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1-1 プロローグ

 06,2016 15:36



まるで、幻を追いかけているようだ。


第一章 遠い過去の約束

1

街から離れた人気のない森の中、一つため息をつく。
私の目の前には、私がいた。
今の自分より幾分も小さい、数年前の私。
幼い私は森の湖の傍に座り、鼻歌を歌いながら上機嫌で空を見上げている。
同じように天を仰げば、薄暗い空にはもう既に幾つか星が煌めいていた。
(帰らなくていいの?)
そっと呟いた言葉は予想通り、彼女には聞こえていないようだった。
きっと私の姿も見えていないのだろう。

ぽちょん、ぽちょん。
先刻まで雨が降っていたのだろうか、
木々の葉から雫が滑り落ち、水面に落ちると波紋を作ってそこに映る私の姿を揺らしている。
ぽちょん、ぽちょん。
それをぼんやりと眺めながら、私は幼い私と静寂の中、待っていた。
愛しい彼を、待っていた。
(だけど・・・もしかして、これはあの日の―?)
寒そうに腕を抱く幼い私の傍に行き、そっと横に腰を落とした。
微かに震える小さな手は、すっかり白くなっている。
(すぐに来るよ、・・・でも)
慰めるつもりで小さな頭に手を触れようとした時だった。
ガサッと後方から落ち葉が擦れたような音がした。
「―    !」
私の手をすり抜けて幼い私は立ち上がると、いきおいよく振り返り、走り出した。
それにつられて私もゆっくりと振り返る。
駆け寄っていく幼い私の先には、彼女と同じくらいの背の少年がいた。
暗くて少年の顔は、よく見えない。
(―――、)
私は立ち上がる。
視界が揺れた。嗚呼、耳鳴りがする。
「今日は遅かったね。待ってたよ」
私は嬉しそうに少年に言う。
だけどそれと対照的に少年は、否―王子は、
「ごめん」
寂しそうな声でぽつりとそう言った。
俯いていて、彼の表情は分からない。
しかし、その声はとてもか細く、何か耐えているようにも聞こえる。
「しばらく、ここには来れないんだ」
「・・・・・・どうして?」
「理由は言えない。・・・だけど、」
そっと彼の腕が伸びて、私を抱きしめる。
ひんやりとした手に思わず驚く。
この冷たさ、どうして?まるで私より前に外にいたかのような。
「僕はまた君の所に戻ってきたい。我儘かもしれないけど、もし君が待っててくれるなら、」
独り言のようにとても小さな声で彼は呟くと、少し腕の力を強めた。
「必ず戻ってくるから」
だから、待ってて。
耳元で聞こえた声が震えていたのは、彼も不安だったからだろうか。
そっと体を離されたかと思えば、寂しげに微笑むと王子は踵を返し森の中へと消えていった。
それが最後に見た彼の姿だった。


突然のことに何も言えず、追うこともできず、ただ唖然と立ち尽くす。
取り残されたのは私。私だけ。もう幼い私は消えていた。
自分の体を見る。あの夜からもう10年が経つのにまだ、会えないなんて。
「ねぇ、」
思わず自嘲的な笑みが零れ、私は顔を抑えてしゃがみ込む。
待っているの、私。忘れてなんかいない。
「あなたは覚えている?」
月日が過ぎるたび、一つ、また一つと不安が増えていく。
大好きだった声、大好きだった瞳、大好きだった腕、
大好きだった彼の記憶が無情にも薄れていく。
そうだ、名前。
名前は、なんて呼んでいた?
「・・・・・っ」
不安が少しずつ恐怖に変わっていく。
でも、毎日この森に来るのは止められなかった。
思い出として諦めてしまえばいいのに、
それでも彼を待ち続けているのは、彼の我儘じゃない。私の我儘だ。
気が付けば、空から月が寂しそうに私を見つめていた。

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