FC2ブログ

スポンサーサイト

 --,-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Aina

 11,2016 22:08



Aina


あるところに赤く長い綺麗な髪の少女がおりました。
名前はアイナといい、その名前の通り、花を愛する優しい少女でした。
アイナはメルディスという国の端で、父や母と静かに暮らしていました。
アイナは何処にでもいる普通の少女でした、そうあの時までは。

ちょうどアイナが7歳の誕生日を迎えた日でした。
アイナが大切にし、世話をしている花畑を荒らす者がいました。
それは近所に住む、気が強い三人の少年でした。
彼らが花を踏みつける姿を見て、アイナは怒りました。
しかし少年らはアイナを気にした様子もなく花を踏むのを止めようとしません。
それを見てアイナはふつふつと怒りが込み上げました。
そして許せないと思った時でした、体中が熱くなりアイナは目を瞑りました。
幾つもの悲鳴が聞こえました。
恐る恐るアイナは瞼を開けました。
するとそこには奇妙な光景が広がっていました。
花を踏み荒らしていた少年たちが足を抱えて蹲っていたのです。
足が痛い痛い、と泣き叫んでいる少年達。
何が起きた分からず、アイナは恐怖を覚えて、その場から逃げ出しました。
まさか自分が ―そうしたということも知らず。

その数日後、少年達はアイナの家にやってきました。
そして冷たい目で彼女を見るなり吐き捨てて言ったのです。
「お前は、冷酷な魔女だ」と。
アイナは魔女の存在を知りませんでした。
何の事だか分からず、ただ彼らは勘違いをしているのだとそう思いました。
しかしその日以来、生活は一変したのです。
優しかった父母が自分の事を怯えるような目で見るのに気づき、アイナは言いました。
「どうしたの?」
すると両親は目も合わさずに言いました。
「お前は魔女だ。これからは一人で暮らすのだ」と。
そう言って両親は家を出て行きました。
待って、嫌だ、どうして?
そう泣いてアイナは必死に止めようとしましたが、彼らは聞く耳を持ちませんでした。

一人で住む家に、毎日のように嫌がらせがありました。
食べる物もない、飲むものもない、体は日に日に弱っていきました。
激しく家の扉が叩かれる音に耳を塞ぎ、それでも彼女は耐えました。
「私は、本当に魔女なの・・・?」
人々が恐れる、得体の知れない存在。
「それなら、嫌われてもしょうがないよね」
アイナの心も体も、もう限界でした。

ある日、アイナは昼間にそっと家を抜け出すと、久しぶりに彼女の花畑へと向かいました。
そしてそこで見た光景に彼女は絶句します。
一面を埋め尽くしていた花は跡形もなく、焼き払われていたのです。
鮮やかな赤や緑や黄色をしていた其処は、漆黒の色をしていました。
彼女はその花畑の中で座り込みました。
涙が溢れてきては、止まりませんでした。
どうして自分がこんな目に合うのか。
どうしてこの花達がこんな目に合うのか。
理不尽さに、悲しみと怒りが入り混じって、彼女は土を爪で引っ掻きました。
白い手はどんどんと土で汚れていきます。
アイナはそれを見て、思いました。
そうだ、私は汚い。
初めから汚かったのだ、魔女だから。全部は魔女だから。
そうして土を削り続けて、アイナはふと手を止めました。
焼き尽くされたはずのそこに、一輪だけ花がまだ残っていたのです。
風が吹けば今にも飛ばされて消えてしまいそうな、
何とか命を繋ぎとめているか弱い花が一輪だけ。
アイナはふらふらとした体で、手でその花を包み込みました。
魔法の使い方があっているかは分かりませんでした。
それでもアイナは力を振り絞って花に力を与えました。
「あなたが、私の代わりに生きてくれるなら」
もう私は疲れてしまったから。
萎れていた花が少しずつ、傾けていた体を元気にまっすぐと伸ばし始めました。
それを見てアイナは目を閉じました。
その時、何処からか澄んだ声が聞こえてきました。
「―君、大丈夫!?」
しかしアイナはもう目を開ける気力さえありませんでした。
誰かの声を聞きながらアイナは意識を手放しました。

