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4-1 前夜(2)

 05,2016 22:07



夜、私は部屋の窓から空を眺めていた。
月は雲に隠れて見えないが、周りに小さな星が幾つか煌めいているのが見える。
冷たい風が頬を打ち、寒さを感じるが、私は窓を閉じなかった。
眠れない、というよりは眠りたくなかった。
朝になれば私は誕生祭に出て、イズミと結婚することになる。
そしてもう、センリにこの思いを伝えることは二度となくなる。
しかしそれはもう避けようのない未来。
これは、私が過去に望んだ未来なのだから。
誰が悪いわけでもない、心変りをした私がいけなかった。
あんなにもイズミのことを思っていたはずなのに。
十年以上抱いていた気持ちの変化が正直自分でも信じられない。
だけど間違いない。私はセンリを愛している。
彼を思えば、愛しさで切なくなった。
「センリ・・・会いたい
何に願えば、届くのだろうか。
何に祈れば、許してもらえるのだろうか。
私の思いはもう、諦めるしかないの?
トントントンと軽くドアを叩く音が聞こえて、私はゆっくり振り返った。
扉の向こうから、澄んだ声が聞こえた。
「オネット、起きている?」
イズミの声だった。
「・・・・・・どうぞ」
少し躊躇しながらもそう言えば、イズミは静かに部屋に入ってきた。
開けたままの窓から入り込む冷たい風が、彼のカナリヤ色の髪を静かに揺らした。
「まだ、寝ていなかったんだね」
「・・・眠れなくて」
「眠りたくない、の間違いじゃなくて?」
少し寂しそうに笑いながらイズミは言った。
「どちらだっていいと思うわ」
「・・・そうかな」
「そうよ・・・それより何で此処に来たの?」
婚儀前の男女がこんな真夜中に会うなんて、許されることではない。
不審そうに私が問えば、イズミは答えた。
「君が僕に聞きたいことがあると思ったから。
そしてそれを婚姻前に話しておかなくてはいけないと思ったからだよ」
そう言うと、イズミは窓の傍に近づきそっと外を眺めた。
そっと窓に手をつきながら、小さく息を漏らす。
月が見えないね、と。
私は彼の背中を見つめながら、静かに言った。
「・・・私はあなたを愛せない」
「ははっ・・・それは聞きたいことじゃない、言いたいことだね。
そんなのはもうとっくに知っているよ、何度も言わなくても分かる」
「なら、どうして私と結婚するの?」
「・・・」
イズミはゆっくり私の方を振り返り、一つ頷いた。
「そう、その質問が"正解"だよ。
その問いに答えるために、こうして僕はやってきた」
カチ、カチ、カチ、と部屋にある時計の秒針が鳴り響く。
すっかり冷えた部屋の空気が私達を包んでいた。
息を呑む音さえ彼に届きそうなぐらいの静寂がしばらく続き、イズミはそっと口を開いた。
「僕は、君と結婚しなくてはいけない」
真剣な瞳で彼は言う。
「僕は君と結婚しなくてはいけない理由がある。
それは君が僕とそうしなくてはいけない理由と大して違いはないはずだ。
君が、大臣達の前で僕との婚約を拒まなかった理由は?」
「・・・臣下のため、臣下の幸せのため」
「そうだろうね。きっと君はもう彼らを裏切られない、そう思った。
それは臣下や民の期待と希望に応えるために他ならない」
「あなたもそうだって言うの・・・?」
「ああ、そうだよ。
ナオリオの民が望むこと、それはアテナンティスとの繋がり。
この繋がりを失くしては、国が存続していくことはできない。
そして僕が君と繋がることが、その繋がりを確固たるものにできる最大の方法。
その選択を王子である僕が捨て置けるはずがない」
ああ、と私は心の中で思った。
彼の言うことはよく分かる。
アテナンティスと違ってナオリオは同盟国を以前に多く無くしてしまっている。
そこでアテナと繋がりを強めたいというのは至極当然だ。
しかし。それが理由だというのならば。
「この結婚にはやはり愛なんてないのね・・・」
思わず自分の服をぎゅっと掴んだ。
突然愛する相手が変わった私が、イズミを責めることなんてできない。
だけど、心の中にある切なさは気持ちを偽ることができずに、涙へと変わっていく。
なんて悲しい運命なんだろう。
そう思って頬を伝う涙を手で軽く拭うと、イズミが首を横に振った。
「ただ勘違いをしないで欲しい。
この婚姻が国のためであることが第一の理由だとしても、
僕が絶対に選択を変えない理由は別にあったんだよ。
オネット。僕はね、君を愛しているんだよ」
イズミは困ったように眉を少し下げて、寂しそうな声色で呟いた。
「だから、ごめん。君が僕を愛していなくても、」
イズミは部屋の扉に手をかけると
「僕は・・・君を離したりはしない」
そっとそう呟き、部屋を後にした。
再び一人になった部屋で私はぼんやりと考える。
そう。王子にはつらい過去があったはず、とても悲しい過去があって、
国のことを大切に思っている彼を裏切るのはとても心苦しいこと。
やっぱり私はイズミとの結婚を受け入れるべきなのかもしれない。
そう思いながらも、気づいたことがあった。
そういえば彼の過去を覗いてみた戦場、あの悲惨な状態がかつてのナオリオだったのだろうか。
あの戦争での?優勢にたっていたというナオリオがあんな状況になっていたというのか。
どこか違和感を感じながらも、私は考えることをやめた。
もう何が正解で、何が不正解か分からない。
「・・・・・・」
私はもう一度窓の方に目を向ける。
何度見ても変わらない、月は雲に隠れて姿を現すことはなかった。
そしてやがて暗かった夜は明け、大地に光が灯り出した。



