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3-1 魔女の城(3)

 26,2016 21:01



ホールに戻ると食堂から拝借した蝋燭に、松明の火を灯した。
地下へと繋がっている通路を進み、階段を少しずつ降りて行けばひんやりとした空気が濃くなっていく。
ホールの灯りがどんどん遠くなり、その分蝋燭の火が不気味に闇に浮かんだ。
しばらく歩いていくと、先に古い木の扉があった。
センリがノブをそっと手前に引けば、地下の世界が開けた。
扉の向こうは、そこが本当に牢かさえ分からないほどの漆黒の闇が広がっていた。
「・・・すぐ先が何も見えないわ」
扉を石で押さえ閉まらないようにすると、センリと私は蝋燭を左右に向けながら少しずつ前へ進んだ。
真直ぐに伸びる通路は狭く、左右等間隔に似たような檻がいくつも並んでいた。
何処にも窓が見つからない。
この場所に人を閉じ込めておくということが信じられなかった。
自分の城の牢ではここまで暗くはない、光は差し込むし火で通路が照らされているのを知っている。
しかし此処は窓もなければ一切光がない。
囚人は外の光も何も感じられない、こんな場所で生を終えていくの?
どうしようもない嫌悪感を感じて、私は蝋燭を持っていない方の手で口を押えた。
「・・・・・・」
誰ももう牢にはいないようなのに、ずっと誰かが私達を見ているような気がした。
刺すような冷たい空気のせいか、悪寒を感じて身震いした。
早く此処を出たい。
そう思っていると、突然、”バン”という大きな音が後方から鳴り響いた。
「・・・何?」
今のって。
「扉が閉まった音?」
「そうだろうな。閉まった、というより閉められたっていうのが正しいか」
閉められた?
確かにさっき、入り口は閉まらないようにしてから部屋に入ったはずだ。
閉められたということは、つまり閉じ込められたということ?
出口を見つけなければ、ずっと私たちはここにいなければいけないの?
そう思っているとセンリが私の手を優しく掴んだ。
「オネット、落ち着いて。とりあえず先に進もう」
「・・・そうね」
暗闇の果てが見えず、終わりがないのではないかという不安さえ抱く。
私は必死に大丈夫、大丈夫。と心で繰り返した。
センリがいてくれる。それにこんな所で立ち止まってちゃ駄目だ。
なんとか自分を奮い立たせて、私は歩いた。
そして少ししたところでセンリが立ち止まり、怪訝そうに小さく呟いた。
「・・・行き止まりか?」
その言葉に私もセンリの背から顔を出し前を見た。。
確かにそこには壁があり、行き止まりのようで先には進めない。
「ここでもないのかしら・・・?」
手で触れてみても隠し扉のようなものはなく、固い壁の感触しかしない。
「進めないんじゃしょうがないな。一度戻るか」
センリがそう言い、元来た道を戻り始めた。
やはり強がっていても怖いのは怖い。私はセンリの背中を少し押しながら先ほどより早く歩いた。
入り口はまだだろうか。何もないというのなら、早くこの場所から出たい。
そう思っていると、カタンという音がした。
私は横の檻に視線を向け、そして思わず悲鳴を上げた。
「ひゃあ!」
「・・・!?」
さっきまで牢の中には誰も、何もなかったはずだった。
それなのに。それなのに!今自分が立っている左の檻、その中に骸骨がある。
それもただ転がっているのではない、直立して立っているのだ。
自分と同じぐらいの視線に頭蓋骨があって、目線があっているようにさえ感じる。
ずっと見ていることができずに、目の前のセンリの背中に顔を押し当てた。
怖い!
「骸骨が立っているなんて・・・!」
今だけなら魔女の魔法よりも、こっちの方が怖いのではないかと思えてしまう。
「オネット、骸骨は立ってないよ。壁に縛られてそう見えるだけだ」
「でもさっきこんな骸骨はなかったわ」
「・・・そうだな。ということは此処に何かあるのかも」
まだ背中から離れられないでいる私の背中をぽんぽんと優しく叩くと、センリは檻に手をかけた。
カチャン、鍵のかかっていない柵は簡単に開いた。
「本物の骸骨だわ・・・」
私はようやくセンリから離れ、骸骨の視線から外れるように檻の隅へと移動した。
さっきは自分の事を見ているのかと思ったけれど、そうではなかったようで骸骨はずっと正面を見ている。
でも、急に動いたりしないよね・・・?
そう思って睨むように見ていた私は、ふと骸骨の胸の辺りでキラリと何かが光ったのに気づいた。
「センリ、見て」
「・・・・・・これは鍵か?」
「さっきの鍵とは全く違う形をしているけれど・・・これも何処の鍵なのかしら」
「一応持っておくか」
センリがそう言って骸骨の方に手を伸ばした ―その瞬間。
骸骨の鋭い手が動いたかと思えば、いきおいよくセンリの方へと伸びてきた。
顔を掠める直前で反射的にセンリは後ろに下がり、それを回避した。
「だ、大丈夫?」
