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After(A&N)

 14,2016 22:24



あなたのいない世界なんて、いらない。


2


― After Amour vrai (Aina & Nick)


一方、アイナとニックは城へと戻ってきていた。
アイナは自分の部屋の中心でしゃがみ込むと荒く息を吐く。
ニックはアイナの背中をさすりながら、しかし彼女を咎めた。
「アイナ、どうしてあんな魔法を・・・」
「・・・愚問ね」
そんな挑発的な言葉とは裏腹にアイナは呼吸困難に陥っていた。
アイナはニックに手を伸ばし、白い柔らかな体を抱き寄せた。
「っ・・・少し・・・落ち着くまでこうさせていて」
「・・・アイナ?」
抱きしめられていたニックは、あることに気づいて愕然とした。
彼女の、アイナの心臓の音がとても弱くなっていた。
先ほどの魔法は、ひどく魔力を使うものだった。
しかし、それだけでこんな風になるはずがない。
「何故・・・」
何故、彼女はここまで消耗している?

いつの間にかアイナは意識を手放していた。
わけもわからず、アイナを見つめていたニックの前に一人の魔女が現れる。
それはゼウリス山に棲むと言う、長寿の魔女 ― ミウルだった。
ミウルはロキサニーの友人であり、
その美貌は彼女が得意とした転移の魔法で、
今までいろんな美女と体を交換したからだと言われていた。
ミウルはニック言った。
「アイナは身を削る魔法を酷使してきたからだよ。
今回の件で、元々弱り切っていた心の臓は酷い損傷を受けた。
もうそれを回復させることは不可能だ。だが、アイナを助ける方法は一つだけある」
ミウルはニックに古い懐中時計を渡した。
「その時計が0時を指す時、アイナの心の臓は止まるだろう。
それまでにお前は、ニルヴァーナの花を持ってゼウリス山の私の元へ来るのだ。
花と交換に、私がお前とアイナの心の臓を変えてやろう」
ニックがアイナの代わりに死ぬのなら、アイナは生きられる。
それを理解して、ニックは懐中時計を見た。
針は4時58分を指していた。
迷う必要などなかった。
彼女を救うためなら何でもやってやる、例え -自分が命を落とすことになっても。
ニックは気を失っているアイナを見下ろして、言った。
「・・・僕が必ず君を守りますから」

誰もいなくなった部屋でアイナはやがてそっと目を覚ます。
「・・・ニック・・・?」
傍にいるはずの存在がなくて、ぼんやりと辺りを見回す。
そして自分の両手を眺めた。
まだ手は温かく、先ほどまでそこに彼がいたことを覚えている。
「―・・・・・・」
アイナはそっと立ち上がった。

0時までは時間がなかった。
ニックは疲労で体が軋むのを感じながらも、足を止めずに走り続けた。
モーガニート鍾乳洞でニルヴァーナの花を一房引き抜くと、
まっすぐにゼウリス山に向かった。
傾斜はきつくはないものの、その山には高さがあった。
白い兎はボロボロになりながらも、頂を目指し駆け上っていった。

時計の針は23時を指していた。
ニックは月に照らされた山の頂上で、ミウルに向かい合った。
0時までまだ時間がある。
よかった、間に合った。
そう思ってニックは懇願した。
「お願いです、どうかぼくと彼女の心臓を取り換えてください」
しかしミウルはニックに憐みの目を向けて、静かに言ったのだった。
「アイナは死んだ」
その言葉が信じられず、ニックは目を見開いて魔女を見つめた。
手からニルヴァーナの花が滑り落ちていく。
足元に散る、花びら。
「何故ですか・・・!っ・・・約束したじゃないですか!!」
ミウルはニックに時計を見るように言った。
ニックはそっと手のひらに時計を乗せた。
そして"それ"に気づいた瞬間、ガクガクと手が震え始めた。
時計は変わらず23時ちょうどを指している。
そう、時計は止まっていた。
壊れたのだろうか、来る途中に何かの拍子に?
絶望するニックに、更にミウルは残酷な言葉を投げかけた。
「壊れたのではない、アイナが自ら死を望んだから ―時計は止まったのだ」と。

