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3-1 魔女の城(1)

 26,2016 20:54



それをあなたが望むなら。


第三章 魔女の願い

1

魔女の城を眺める。
首が痛くなるほど見上げれば、その建物が四階建てで、横には二つ塔があるのが分かった。
建物自体は石造りで頑丈に見えるが、扉は木製でそして相当古いのか、あちこちが痛んでいる。
色は鴉のような漆黒をしており、背は私の倍はあった。
そこに描かれているのは魔法の紋章だろうか、見たこともない複雑な模様だ。
「センリ」
隣にいるセンリを横目で見れば、センリは頷いた。
「ああ、ここだ。・・・行くぞ」
一か月前まで住んでいた場所だ、センリの心境は私以上に複雑かもしれない。
センリが片手でそっと扉を押すと、扉はキィっと音を鳴らして簡単に開いた。
ゆっくり城の中へと進むと、扉は勝手に閉まった。
試しに押してみたが、扉はびくりとも開かなかった。
後戻りはもうできない・・・勿論今更帰るつもりは毛頭ないのだけれど。
「ここが、アイナさんの城・・・」
私は建物の中を見回した。
玄関のホールは思った以上に広かった。
天井には大きなシャンデリアが三つ並び、オレンジ色の光で部屋を照らしている。
左右の壁に四枚の絵が掛かっており、それらは抽象絵画だが四季を表しているように見えた。
ホールから繋がる通路は三つあり、正面の通路は一番幅が大きく、ずっと回路が奥まで続いている。
左右の回路の先には階段が見え、左は下の階、右は上の階へと繋がっているようだ。
「この城、センリが知っている範囲では何処に何があるの?」
センリは通路を指差しながら私に言った。
「一階はここにホール、そしてこの正面の通路を行けば奥に大広間や食堂、厨房がある。
本来なら大広間の横にアイナの庭があったが今はどうなっているんだろうな・・・。
そこにある左の通路を行けば地下に行ける。
右の通路から上へ上がれば二階に繋がっていて、俺がいた部屋や幾つか空き部屋がある。
三階は書庫やアトリエがあるが・・・二階とあまり変わらないな。
問題は四階。四階はロキサニーに出入りを固く禁じられていたから一度も登ったことがない。
ただ分かるのは、アイナの部屋がそこにあるということだけだ」
「それなら四階を目指せばアイナさんに出会えるのね。
でもアイナさんはあなたのペンダントを近くに持っているのかしら?」
そう私が呟いた時だった。
「私の城へ、いらっしゃい」
何処からか甲高い声が聞こえた。
それが久しぶりに聞いたアイナさんの声だということはすぐに分かった。
咄嗟に周りを見回してその姿を探すも、何処にも彼女は見つからない。
きっと自分の部屋にいて、魔法を使って話しかけているのだろう。
「ふふ、ペンダントは私の元にないわよ。城の何処かに大切に隠しておいたの」
くすくすと何が可笑しいのか不気味に笑う彼女の声がホールに響く。
センリの表情を伺うと、センリは眉をしかめて彼女の声を静かに聞いていた。
「本当にやって来たのね。
正直此処までたどり着けるなんて思っていなかったわ。
勿論、私の所まで辿り着けたら約束通り魔法を解いてあげる・・・それを本当に望むのなら、ね」
どこか含みあるアイナさんの言葉に私は思わず眉を顰めた。
「・・・望まないわけがないわ」
「さあ、それはどうかしらね」
ただ一言そう返したきり、彼女の声はもう聞こえなくなった。魔法が途切れたらしい。
相変わらず一方的だ。言いたいことだけを言ったら消えてしまった。
彼女が何をしたいのか、どうして私達を苦しめるのか。
今だ一つも予想がつかない。
「・・・初めは、あなたのペンダントを探しましょう。
ねぇ、そういうものを隠してありそうな部屋はどこかにないの?」
探す場所の検討がつかなければ、全部の部屋を探すしかない。
となれば、一体どれだけの時間がかかるかわからない。
センリは考えるように顎に手を添えると、少ししてから閃いたように言った。
「把握ができていないところが沢山あるが、
・・・大広間の奥に入ることを固く禁じられていた部屋があった。
あの場所には何かありそうだ。あとは・・・地下か」」
「地下・・・そこは牢屋?」
私の城にも地下には牢がある。
そしてその場所が私はとても苦手だった。
ただ単純にそこにいる人物を怖いと思ったのもあったが、
何より自分達が誰かを捕まえて閉じ込めているという事実が酷く悲しかった。
檻はあって当然だという考えも分かるが、そうであっても到底好きにはなれない。
「そうだ、牢がある。今は使われていないかもしれないが」
「そう・・・ねぇ、じゃあどちらにする?大広間と地下牢と・・・」
「・・・大広間の方を先に行くか」


