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2-3 仲間と共に(4)

 12,2016 21:39



砂の中を歩いてどのくらいの時間が経っただろうか。
冬が近いというのに、じりじりと燃える太陽のせいか、じんわりと汗さえ出てきた。
全く影のない道なき道を歩き続け、暑さと疲労で息が苦しくなってくる。
一度休憩を入れたい、そう思ったが休んでいる暇はない。
夜になるまでに砂漠を抜けることができるだろうか?
少し不安を覚えながらも、重くなりつつある足を動かしていると、
「・・・?」
ふと砂の中に変な穴を見つけて私は歩みを止めた。
1メートルはあるだろうか。
そこだけぽっこりと異様な穴が開いている。
「センリ、ニック」
声をかけると、二人は私の指差すその穴をじっと見つめた。
ニックは何か考えたような素振りを見せたが、その表情が急に真っ青になった。
センリも表情を曇らせている。
「何か生き物が作ったものですね」
「ああ。だが、それが何かはまだ確信できない」
センリの目を見つめながら、私は自分の中で警鐘が鳴っているのを感じた。
何だろう、嫌な予感がする。
この不安はきっと気のせいなんかじゃない。
無言でお互いの顔を見合わせていたが、ニックが何かに気づいて地面に耳を押し当てた。
「・・・ちょっと待ってください、何か聞こえます」
その様子を見ながら、私はふと気が付く。
おかしい。いつの間にか風が完全に消えている。
気が付けば辺りが不自然なまでにしんと静まり返っていた。まるで何かの予兆のように。
砂の中の小さな生物たちが息を潜めている。
「!・・・っまずい、これは!」
センリがそう言ったのと同時だった。
静かに地面の音を聞いていたニックが、目を見開き叫んだ。
「― 来ます!!」
その言葉に身構える時間はなかった。
目の前にあった穴が急に崩れ始め、更に大きな溝を作っていく。
蟻地獄の罠のように、周りの砂が下へ下へと吸い込まれていく。
思わず後ずさりをするものの、遅かった。
「きゃっ・・・!」
「オネットさん!センリさん!」
私とセンリの足元が急に崩れた。
立っていられず尻餅を付くと、流されるまま穴に向かって滑り落ちていく。
掴まれるところは何処にもなかった。
穴の先に細長い触覚のようなものと幾つもある鋭い歯が見えた。
・・・この穴自体が何かの”口”なんだ!
そして落ちてきたものを飲みこもうとしている。このままじゃ食べられる・・・!
そう思った瞬間、腰を掴まれた。そうするのは、彼しかいなかった。
「センリ・・・!」
「・・・大丈夫だ、オネット」
安心させようとしているのか優しい声で私に囁くと、更に強く腰をぎゅっと掴むセンリ。
「センリ?」
彼のその言動の意味が分からず、思わず名前を呼ぶとセンリは笑った。
まさか。そう思った時、
「・・・・・・っ・・・ニック、後は頼んだぞ!」
センリはそう呟くとアンバランスな地に膝を付き、私を強く抱えると、
「きゃっ!!?」
上へと放り投げた。
私はニックの横に飛んで落ちると、体の痛みを感じながらも穴を覗き込んだ。
「センリ・・・!?」
そこには真下へと流れていく砂に飲みこまれていくセンリの姿が見えた。
足はもう砂に埋まっていて、センリは穴の先を静かに睨んでいた。
駄目だ、この距離では手を伸ばしても届かない。
センリが遠ざかっていく、黒い砂が彼を覆っていく。
「センリ・・・・・・!!」
思わず穴へ再び降りようとする私の体をニックが落ちないようにと引っ張った。
「駄目ですよ、オネットさん!」
「でもセンリがこのままじゃ・・・!」
その先は怖くて言えなかった。
助けなきゃ。早く助けなきゃ。
しかしどんなに暴れても、ニックは絶対に私の体を離さなかった。
「・・・センリーッ!!」
私たちの目の前でセンリは砂の中へと消えて行った。