ニックがそれを知る一時間前だった。
アイナは荒く息を吐き、自分の部屋の鏡に魔法をかける。
あの人は何処へ?
彼女が探していたのは、センリではない。
アイナは鏡を覗き込む、そこに映ったのはゼウリス山を必死で駆けのぼる白い兎だった。
いつも自分の傍にいる彼は、ぼろぼろになりながら走り続けていた。
その姿を見ただけで、アイナは理解した。
ニックが自分を助けるために、魔女に心臓を入れ替えてもらおうとしていることに。
「・・・馬鹿ね」
アイナはふらふらとした体で、化粧棚まで歩いていく。
棚を引き出しを引き、ある物を取り出す。
― それは、銀色のナイフだった。
ナイフを片手に、アイナは部屋の中心に座り込んだ。
もう上手く歩くことさえ出来なかった。
荒く息を吐いて、アイナは俯きながら悲痛な声を上げた。
「・・・伝えたいことが・・・あったのに」
もう、きっと届かない。
アイナはナイフを震える両手でどうにか持って、刃を自分の方に向けた。
センリには幸せになってほしかった。
でもニックには、私と一緒に幸せになってほしかった。
あなたの命なんて、もらえない。
もらえるはずがない。だって。
「・・・愛している。"あなた"を愛しているのよ、ニック」
センリではなく、あなたを。
いつの間にか傍にいるのが当たり前になっていた、あなた。
いつの間にか一番傍にいてほしいと思うようになった、あなた。
あなたのいない世界なんて、考えられない。
「一度でいい、あなたに・・・愛していると伝えたかった」
アイナは寂し気に微笑む。
そして部屋の時計が11時を知らせたと同時に、自らの胸をナイフで貫いた。
「ニック・・・」

魔女の城は静かだった。
そこにある物全てが、突然の主の死を嘆き悲しんでいるようだった。
ニックは、ふらふらとした足取りで彼女の部屋までたどり着いた。
部屋の扉は開いていた。
その入り口でニックは佇んだ。
「・・・アイナ」
部屋の中心で、愛しい彼女は自らの心臓をナイフで貫き、横たわっていた。
赤い水たまりの中で眠る彼女の傍にやってくると、ニックは膝をついた。
ニックはいつの間にか人間の姿へと戻っていた。
そう、窓から覗き込んでいたのは、満ちた月だった。
ニックはアイナを静かに抱きしめる。
「アイナ・・・」
どうして君は死を選んだの?
この世界に、運命に絶望をしたの?
どうして、どうして、・・・どうして?君にこの命をあげるはずだったのに。
「・・・アイナ・・・っ」
君は不幸だった?彼に、届かなくて、苦しかった?
僕は君に何もしてあげられなかった。
ごめん。
「っ・・・ごめん、アイナ」
もう動かない君。
僕は、何故此処にいるの?
君のいない世界なんて、考えられない。
僕の居場所は君の隣だった。
もう体温が感じられない頬にそっと触れ、ニックはアイナに口付けた。
初めての口づけだった。
ニックはやがて唇を離すと、そっとアイナの体からナイフを引き抜いた。
ねえ アイナ、僕は不幸じゃなかったよ。
どんな結末を迎えようとも、僕は自信を持って言える。
「アイナ、僕は」
そしてニックは、アイナと同じように自分の胸をナイフで貫いた。
「君に会えて・・・とても幸せだった」
ニックはアイナの本当の思いを最後まで知ることなく、息絶えた。

二人の動かない体を満月が照らす。
しかしやがて空は黒い雲に覆われ、雨がぽつりぽつりと降り始める。
月は見えなくなった。
暗くなった部屋の中で、二人の手はお互いを求めるように重なっていた。

End

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