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2-8 恐れを乗り越えて、前へ(1)

 20,2016 22:06



鴉鳴キ沼。
その場所は深くまで泥で埋まった沼地だった。

8

沼地の真ん中を細長い木が橋のように通っており、それは森の奥へと続いている。
此処を渡れば行きつく先はー・・・ふと目の前、林の向こう側に目がいった。
そこには黒い建物の頭が見える。魔女の城だった。
私は拳を強く握りしめ、前方を睨むように眺めた。
アイナさんが待っている。あと少しで、彼女に届く。
そこで私は不意に考えるのを止めた。
頭に思い浮かべそうな思いを全て遮断して、目の前の沼に視線を落とした。
「この沼地は、鴉鳴キ沼。もしも鴉の声が聞こえてきたら耳を塞ぐんだ」
沼を渡る前にセンリは言った。
「塞がなかったらどうなるの?」
「鴉はアイナの母親、ロキサニーが飼っている鳥だ。
一度その声を聞けば、魔女の魔法の中に引きずりこまれる。
万が一のために俺が後を歩くから、オネットは先を歩いてくれ」
「・・・うん」
私は一つ頷くと、センリの先に歩き始めた。
木でできている道は歩くたびに軋み、鈍い音を響かせた。
進むたびにその道幅は狭くなっていき、
五分ほど歩いた頃には、足元に注意して進まなければ
落ちてしまいそうなぐらいの道幅へと変わっていた。
まさか道が割れたり壊れたりはしないだろうか、
そう思いながら慎重に進んでいると、不意にセンリが言った。
「オネット、止まって」
その言葉に私は足を止めた。
体のバランスを崩さないようにそっと振り返れば、センリが何故か心配そうに私を見ていた。
そしてそっとセンリは私の目を自分の手で覆った。
突然のことに思わず声が零れた。
「・・・え?」
センリは手に力を集中させ、小さく何かを呟き始めた。
触れられた場所が少しずつく暖かくなっていく。
どこか聞き覚えのある呪文に、私は咄嗟にセンリの手を掴むと目から離した。
「センリ、どうして?」
間違いない、今センリは魔法をかけようとしていた。
センリが唯一できるという視覚を変える魔法。
私の目にかけていた、ということは沼を違うものに見せようとしたのかもしれない。
だけど一体何故?
そう思って見つめれば、センリは静かに言った。
「多くの死者がこの沼で眠っているんだ」
「死者?」
ふと沼をよく見れば白い枝のものが沈んでいるのが見えた。
もしかしてこれは人間の、骨?
私は息を飲むと、思わず振り返って進む先を見た。
「・・・嘘・・・・・・」
目の前・・・正確には五メートル程先に進んだ場所から奥まで、
ぎっしりと沼に埋まっていたのは、無数の頭蓋骨だった。
ぬめぬめとした泥に包まれ、無残に転がっている幾つもの白骨。
下ばかりに注意を払っていて気が付かなかったんだ。
私はもう一度振り返り、センリを見た。
「これは何なの・・・?」
「ロキサニーがかつて殺した人間の骨だ。
だが、彼女が集めたんじゃない、これは人間が捨てていったんだよ。
死んだ人間の骨、それにさえも魔女の呪いにかかってるんではないかという人々の恐れ。
そして、”これがお前の今まで犯した罪だ”と魔女に突きつけるために」
「・・・酷い・・・」
魔女だけではない。
自分達を守るために、死んだ者の骨をこんなにぞんざいに扱う人間もなんて酷いのだろう。
急に刺すような鋭い空気を肌に感じて私は自分の腕を抱いた。