私の気持ちを汲み取ってくれたのか、先に大広間の方へ向かうことになった。
ホールを抜ける途中、廊下の両端に二メートルは優に超す鎧 ―プレートアーマが幾つも並んでいた。
その一つ一つが剣、槍、弓などとそれぞれ別の武器を携え、無機質に私達を見ている。
いきなり動き出したりしないだろうか、はらはらしながらそこを通り抜けるが、
結局その鎧は動くことはなく、ただの私の杞憂に終わった。
奥にあった扉は玄関ホールの扉のデザインとよく似ていて、大きさはあれよりも少し小さい。
扉をそっと開けば藍色の絨毯が部屋の入り口から、真直ぐに奥へと伸びていた。
「此処が大広間だ」
大広間には奥に暖炉と中央に長テーブル、そして椅子が並べられていた。
テーブルは三十人は座れる程の大きさで、床の色よりも濃い紺色のテーブルクロスが敷かれている。
その上にはフォークとナイフ、皿、そしてグラスが綺麗に揃えて置いてあった。
今にも料理が運ばれてきそうな雰囲気だった。
「この城には何人ほど住んでいたの?」
「ロキサニーにアイナ、そして俺に、あとは・・・五人の動物達だけだ」
「それだけ・・・?これだけ食器があるんだもの、もっといるのかと思ったわ」
「ロキサニーはめったに客を迎えなかったからな」
その言葉に鴉ナキノ沼を思い出した。
魔女と人間との間には埋められない大きな溝がある。
互いが互いに嫌い合い、恨みあい、そして傷つけあってきたのだ。
この城を自ら訪ねる者はほとんどいなかったのかもしれない。
それも、寂しくて悲しい話だと思った。
センリは城を懐かしむ様子もなく、足早に大広間の中を歩いていくので私は必死に後をついて行った。
そして大広間の先、暖炉の前でセンリは足を止めた。
ぱちぱちと誰もいないのに、薪を焦がしながら燃えている橙色の火が見える。
「・・・センリ、暖炉がどうかしたの?」
「ここだ。隠し部屋がある場所は」
「この・・・暖炉の中?」
「ああ。昔偶然見つけて、ロキサニーに絶対入るなと釘を刺されていた」
そう言ってセンリは隣にあった食堂から大きめのボウルに水を入れてくると
暖炉の火に向かって何度も繰り返し水をかけた。
じゅうっと音を出しながら火は少しずつ小さくなり、やがて消えた。
しゃがんで見てみれば、梯子のようなものが奥に見えた。
「本当だわ・・・。この梯子上に通じているの?」
「みたいだな。行ったことはないから、先の事は分からないけど」
濡れた薪や灰の塊を軽くどけると、センリが先に暖炉の中へ入る。
後に私が続き、中に入ってすぐにあった梯子を登った。
天井には四角の鉄の扉があり、センリがそれを押し開けて先に部屋の中へと入っていく。
「・・・何だ、ここ」
「何があるの?」
センリがそっと手を差し伸べてくれたので、手を取れば優しく体を引っ張ってくれた。
そして身を滑らすように部屋に入った私は思わず「え?」と声を漏らした。
まるで屋根裏を思わせるようなその部屋。
そこには何もなかった。
ただ広い空間だけが広がっている。

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