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Aina(2)

 14,2016 21:57



ある日、ロキサニーはアテナンティス国とカルヴァン国が戦争をすることをアイナに告げました。
カルヴァンと言えば、センリ王子のいるメルディスの同盟国であるとアイナは知っていたので、
ロキサニーに言いました。
メルディスに力を貸してあげよう、と。
しかしロキサニーは顔を横に振って言いました。
「かつて、私は先代のメルディス王に借りがあって力を貸したことがある。
だが、今の王を助ける義理など一つとしてない。
そしてお前がその国で受けた屈辱を思えば、どうして私が助けたりなどしようか?」
愕然としながらアイナは母に訴えました。
「でも、あの国は私を救ってくれたセンリ王子がいる国でもあります」
その時ロキサニーは可哀想な物を見るように目を細めて、アイナに言いました。
「だとしても・・・あの国は滅んだ方がよい。
そしてセンリ王子だけを救い出したとしても、
王子という存在が残っていれば、それはまたいつかの戦争の火種となろう」
アイナは自分の魔女としての未熟さを理解していました。
扱える魔法がまだ限られていたのです。
それでもアイナは、やはりセンリ王子だけはどうしても救い出したいと思っていました。
森の中で少女とセンリが再会の約束をして別れる様子を見守ると、
アイナはセンリの後を追ってメルディスに向かいました。
もう戦争が始まっており、その国は赤く燃える炎に包まれていました。
センリ王子が捕らえられたという噂を聞いて、アイナは町の中を探し続けました。
そして数日間、その国での戦争の様子を間の辺りにすることになりました。
信じられないことに、メルディスの国王は狂っていて、
国民にとってはもう誰が敵かも分からない状況にありました。
アイナは、母であるロキサニーが国が滅んだ方がいいと言った理由を理解しました。
(だけど、センリは違う。あんな優しい人が死んではいけない)

メルディスを彷徨い続け七日目にアイナは、始まりの塔へと足を運びました。
死の矢が降り注ぐその場所で、アイナはついに見つけました。
カナリア色の、愛しい少年を。
久しぶりに見た彼は痩せていて、どこか儚い雰囲気を身に纏っていました。
しかしその常盤色の瞳は、強い光を放ち、王を―父を見つめていました。
アイナはセンリが王を自分の手にかけようとしているのが分かりました。
センリはそっと矢をつがえ、そして王に向かって矢を放ちました。
信じられなかったのはその後でした。
矢を放ったセンリは王に向かって、落ちてくる王を受け止めるように手を広げました。
― 自分も死のうとしたのです。
その姿を見てアイナは絶叫しました。
そして自分が持っている魔力を全て注ぎ込み、彼を魔女の城へと移動させました。
涙が止まりませんでした。怖くて怖くてたまりませんでした。
アイナは涙を拭うと、すぐに魔女の城へと戻りました。

魔女の城の前では、センリがしゃがみこんだまま呆然と空を眺めていました。
そんな彼にアイナは駆け寄ると、そっと話しかけました。
「センリ、良かった。無事だったのね」
すると不思議そうな顔をしてセンリは言いました。
「僕はセンリって言うの?」
「あなた、何も覚えていないの?」
そうです。センリは全ての記憶を失っていました。
アイナは狼狽えました。そんな魔法をほどこしたつもりは微塵もありませんでした。
すると城の方からロキサニーが優しく微笑みながら歩いてきて言いました。
「だから言ったであろう。
王子という存在が残っていれば、それがまたいつかの戦争の火種となると。
王子は死んだ。そこにいるのは、"ただの森の狩人のセンリ"だ」
センリは記憶を失ったまま、魔女の城でアイナやロキサニー、
そして後に城へやってきた兎のニックや猫のミーア達と10年という月日を共に過ごしました。
聡明で貸いセンリは、魔女でないにも関わらず魔術の才能がありました。
そこでロキサニーは幻視の魔法をセンリに与えました。
「自分の髪色を変えて見せろ。お前のその髪は森では目立ちすぎる」
そんなロキサニーの言葉に、センリは美しかったカナリア色の髪を
森でも目立たないような鶯色の髪に変えました。
「アイナ、俺も魔法ができるようになったよ」
アイナはセンリの傍にいて、
センリが自分の名前を呼んで笑いかけてくれることに、幸せを感じていました。

そんなある日、アイナはサーヴァリアの森へと出かけました。
湖の傍まで来ると、アイナは美しい女性を見つけました。
ブロンド髪をした美しい女性、そう―アテナンティスの姫 ミツキでした。
ミツキは何かを祈るように、手を合わせ目を閉じると悲痛な声で呟きました。
「― あなたは覚えている?」
アイナはそれを見て、まさか、と思いました。
二人が別れた日から十年も立つというのに、ミツキはセンリを待ち続けていたのです。
それを知ってアイナは、得体のしれない不安を感じました。
(大丈夫。センリはもう何も覚えていないから、彼女の元へ戻るはずがない)