見られている。

数多の死者達が、地の底から私達のことを見ている。
それは憎悪か悲しみか、それすらも判断できないほどの強い視線を感じる。
「怖いなら見る必要はない」
センリが気を使うように言った。
魔法を使えばこの光景を隠すことができる、と。
少し考えた末、私はそっと首を振った。
「いいえ」
「・・・どうしてだ?」
怖いものは怖い。見なくていいのなら、見たくはない。
だけどこれは見るべきものだと思った。
だってこれは現実で、これはこの森に起こった真実なのだから。
真実。
「それから目を背けることは許されるの・・・?」
ニックがいなくなってからずっと考えていた。
彼は何を思って私達と一緒に過ごしていたんだろう、
何を願って、何を望んでいたんだろう。全てが分からなかった。
そもそもの私のこの旅の理由。彼女が私を嫌いという理由。全てを私は知らない。
真実を何一つとして知らないのだ。
そう気づいたら、私はそれを求めるしかなかった。
真実が知りたい。
知りたい・・・・・・ああ、でも。
「・・・無理をしてないか?」
「ううん」
無理に笑みを作ると、私はそれ以上何も言わなかった。
とりあえずこの沼を越えよう、魔女はもうすぐそこだから、立ち止まっているわけにはいかない。
早く魔女に会わないと。
王子に気持ちを伝えないと。
センリは私の様子を物言いたげに見ていたが、
「オネット!」
しかし、急にはっと何かに気が付いて焦ったような声を上げた。
「え・・・?」
その声に私は何が起きたのか分からず、センリの顔を見つめる。そして気が付いた。
耳を澄ます必要さえない。
何かの鳴き声が聞こえ、そしてそれはどんどん大きくなっていく。
空を見上げれば真っ黒な塊が頭上に集まってきていた。
鴉だ。
私は咄嗟にさっきセンリに言われたように、耳を手で覆った。
しかし鴉の声は予想以上に大きく、不気味なそれは私の耳へと入り込んでくる。
自分が知っている鴉とは違う生き物の鳴き声のように思えた。
耳を塞いでいて分からないが、センリの口が動いていて私に何か言おうとしているのが分かった。
だけど、それが何かを考えている余裕さえなかった。
ずきずきと頭が締め付けられるように、割れるように痛む。
(なんて鳴き声なの!?早く止んで、早く!!)
そう願った思いは届かず、更に大きくなる其れに私はしゃがみ込んだ。
その時。ふと耳元で誰かの囁き声が聞こえた。
騒音の中にも関わらず、はっきりと鮮明に聞こえたか細い声。
鴉の声ではない。
これは。
「― 助けて」
手を離すはずではなかった。
だけどその言葉に私の中の何かが反応した。
弾かれるように空を見上げれば無数の鴉が私を見て笑っている。
突然、無音が訪れた。
時が遅くなったようにゆっくりと鴉が視界の中で飛び回る。
耳鳴りが聞こえ、そしてその後にもう一度同じ声がした。
「― 助けて」
これは。
目の前でセンリが焦ったように何かを叫んだ。
その口の動きから、私の名前を呼んだのが分かった。
だけどそれに応えることはできなかった。瞼が重くなり、私の視界はやがて暗くなる。
「助けて」
暗闇に飲みこまれる前、もう一度その言葉を聞いた。
その声は誰の声でもない。私自身の声だった。




気が付けば、暗闇に私はいた。
何の音もしない、何の温度も感じない、
時間の流れさえどこかに忘れてきてしまって、光を一切拒絶したこの空間に一人佇んでいた。
センリも鴉もいない、魔女の城も沼も何もここには存在しない。
此処は一体何処なのだろうか。
試しに少し歩いてみたが進んでいるのかいないのか、それさえも分からなかった。
どうしてこんなところに?
そう思って、さっきの鴉の鳴き声を思い出した。
そうだ。あれを聞いてしまったからだ。だから、私は・・・。
するとこれは夢の中の世界なのだろうか?それともまだ現実なのか。
分からない、しかしその答えはどっちでもいい。
此処から出ること、元の場所へ戻ることだけが今の私に必要なことだった。
センリが待っている、王子が待っている。
早く魔女の城へ。
そう思っていると、
「駄目よ、行けないわ」
ふとそんな声がした。
その声に違和感を覚えて目を見開いた。
「行けない」
同じ言葉を繰り返す-それは、私の声だった。
どうして私の声がするの?そう心の中で思っていると、再び何処かから声がした。
「答えは簡単よ。私は、あなた。そしてあなたは私だから」
・・・あなたが私?
私は頭を振った。心の中で必死に否定する。
そんなわけがない、だって私が私と話をするなんて有得ない。
それに納得がいかない。
あなたが私というなら、何で私が「行けない」なんて言うの?
「・・・何でかって?それは自分がよく知っているでしょう?」
嘲笑うかのように"私"は声を震わせた。
暗闇の中を小さな笑い声が不気味に広がっていく。
これは一体何。どうしたらこの奇妙な場所から抜け出せるの?
「抜け出せないわよ、だってあなたがそれを望んでいないから」
私の心の中の言葉は、全て私に筒抜けだった。
しかし私は、"私"が何を考えているか理解できなかった。
私がこの場所から出るのを望まない理由なんてないはずだ。
「本当にそうかしら」
挑発的な言い方に、思わず私は心の中で怒鳴った。
言いたいことがあるならはっきり言って。
私なら、ちゃんと言葉で言いたいことを伝えるはずよ!・・・時間がないの!
「そうね。そうだったわね、私はそうよね。
ならば教えてあげる。私がこの場所にいる理由。それはただ一つ、」
何?
「あなたは・・・いえ私は、進むことを恐れているから」

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