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3-1 魔女の城(2)

 26,2016 20:56



窓は一つあるだけで、そこから外の光が差し込んではいるが、部屋全体は薄暗い。
床は木で出来ており、城の中にあるとは考えられないほどに古びていて、
そっと歩いても、ぎしっと床が軋む嫌な音が響いた。
「ここではない・・・のか?」
「一応調べましょう」
調べると言っても、何もないのだけれど。
見るものと言ったら床か壁か天井か、と言ったところでそれらで特におかしな所もない。
一体何の為の部屋なのだろうか。
センリがロキサニーさんに出入りを禁止されていたというのなら、何かあるに違いないのに。
しかしどれだけ探しても、一向に何の手がかりも見つからなかった。
無駄に時間だけが過ぎていく。
「地下の方に行くか」
しばらくして諦めたようにセンリがそう言った。
「・・・うん」
煮え切れない思いはあったけれども、私は素直に頷いた。
ただの寄り道になってしまったのだろうか。
そう思って二人で部屋を出ようとした、その時だった。
センリが大広間に戻る扉を開けようと手を伸ばした瞬間、
バチッと電気のような金色の光が扉から突然放たれた。
その光は無防備なセンリの体を胸から背中に向かって、まるで矢のように貫通した。
小さな悲鳴を上げて私はセンリに駆け寄った。
「センリ!」
膝をついてしゃがみ込んだセンリの顔を覗き込む。
見たところ特に目立った外傷はないように見えるが、顔色が悪い。
「大丈夫・・・?」
「ああ、大丈夫だ。今のは電気、ではないな・・・」
扉は変わらず静かにそこにあって、何の変化もないように見える。
今度はおそるおそる私がそれに触れてみたが、何も起きなかった。
しかしその変わり、嫌な汗がじんわりと額に滲んだ。
扉が、開かない。
「嘘。閉じ込められた?」
焦ってセンリを見れば、センリは慌てた様子もなく落ち着いた表情をしている。
目が合うとセンリは私の腕をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫だ」
「大丈夫って・・・何処かに手がかりでもあるの・・・?」
そう聞くもセンリは何も答えなかった。
大丈夫、と言ってくれたのは私を落ち着かせるためだったらしい。
つまりは手がかりは何もないのだ。
「どうしよう・・・」
私がそう呟くと、近くで何か唸り声のようなものが聞こえた。
嫌な予感を感じながらも私は視線をそっと後ろへと向ける、そしてひっと息を呑んだ。
「どうして・・・!」
さっきまで何もなかった、何もいなかったこの空間に私とセンリ以外の生き物がいた。
それはいつか森で見た、頭に牛のような角を持った猿人類に似た獣だった。
口からはみ出した牙はライオンのそれのように鋭い。
金色の目には、獲物である私達の姿が映っている。
いつの間に現れたの・・・?!
この部屋への出入りは入ってきたあの扉からしかできない。
その扉が今は閉じられている、それならこの獣は一体何処から現れたのだというのだろうか。
しかしそれを深く考えている暇はなかった。
唐突に獣が私達の方に突進し始めたのだ。
「危ない!」
センリが私を突き飛ばすと、私とセンリがいた場所に獣は突っ込んできた。
獣は自分の体を制御できなかったのか、そのまま部屋の壁に激突した。
壁は衝撃で罅が入り、近くをむわっと埃が舞った。
「何て力なの・・・」
今みたいにぶつかって来られたらきっとひとたまりもない。
獣は一瞬苦しそうな顔を見せたが、前足に力を入れてまたゆっくりと体を起こした。
まさかこんな場所で、こんな獣と戦うことになるなんて。
私は近くを見渡した。武器になりそうな物は勿論何もなかった。
センリが持っているナイフか弓でしか、対処できそうにない。
・・・守ってもらうばかりでは駄目だ。
「センリ、ナイフ・・・私にも貸して・・・!」
少し離れた所にいるセンリにそう言えば、センリは頷いて私の方にナイフをカバーごと投げて寄越した。
カバーを素早く足に付け、いつでもナイフを取り出せるようにしてから、私は獣と対峙する。
センリは、素早く矢を筒から抜いて弓に番えて構えた。
さあ、どっちに来る・・・?
『・・・・・・』
獣が私の方を見た。私は咄嗟にナイフに手をかけて、身構える。
獰猛な鋭い虎のような瞳が、真直ぐに私を見つめている。
「・・・?」
ぐるぐると喉を鳴らすような音を出しながら、それでも襲ってこない獣に何処か違和感を感じた。
あの森で出会った獣と同じなのに、何処か違う空気を纏っている。
この獣は"何"?
そう思っている内に、センリが獣に向かって矢を放った。
『・・・ガッ!』
それに気づいた獣が寸前で避けると、そのまま今度はセンリに向かって突進を始めた。
「センリ、避けて!」
センリは高く跳躍すると、突進してきた獣を寸前でかわした。
再度獣は壁に直撃し、自ら壊した壁の瓦礫の上に倒れこんだ。
私はセンリの方に駆け寄った。
センリは荒く呼吸をしながら言った。
「・・・・・・こいつに・・・止めをさして、出るぞ」
「・・・うん」
センリは新たな矢を取り、今だ倒れて起き上がれない獣に向けた。
それを横で見ながら私は得体の知れない不安感を抱いていた。
何か、嫌な予感がする。この部屋は何かがおかしい。
この獣もそうだ。何故こんな場所にこのタイミングで現れたのだろうか・・・?
「センリ、ごめんなさい。ちょっと待って」
私はセンリの腕を掴んだ。
「おかしいわ。何か分からないけど・・・違和感を感じるの」
正直に感じたことを言えば、センリは不思議そうに顔をしかめた。
「とりあえず目の前のこいつを殺すことが先決じゃないのか」
「・・・殺すじゃなくて、縛るとかできないかしら」
「何を今更そんなことを言ってるんだ・・・?
こいつに情けをかけてむざむざやられたらどうする?!」
急にセンリが険しい顔をして怒鳴った。
あまりにも珍しく彼が感情的に怒りを見せた様子に、私はびくりと体を震わせた。
「センリ、どうしてそんな言い方するの?」
「・・・早く殺したいからだよ」
「え・・・?」
「早く殺したいんだ!!」
焦ったように叫んだセンリの手から矢が放たれた。
しかし獣は鋭い目でセンリを睨むと、それを片手で掴んだ。
「なっ!」
センリが目を見張って驚きの声を上げた。私もその横で獣を見つめた。
あんなにも速いセンリの矢を掴めたというの・・・?
この獣にそんな動体視力があるとは正直信じられなかった。
センリは悔しそうに舌打ちをすると歯を食いしばり、もう一度弓筒から弓を一本抜こうと手をかけた。
「ちょっとセンリ待って、落ち着いて!」
「離せ、オネット」
「駄目よ!だって何だかあなた、様子がおかしいわ・・・!」
近くで見れば、センリの血走った目が見えて私は言葉を失くした。
何がセンリに起きているの。何が優しいセンリをこうさせているの?
「こいつは殺されるべきだろ!」

