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3-3 微かな違和感(1)

 31,2016 13:59



3

「此処がセンリさんの部屋ですよ」
二階を歩いている途中、一つの部屋の前でニックは立ち止まるとそう私に教えてくれた。
「センリ、入らないの?久しぶりに」
「別に入る必要はないと思うけど・・・特別な物もないし」
そうセンリは言ったけれど、見てみたいなと思った。
ずっとセンリが過ごしてきた場所だし、興味がある。
駄目かな。
私は先へと進もうとしたセンリの服の裾を掴んだ。
「・・・センリの部屋、見ちゃ駄目?」
そう言えばセンリは一瞬驚いた顔をすると、かりかりと頬を掻いて少し照れたように言った。
「別にいいけど」
「本当?!」
私は嬉しくて声を弾ませると、そっと部屋の扉を開いた。
するとそこにはさっきセンリが言った通り、すっきりとした空間が広がっていた。
家具はベッドと棚が一つだけで、壁には何も掛かっていない。
必要最低限のものしか置いてなく、シンプルな部屋だった。
私の反応を見てセンリが隣で言った。
「だから特別なものは何もないって言ったんだ。面白くなんかないだろ」
「ううん、そんなことはないよ」
こういう部屋の方がセンリらしいと思った。
「センリさんは、アイナに何か必要じゃないかと問われる度に ”矢”って言ってましたもんね。
ぼく、いつか射抜かれるんじゃないかと思ってましたよ」
「逆に牙で刺されたけどな」
「ああ!それは言わないお約束です!」
そう言ってしゅんと項垂れたニックを珍しくセンリが抱えて自分の肩に乗せた。
「分かってる」
二人の微笑ましいやり取りを見ながら、部屋をぐるりと回る。
此処にはやはりアイナさんの所へ行ける手がかりはないようだ。
そう思いながら棚に手をついて・・・ふと私はある違和感を感じた。
あれ?どうして・・・?
「センリがここから追い出されたのって1か月以上前よね?」
「ああ、そうだけど」
すっと棚を撫でてみる。
そして自分の指をそっと見つめて、私は思わず首をかしげた。埃がない。
この部屋が使われなくなって日が経っているにも関わらず、部屋は綺麗な状態を保っている。
「ここも魔法の力が働いているの?」
「いや、この部屋に魔法はかかっていないと思うけど。何かあった?」
「・・・いいえ、何もないわ」
ニックが物言いたげに私を見てきたが、私は首を横に振ってそう答えた。
わざわざ口に出さなければいけないほど、大したことではない。
アイナさんが掃除をしているのかもしれない。
しかし、追い出したセンリの部屋を掃除する理由は全く見当もつかなかった。
「ニックにも部屋があるの?」
「ぼくにですか?ありますよ。ただぼくの部屋は4階ですが」
「4階?アイナさんの部屋と同じ階にあるの?」
「はい、そうですよ。まあ今は4階に行けませんが」
センリの話では二階が居館になっているという話だったけれど、
やっぱりニックはアイナさんに近い存在だったのかもしれない。
アイナさん-彼女を追いかけてここまで来た。
もし彼女の元へたどり着けたなら、全ての動機が、真実が分かるのだろうか。
「・・・二階はあと幾つか部屋がある。そこを見てから三階に行こう」
センリがそう言いながらドアを開けた。
「分かったわ」


◇ ◇ ◇


アテナンティスの王女が姿を消した。
そんな噂が耳に届いたのは、彼女と最後に会ってから5日ほど経った頃だった。
街を巡回している時に、”オネット姫”という名前が聞こえてつい耳を傾けた。
”アテナンティスの王女が姿を消した”
まさか、と思った。
しかし、何度もその情報を聞けば真実には違いないと思った。
一体何故彼女が?
動機は憶測で語られてばかりいて、どれも信憑性がなかった。
ただ一つだけ分かったことがあった。
彼女がいなくなったのは、―僕と別れた直後だ。