そして次に目を開けると、アイナは見たこともない場所にいました。
絵本で見たお城のような美しい場所。
そう思っていたアイナは、そこが本物の城だと気づくと逃げ出そうとしました。
何で城に自分がいるか分からないものの、
魔女だから殺されてしまうかもしれない、とそう思ったのです。
しかしすぐにアイナは一人の少年に見つかってしまいました。
死を覚悟したアイナは少年に向かっていいました。
「私は魔女よ、殺すなら早く殺しなさい」と。
少年は澄んだ瞳でアイナのことを見つめていました。
そして少年は言ったのです。
「どうして魔女だったら殺さなくてはいけないの?」
アイナは答えました。
「だって魔女は恐ろしくて、冷たい心を持っているからだ」と。
すると少年は、そんなアイナの言葉に笑いました。
「それなら、どうして君はあのか弱い花を助けたりしたの?
 もし君が恐ろしくて冷たい心を持っている魔女なら、そんなことはしないよ。
だから君は優しい魔女なのだ」と。
アイナは少年に感謝をしました。彼の一言に心が救われたのです。
「ところで、あなたは誰?」
「僕はこの国の王子 ―センリだよ」
アイナはその後、しばらく少年 ―センリの元で世話になることになりました。
そして実母ロキサニーが来るまで、二人は城で仲良く過ごしました。

「我が娘を返して欲しい」
ある日、そう言って現れた女性は、黒い服を身に纏った美しい女でした。
聖母のように優しい笑顔を浮かべ、しかし何処か冷たい空気を纏っていました。
その女性は自らをアイナの実の母親であると、言いました。
アイナは初め彼女が自分の母親であることを信じられませんでした。
しかし失くしたと思っていた家族が現れて、彼女は純粋に嬉しいと思いました。
「アイナ。私の城へと戻るぞ」
そう言われてアイナは頷きました。
だけど、一つだけ心残りがありました。
それは自分を救ってくれた、優しいと言ってくれた、センリのことでした。
一緒にいたのは一か月ほどでしたが、その間にアイナはセンリの事が好きになっていたのです。
そのため、別れはとても悲しいものでした。
アイナは自分の気持ちを伝えることなく、城から去りました。

そして一年が経ち、アイナは以前より魔法が上手に使えるようになりました。
ロキサニーの魔女の城は、サーヴァリアという森の奥にありました。
サーヴァリアはアテナンティス国という大国の傍にある美しい森で、
しかしロキサニーは、アイナが城の傍から離れることを禁じていたので、
滅多に森へと出ることはありませんでした。
再び穏やかな日々が訪れ、少しずつ心の傷も癒えて行きました。
辛かったことも、受けた傷も、遠いことのように思えるようになりました。
しかし毎日のように、センリのことを思い出しました。
魔女だと知って優しくしてくれた彼に、アイナはもう一度会いたかったのです。
どうしても会いたくて、そのことを告げるとロキサニーは言いました。
「分かっている、だけど今はどうにもできない」と。
もどかしさを感じてアイナは思わず城を飛び出しました。
一目だけでもいい、センリの姿が見たかったのです。
その時は、空間を移動する魔法を知りませんでした。
アイナは、一年もいるのにほとんど見ることのなかった森の中を一人で歩きました。
そして森の中央にある湖の所に来たところで、ふと足を止めました。
湖。
そこは澄んだ水、湖の中心で空へと伸びる大樹等があり、とても美しい場所でした。
その美しさ、儚さにアイナは目を奪われました。
こんな場所が森の中にあったんだ、
そう思って眺めていると、不意に誰かの足音がしました。
アイナは咄嗟に木の陰に隠れました。
心臓がばくばくと動いて手が震えたのは、
一年間誰とも会わず、久しぶりに誰かに会うことに恐れを感じていたからでしょう。
アイナは木々の隙間から、湖の前に立つ人影をそっと見ました。
そして、あっと声が出そうなぐらい驚きました。

そこにいたのは、カナリアの色の髪を持つ彼 ―センリでした。
以前あった時よりも少し背の伸びた彼を、アイナは見つめました。
自分が会いたくて会いたくてどうしようもなかった彼が、すぐそこにいる。
センリ。センリ。会いたかった。
思わず、アイナはセンリに駆け寄ろうとしました。
しかし動き始めた足はすぐに止まりました。
センリに駆け寄っていく、自分ではないもう一人の人影が見えたからです。
それはブロンズの髪をした美しい少女でした。
まるで何処かのお姫様のようにキラキラと輝いている少女は、センリに近づくなり言いました。
「センリ、会いたかった!」
するとセンリの方も少女を見て微笑んで言いました。
「僕もだよ、ミツキ」

アイナは立ち尽くしました。
あの子は一体誰?
知らない少女が、会いたいと切望していた少年に微笑んでいる。
アイナは心がずきずきと痛むのを感じました。
そしてそのままセンリと会うことはできませんでした。
センリが森に来ると決まって、知らない美しい少女が現れるからです。
湖で逢瀬を重ねる二人を、アイナは見守り続けました。

next...
スポンサーサイト

Comment - 0

Latest Posts

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。