- 違う。

私は驚いて彼を唖然と見つめた。違う。
「離せ!」
センリが私を軽く手で払った。私の体はふらつきバランスを崩して後ろへと倒れていく。
しまったという表情を浮かべたセンリは私の方に手を飛ばすも、届かない。
床へと倒れる寸前で、私の背中に何かがぶつかった。
それは大きな獣の体だった。
「・・・!」
獣が後ろから苦しそうな呻き声を上げながら、きつく私の体を拘束した。
「だから言っただろ・・・早く殺すべきだって!」
センリが私と獣を睨むように叫んだ。
確かにさっき、彼の言う通りにしていたら、こんな事態にはならなかった。
センリは弓を下ろした。私が盾のように獣の前にいるから矢を射ることができないのだ。
私が招いた状況だ。
私がなんとかしなくてはいけない。
「ごめんなさい・・・」
小さく呟くと、そしてそっとナイフをカバーから抜き取った。
「そうだ、ナイフ!・・・オネット、刺せ!」
センリの言葉に私は一つ頷いた。
ナイフを右手に持つと、後ろにいた獣を肩越しに振り返って一瞥した。
そして間髪入れずに私は、その刃を思いきり投げた。
獣ではなく、目の前にいるセンリに。
「・・・何・・・?!」
私の放ったナイフはセンリの腹部に刺さっていた。
そこからどくどくと真っ赤な血が溢れ出す。
あまりにも痛々しくて、私は目を背けた。彼の苦しんでいる姿は見たくない。
「・・・何故・・・だ、オネッ・・・ト」
吐血をしているからだろう、声が途切れてとても聞き取りにくい。
私は自分のお腹に回っている獣の腕に手を重ねた。
「だって、あなたはセンリじゃない」
驚いたように目を見開いたセンリ-否、目の前の生き物は絶叫した。
その体はまるで空気の入った風船のように、ぼこぼこと膨張と収縮を繰り返し始めた。
そして突然、酷く膨らんだかと思えば激しい破壊音を立てて破裂し、跡形もなくなった。
私が投げたナイフだけがそこに残っている。
やっぱりだ、センリじゃなかった。
「・・・オネット」
急に耳元で名前を呼ばれて胸がどきりと跳ねた。
いつの間にか獣のようなごつごつした手ではなく、力強い優しい手が私を抱きしめていた。
本物のセンリが安堵したように言った。
「よく分かったな」
俯いているのだろうか、センリのさらさらとした髪が頬に触れた。
「当然よ。だって、あなたはあんなこと言わないもの」
「・・・」
「ごめんなさい、それでももっと早く気が付けばよかったわ」
あの時のごめんは俺に対してだったのか。
そう言うとセンリはそっと手を離して、私を振り返らせた。
「助けてくれてありがとう」
「いつから体を変えられたの?」
「あの扉に触れた時だ」
確かあの扉から電気のようなものが放たれたように見えたがあれは魔法だったらしい。
その魔法によってセンリは獣の姿に変えられ、代わりに偽物のセンリが作られた。
もしもそれに気づかなかったなら、私は部屋を出てから殺されていたかもしれないし、
獣をセンリと気が付かずに偽物と一緒に自ら殺していたかもしれない。
そう思うとぞくっと鳥肌が立った。
何とも悪趣味だ、とセンリが言った言葉に私は心から同意した。
「・・・何か落ちてるわ」
ふと床に落としたままのナイフの下にキラリと光るものを見つけて取ってみた。
それは、とても小さい赤い鍵だった。
「この部屋はこの鍵を守るための部屋だったのかもしれないね」
「・・・それほどに大切な鍵なのね。
これを使う部屋にセンリのペンダントがあればいいのだけれど」
そう思いながら落とさないようにしっかり服の内ポケットにしまった。
「センリ、体は大丈夫?」
「ああ・・・獣の体が制御できなくて壁に激突した時は激しい痛みもあったが、
元の体に戻ったら、もう傷も痛みもなくなっていた」
「よかった・・・それを聞いて安心したわ」
センリは優しく微笑むと扉をそっと手をかけた。
今度はさっきの魔法は起こらず、来たときのように軽く扉は開いた。
「一度ホール戻ろう」
私達は階段を降りていく。
そして次に向かったのは、地下。隠し部屋よりももっと暗い地下牢だった。

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