十二月二十一日。
私の誕生日であり、誕生祭のあるその日は、清々しい快晴だった。
雲一つない青空が澱みなく遥か彼方まで続いている。
城の回廊の窓からそれを眺めていれば、ロウザに名前を呼ばれ振り返った。
ロウザは私を見るなり、満足げに頷いた。
「姫様・・・あなたは世界一美しいお姫様、・・・いいえ、花嫁です」
私は自分の体に視線を落とした。
純白、真っ白で繊細なシルクのドレスは私の体にぴったりサイズが合っている。
胸元近くまで肌が出ているのでは寒くて風邪を引いてしまう、と
渡されたボレロを上から着ていた。
首にかけられたダイヤモンドが光るネックレスは少し重いが、
その分、太陽の光を反射して眩いほどにキラキラと光っている。
今まで着た衣装や装飾品の中で一番高価に違いない。
「・・・ロウザ」
長年傍にいてくれた彼女の名前を呼べば、ロウザは微笑みながら首をかしげる。
「はい、姫様」
「あなたにとって・・・あなた達にとって何が一番幸せ?」
少し驚いたようにロウザは目を丸くした。
思いもよらない質問だったからだろう。
しかしロウザは、さほど考えることもなく静かな声でしっかりと答えた。
「姫様、あなたが幸せでいてくれること・・・笑っていてくれることです」
「私・・・が?」
「はい。私にとって、そして民にとってあなたは唯一のかけがえのない存在です。
守るべき存在であって、頼るべき存在です。
この国はあなたを失くしては在りえない。
でもそう難しいことではなく、ただ単純に私はあなた様が好きです。大好きなのです。
だから、あなた様に幸せでいて頂きたい。それが私の幸せです」
そう言って、ロウザは私の手を取った。
手袋をしていても感じる彼女の手の温かさに私は、唇を震わせた。
一度ぎゅっと目を瞑り、そしてロウザを真直ぐに見て私は微笑んだ。
「ありがとう、ロウザ」
私は両手をぎゅっと握りしめた。
覚悟を決めなくてはいけない。
もうこの道を戻れない、振り返れない。
胸の奥で、遠い愛しい彼と過ごす日々を追い求めていたとしても、
気づかないふりをして、忘れたふりをして生きていかなくてはいけない。
皆のために。
「それでは姫様参りましょう、婚儀が始まります」
ロウザに手を引かれて私は歩き出す。
途中もう一度だけ窓から外を見た。
綺麗な青空は変わることなく、そこに在り続けている。
何にも縛られず、広々としていてとても大きい。
私はそっと首を振った。
覚悟を、決めよう。
「センリ・・・」
ロウザにも聞こえないぐらいの小さな声で私は、彼の名前を読んだ。
あなたを心から愛していた。
だからどうか。
どこかであなたが幸せでいてくれることを、願っている。
「さようなら」


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