「・・・ああ。まさか動くと思わなくて油断してた。それにしてもこの反応・・・怪しい」
骸骨は何事もなかったかのように、再び通路の方を見て動かなくなっていた。
しかし胸の鍵を取ろうとしたら、きっとまた襲いかかってくるのだろう。
腰の辺りを壁に縛り付けられているため、あまり身動きは取れなさそうだが、
一突きされたら最悪手を貫通しそうなぐらい、骨が刃物のように鋭い。
「どうやって取る?・・・無理に取ったら刺されそうだわ」
「壊すっていう手もあるけど」
「・・・それはやめましょう」
「まあ、そうだな」
元は生きていた人、と思えば何だか気が引けるし
正直なところ、壊そうとしたら呪われそうな気がしないでもない。
「だけど、ここまできたら後には引けないな」
そこで何故かセンリは困ったような顔をして私の方を見た。
「壊さないとしても、危険は承知でやるしかない。
怖いかもしれないが、オネットも手伝ってくれ」
その言葉に私は頷いた。そうだ、こんなところで立ち止まっている時間なんてない。
私の様子を見てかセンリは頷くと、骸骨の方に向き直る。
「よし、行くぞ」
そして先ほどのようにセンリは鍵の見えるその胸部へと右手を差し出した。
「・・・くっ」
すると予想通り、骸骨の両手がセンリのちょうど喉へと伸びてきた。
首を貫こうとする寸前でセンリがそれを手で受け止めた。
「骨なのになんて力を出しやがる・・・」
センリが少し挑発的に骸骨を睨みながら、必死に暴れる両手をがっちりと掴んでいる。
ガシャガシャと骨が軋む音や、壁に激突する音が地下に響いた。
「今取るから待ってて!」
胸部の骨は損失が激しい箇所もあり、骨と骨が開いている場所を見つけて私は右手を突っ込んだ。
指に冷たい金属の感触を感じ、掴もうとしたがすぐに鍵は手からするりと抜ける。
骸骨が暴れ回って上手く鍵が掴めない!
「オネット頑張れ!」
必死に骸骨の両手を掴んだままセンリが言った。
「あと少し・・・!」
再び私の手に鍵が触れ、触れたと感じた瞬間に今度は強く拳を握りしめた。掴めた!
そしてそのままいきおいよく自分の方へ鍵を引っ張り出した。
ぶちっと何かが千切れる音がしたかと思えば、次の瞬間、骸骨の叫び声が上がった。
苦しみもがくかのように、あるはずのない喉を掻き毟って骸骨は暴れる。
『アアアアアアアアアアアアアアアアア゛!』
「・・・?!」
私は思わず後ずさりした。
この骸骨は、どうしてこんなに暴れているの?
・・・この鍵を取ったから?この鍵を守れなかったから?
そして骸骨はふっと魂が抜けたかのように動かなくなった。
骨がぼろぼろと崩壊を始め、やがて地面に散らばった。
「あ・・・」
罪悪感が胸に広がって、口元を手で押さえた。
気が付かない内に自然と口から「ごめんなさい」という言葉が零れていた。
「どうしよう・・・取るべきじゃなかったの?」
センリは私の肩に触れ、言った。
「いや。オネット、俺達は悪くない。
こいつが暗いこの場所で、永遠に鍵を守り続けなくてはいけないという方が残酷だよ」
センリは骸骨の骨を一か所にまとめ、そこにその檻の中にあった布をそっと被せた。
祈るように額に指を当てる。それに見習って私もそうすると目を閉じた。
そして心の中で願った。
今度あなたが生まれ変わるとき、その場所が幸せな場所でありますように、と。
「財宝室はどこだろうな」
少ししてから、錆ついた鍵を眺めながらセンリが言った。
私は先ほどの骸骨の様子を思い出しながら、ふと気が付いたことがあって振り返った。
通路を挟んで向かいには、同じような檻がある。
そこを指差して私は言った。
「センリ、・・・ここじゃないかしら?」
「・・・どうして分かるんだ?」
「さっき骸骨が立っていた時に目が合ってた気がしたんだけど、
もしかしてこの檻を見ていたのかなって今になって思ったの」
「調べるか」
二人で向かいの檻の中をくまなく調べた。
蝋燭の火で部屋を照らしながら慎重に怪しい所がないか探していると、壁が剥がれる場所を見つけた。
こするように表面をそっと削れば、隠されていた黒い扉が出てきた。
「・・・あった」
そっとそれを撫でれば鉄の匂いが鼻をかすめた。
よく見てみると鍵穴らしき小さな穴がある。
試しに、さっきの部屋で見つけた小さい方の鍵を鍵穴に差し込んでみたが開かなかった。
「やっぱり骸骨が持っていた方かな」
今手に入れたばかりの、骸骨が持っていた方の鍵を慎重に入れる。
どうか開いて、そう願いながらそっとドアノブを回せば、カチンという音がした。
開いた。
「・・・当たりだ」
少し重めの扉を開けると、無数の光輝く宝石達が視界に飛び込んできた。
財宝室。
今まで魔女が何処からか手に入れた宝石達を隠している部屋。
しかし、予想以上にその宝石が多いことに驚く。
私とセンリは顔を見合わせた。

これは探すのに時間がかかりそうだ。

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