不安はまた違う不幸を呼びました。
ある時、ロキサニーが城で倒れたのです。
ロキサニーは自分があと一か月の命であることをアイナに告げました。
アイナは嘆き悲しみました。
その頃、センリは城に戻らず森で過ごす日々が多くなりつつありました。
アイナはセンリにはロキサニーのことを告げず、一人で看病を続けました。
そして最期の時。ロキサニーはアイナに言いました。
「センリの記憶は、あいつのペンダントの中に封じている。
あのどこぞの国の姫の記憶の一部もな。
それをどうするかはお前次第だよ。
お前の幸せを望んでいる。愛しているよ ―アイナ」

ロキサニーを失くした悲しみはとても大きいものでありました。
アイナは涙で瞳を濡らし、ふらふらと森の中を歩きました。
そして湖まで歩いていくと、アイナはふと足を止めました。
いつも其処にいるのは、センリとの再会を祈っているミツキでした。
しかしその夜、そこにいたのはカナリア色の髪をした煌びやかな装飾を身に付けた男でした。
「・・・センリ?」
一瞬、その髪色からそれがセンリではないかと思いましたが、アイナは首を振りました。
違う。彼なはずがない。
おそらく、どこかの国の王子が森で迷ってしまったのだろう。
そう思っているところに、やってきた人物がいました。―ミツキでした。
そしてミツキは、その男が約束を交わした王子であると勘違いしたのです。
" あのどこぞの国の姫の記憶の一部もな。"
彼女もまた、王子の容姿や名前の記憶を失くしていたのです。
一方勘違いされた違う国の王子 ― ナオリオ国のイズミは、
初めはミツキの存在に驚きつつも、アテナの姫だということに勘付いて
彼女との逢瀬を望むようになりました。
それを冷めた目で、アイナは見守り続けました。
アイナはずっとミツキが羨ましくて仕方がありませんでした。
幼い頃、センリに愛してもらったミツキが。
だから彼女が違う人と結ばれれば、センリは自分の傍にずっといてくれると分かっていました。
このまま自分が何もしなければ、オネットはイズミと結ばれる。何も、しなければ。
でもアイナには何もせず見ているだけなんて、できなかったのです。

アイナはセンリの留守中、彼の部屋に忍び込むとペンダントを探しました。
肌身離さずにつけていたペンダント。
それを珍しく付けずにセンリがでかけたのにアイナは気づいたのです。
部屋の棚の中に、そのペンダントは仕舞われていました。
どれだけそれをセンリが大切にしていたかアイナは知っていました。
そのため壊すのに躊躇していると、そこへセンリが戻ってきました。
「何をしてるんだ・・・?」
「!センリ…」
(見つかってしまった、もう後には引けない)
「・・・あなたのペンダントは私が貰ったわ」
そしてアイナは全ての覚悟を決めて、センリを外へと飛ばしました。
アイナは、センリが記憶を取り戻すことを望んだのです。そして。
森の湖ではイズミがミツキが求婚をしました。
アイナはそれを見て、その夜、アテナンティスの城へとやってきました。
ミツキの部屋で、アイナは眠る彼女を見下ろしました。
ミツキもまた、人の気配を感じて目を覚まして、アイナに気が付きました。
二人がこうして対面するのは初めてのことでした。

"本当は、私を愛してほしかった。
オネットにセンリを渡したくなかった。
このままオネットとイズミが結ばれてくれれば、その幸せは掴めた。
だけど、自分を救ってくれた愛しい人に嘘なんてつけない。
センリの幸せを、邪魔なんてできない。
大好きだった、傍にいたかった、あなたの一番になりたかった。どうか離れないで。
― そう思うけど、でもあなたを本気で愛してしまったから、

あなたの幸せを願わずにはいられない"

アイナは笑いました。
「あなたが嫌いよ、オネット」
そして彼女は、誰にも分からない小さな声で呟きました。
オネットに真直ぐに手を伸ばし、かけた魔法、
「"amour vrai"」
それは ― 真実の愛の魔法。

アイナのおかげでミツキは間違った愛の言葉を囁かずに済みました。
しかしミツキとセンリはそんなことを知らないので、
アイナの元へペンダントを取り戻すために、そして魔法を解いてもらうために旅に出ました。
二人が出会ったのを知って、アイナは二人が再び結ばれるように、
城までの道のりに沢山の困難を用意しました。
もし、それでも二人が結ばれないのならば、仕方がない。
そう思いながらも自分の元へ来るまで、憎まれ役になり二人を見守っていました。
長い旅の末、ミツキとセンリは互いを思う気持ちに気づき、結ばれました。
祝福の鐘が鳴り、皆に祝福されている二人を遠くから眺め、アイナは呟きました。
「どうか、幸せになって」
その顔に浮かぶのは、とても優しい笑みでした。

Aina end

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