再びさわさわと風が周りで吹き始めた。
何事もなかったかのように砂漠はまた機能し始めた。
私は地面に膝をついたまま、立つことができなかった。
無言でニックが、センリが消えた穴を見つめている。
消えた。
消えた?
食べられてしまったのよ?どうして生きているなんて言えるの?
ぽたぽたと落ちた雫が黒い砂を更に深い漆黒へと変えていく。
どうして。
しばらくそうしていると、やがて近くで砂嵐が起きた。
ああ、魔女が笑っている。滑稽な私を嘲笑っている。
「・・・オネットさん、立って。まだ終わりじゃない、またあいつが来ます」
震えたような、怯えたような声でニックが言った。
私は顔を横に振った。
「お願いですから!逃げないと・・・!」
「駄目・・・っ!」
センリが。
そうニックに訴えかけた、その時だった。
後ろから空気も痺れるような大きな咆哮が聞こえた。
「オネットさん!」
焦ったような声でニックが叫んだが、私は振り返れなかった。
だってセンリが。
「・・・っ危ない!!!」
ニックが私の背後へと向かって跳躍した。
その直後、後ろから小さなうめき声がして、私の前方へニックが飛んで行くのが分かった。
小さな体は空中で弧を描くと遥か彼方で地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「あ・・・」
あなたも私をかばったの・・・?
「…ニック!」
ニックの元へと走り出しそうとした私の足を何かが掴んだ。
そこで、ようやく私は振り返った。
いつか城の書庫で見た、架空の生き物とされるそれが私の目の前にいた。
「デスワーム・・・」
思い出した名前を口にすると、デスワームは体を伸ばし私を見下ろした。
蚯蚓のような、何かの幼虫のようなその体は太く、私の背の2倍も3倍も大きかった。
赤黒いぬめぬめっとしたその先端には幾つもの鋭い牙が生えていた。
そしてそのすぐ横にある触覚が、逃がさないようにと私の足にしがみ付いている。
目がないようで、私の姿は見えていないようだ。
幾つもの触覚が私の体を弄り、まるで形を確かめているように絡みついてくる。
「・・・・・・っ」
全身にぞわっと鳥肌が立った。
口が開閉される度に、強烈な異臭がした。
がちん、がちんと牙がぶつかり合い、今にも私を飲みこもうとしている。
恐怖から体が震えて止まらない。
怖かった。意識が遠のきそうなぐらいに怖かった。
だけれどそれよりも。
顔だけ後ろに振り向く。  
倒れたまま、動かないニック。そして。
「センリ」
― 目の前のワームに食べられたセンリ。
「・・・・・・どうして」
私は震えた手で腰に挟んでいたナイフをカバーから力任せに抜き取った。
色々な感情が頭の中で渦巻き、爆発しそうになった。
私達が何をしたというの。
ただ幸せを取り戻したいだけなのに、それなのにどうして?
どうして大切なものがこうも次々と奪われていくの?
「許さない」
センリ、ニック。 ― 王子。
「私の大切な人を返して!」
感情のままに叫ぶと、足を掴んでいた触覚に向けてナイフを振り下ろした。
「グアアアア!!」
触覚が切れた場所からは黄緑色の液体が吹き出した。
痛みからかワームは酷い唸り声を上げて地面をのた打ち回った。
その衝撃に地面がびりびりと揺れ、砂煙が舞う。
視界が真っ暗になった。
何も見えない。
ニック。ニックは・・・?
「ニック・・・!」
遠くに白い姿が見えたような気がして、私はおぼつかない足取りで走った。
「ニック!」
そしてニックの元へとたどり着くと、その小さな体を持ち上げた。
温かい。微かにその体が上下しているのが分かって思わずため息をついた。
「ごめんね、ニック」
私は。前に進もうとあの夜に誓ったのに、私は一体何をしているの?
助けてもらってばかりで、自分の力では何もできていない。
私は王子を、大切なものを取り戻すために自分でこの旅を選んだのよ。
― このままでいいの?
ぎゅっとニックを抱きしめると、ピクンとその耳が動いた。
ゆっくり開かれた瞼、丸い瞳が私の姿を捉えた。
「・・・オネットさん?」
さあっと周りの砂が引き始めた。
霧のようにぼんやりとしていた視界が徐々に開けていく。
そして完全に風が止み、見上げればそこには、
口を開けて今にも私達を飲みこもうとしているワームの姿があった。
「・・・逃げて・・・ください・・・」
ニックが小さな声でそう言った。私は顔を横に振った。
私だけが逃げても。
私だけが、何かを犠牲に幸せになっても。
それでは意味がないでしょう?
だって私だけじゃない。
「これは、あなたが幸せになるための旅でもあるのよ」
「・・・!!」
目を見開いて見つめてくるニックを左手で抱きしめると、右手でナイフをワームに向けた。
手の震えはもう止まっていた。
「ただでは食べられてなんてあげないわ」
怒ったように激しい咆哮を響かせ、ワームは私に目がけて飛びかかった。
口の中が見える。
空洞。
あなたは一体何を飲みこめば、その空っぽな体が、心が、満たされるの?
私は勢い良く、ワームの口の中へナイフを放りこんだ。
「・・・・・・・・・ガアアアアアアアアアア!!」
ビリビリと空気が震える。
私は衝撃と痛みに備えて目を閉じる。
しかしいつまで経っても、ワームの牙が体を突き刺す痛みはやってこなかった。
ゆっくりと私は目を開く、そして見えた光景に息を飲んだ。
私を飲むこむはずだった気味の悪いその口は、どうしてかすぐ目の前で止まっていた。
黄緑色した液体がワームの体から溢れ出て、砂地に染みこんでいく。
びくりとも動かないその巨体。
「死んでいるの…?」
ナイフ一本で食い止められた?
―違う、そんなはずがない。
瞬きもせずに、ワームを見つめているとやがてその体はゆっくり地面へと崩れ落ちた。
完全に横たわって動かなくなったその体には、見覚えのある矢が幾つも貫いていた。
そしてワームを挟み、向こう側で荒く息を吐いている、彼。
どうして?
心配そうに、しかし安堵したような表情の彼と目が合った。
「セ・・・」
ぽろぽろと止まったはずの涙が再び零れ始める。嗚咽がこぼれる。
「センリ!!!」
絞り出すようにその名を呼べば、センリは駆け寄ってきてニックごと私を抱きしめた。
「よく頑張ったな。オネット、ニック」


しばらく涙が止まらなかった。
砂漠を抜けるまで、私はずっとセンリと手を繋いでいた。
一度繋いでしまっては、離すのが躊躇われた。
繋いだ手の温かさに、確かに彼はここに存在していることを実感した。

大丈夫、焦らなくていいよ。
 君もいつか君が望むお姫様になれるから。
 

昔、王子が私に言った言葉を思い出す。
あの時私は、自分がどうなりたいかなんて分からなかった。
でも今なら思う。
私は、強くなりたい。
大切な人を守れる強い私に。

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