あの夜、オネットが僕に言った言葉は簡単に忘れられるものではなかった。
頭の中を呪縛のように彼女の声がずっと駆け巡っていた。
愛せない、あなたじゃない、と。
正直、オネットも僕の気持ちに応えてくれるだろうと思っていた。確信があった。
それがまさか思ってもいない返事で、耳を疑った。
駄目なのか、そう諦めようとも思った。
だけど、彼女の様子がおかしかったことに後になって気づいた。
何故あんなに悲しい目をしていたのだろう。
僕を同情して悲しんでくれているのなら分かる、しかしそれ以上の何かがあった。
あの森はサーヴァリアの森。
魔女の森。
初めて彼女に会った時、何故そんな場所に彼女が一人でいるのかが分からなかった。
しかし、少なくとも二人で会っていた時は危険な場所ではないように思えた。
そう、錯覚していた。
あんな過去がある魔女の棲み家、何もないはずがないのに。

アテナンティスとナオリオは昔から縁のある国だった。
10年前の戦争でも同盟を結び、カルヴァン大国とその隣接の小国家メルディス等を滅ぼした。
いや、滅ぼしたと言ったら語弊があるかもしれない。
アテナとナオリの両国にはカルヴァンに対しての戦意が初めは全くなかった。
しかしカルヴァンの方は違った。
それまでカルヴァンは深刻な農作物の不足を問題に抱えており、アテナに支援を受けていた。
鉱物に関しても同様だ。アテナはカルヴァンの国を支えていた。
しかし、カルヴァンはその恩を仇で返したのだ。
豊かで広大なアテナの土地を奪うため、近くの小国を巻き込み戦争を始めた。
一番の被害は隣接していたメルディス国だった。
公にはされていないが、国軍の上層部ではメルディスは魔女と繋がっているという情報を得ていた。
アテナンティスのすぐ傍にあり、ひっそりとしたサーヴァリアの森に住んでいるという魔女。
彼女がかつてアテナ国民にしたことは殺戮であった。
森を訪れた弱きアテナの民を、時には豹変させ、時には命を奪った。
誰も森へと足を運ばなくなってからは関わることもなく、
今では死んでいるか生きているかも分からないほどその存在を消していたというのに。
何を今更、と上層部は混乱していた。
もしも本当にメルディスと繋がっているのなら、それはとてつもない脅威だった。
人外の、理屈ではどうにも説明できない不気味な力。
直ちに潰しておく必要があった。
ナオリオ国軍はすぐにメルディスに向かった。
そしてそこは攻撃の第一目標にされたと同時に、最も酷い戦地となった。
カルヴァンだけに戦う力は最初から毛頭ない。
アテナに辿りつく前に、同盟していた国が次々と敗れていき、やがてカルヴァンは報復した。
幾つもの国、そして命が消えた。
戦争中、やはりメルディスは魔女と繋がっていたようだったが、
しかしメルディスが最後に追い込まれていても、とうとう魔女が助けることはなかったという。
非常な魔女の思いを、誰が理解することができるだろうか。
考えるだけ無駄だと、誰もが言う。

魔女。恐るべき存在の棲み家。
もしあの場所で彼女の身に何かが起きていたのだとすると?
そう思ったら、僕は希望を捨てられなかった。
― あなた じゃないの
そう彼女は言った。しかし僕は違う、彼女じゃなければどうしても駄目なんだ。
僕の名前を呼んでくれた、彼女。
そう、彼女が求めているのは僕でなければならない。

ふとカレンダーを眺めた。
誰が書いたのか、あと2日後の日の所に赤い丸が書かれている。
「イズミ様、用意は整っております」
「・・・分かった」
"・・・必ず連れてきます。そのかわり約束してください、誕生祭は必ず行うと"
僕は馬に跨ると軽く足で蹴った。
向かう先はただ一つ。
彼女を奪った サーヴァリアの森へ。

「僕は君を、諦めない」

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