ろで獣の唸り声が聞こえた。
「・・・!」
後ろを見てみると、大きな獣が血を吐いて蹲っていた。
見たこともない生き物だった。
類人猿のような体だが頭には牛のような角があり、手はまるでライオンのように鋭い爪がある。
太い喉にはセンリが放った矢が刺さっていた。
いつから背後にいたのだろうか。全く気が付かなかった。
恐怖で口元を手で押さえると、センリに腕を引かれた。
センリは心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「ええ・・・ありがとう」
「俺かニックから離れるな。いつこういう奴に襲われるか分からない」
「ごめんなさい…でもセンリがいなくなってたから。探さなくちゃって思って」
「あー・・・、それは悪かった。戻るぞ」
頬を軽く掻きながらセンリはそう言うと、私の手をそっと握った。
センリの手は冷えきっていた。まるで氷に触れているように、冷たい。
「いつから此処にいたの?」
「・・・いつからだろうな、なんだか眠れなくて」
「何か…考え事?」
私の言葉にセンリは足を止めて、首を横に降った。
一瞬戸惑ったような表情が見えた気がしたが、気のせいだろうか。
「いや。ニックの寝言を聞いていたら、気になって寝付けなくなっただけだから」
私は先程横に寝ていたニックを思い出す。
確かに寝言は多そうだ。
「そういえばジャパネおじさんって何なの?」
そう聞けば、センリは笑って答えた。
「料理ができる大きなタヌキだ」
「え…?」
不思議な世界に私は首をかしげることしかできなかった。

→back

スポンサーサイト



Comment 0

Latest Posts