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1-0 プロローグ

 16,2016 18:26


 
「ラビットメール・・・?何それ」


- Rabbit mail



放課後の教室。
昼間とは違い、静寂が包むその場所に、まだ数名の女子生徒が帰宅もせずに残っていた。
彼女達は一つの机を囲むように座り、ひそひそと話をしている。
その中心にいるのが、夢倉 茉莉(ゆめくら まつり) という2年B組の生徒だった。
茉莉は得意気に人さし指を立てて、友人たちに言った。
「ラビットメールっていうのは、この学校にある秘密の郵便屋のことだよ。
 校舎の何処かに特別なポストがあって、
 そこに手紙を入れると 自分の代わりに相手に手紙を届けてくれるんだって」
「手紙?手紙なんて自分でも出せるじゃん」
「しかもスマホがあるのに、今どき手紙って…」
友人の反応に、茉莉は頬を膨らませた。
「ラビットメールはただ手紙を届けてくれるだけじゃないの。
手紙を送る方がいいか、送らない方がいいかを判断してくれるんだって。
だからラブレターの場合は、実る時だけ相手に届けてくれるの」
「つまり、直接振られて傷つくことはないってこと?」
「そう!」
すごーい、と素直な歓声が上がった。
「実らない場合、手紙はどうなるの?」
「ちゃんと送り主の所に手紙が戻ってくるんだって。
そして封筒にね、四葉のクローバーが入れられているらしいよ。
 "あなたにたくさんの幸せが訪れますように"っていうメッセージと一緒にね」
茉莉の言葉に、興奮したように何人かが「優しい~!」と声を揃えた。
「で、それは誰がやってるの?」
「さあ?男子らは天使のような美少女!とか言ってるけど」
「それ、男子たちの勝手な妄想でしょ」
「だろうね。でも本当に誰なんだろ」
もしかして幽霊かもね?と、茉莉が言うと「えーそれ怖い!」と皆は騒ぎ出した。
どのクラスの子かな?やっぱり3年生?
興奮しながら皆が口々に話しをしている中、不意に誰かがぽつりと呟いた。
「ラビットメールは・・・自分ではどうしようもできない気持ちを受け止めてくれるんだね」
再び静寂が訪れた。
教室の時計がかち、かち、かちと秒針を鳴らしている。
彼女達は互いに顔を見つめていたが、その視線はやがて一人の友人に移った。
茉莉がぽつりと言った。
「彩加」
名前を呼ばれた少女、香川 彩加(かがわ さやか)は俯いていた顔を上げた。
彩加は茉莉が言おうとしていることが分かった。
だから彼女が再び口を開く前に、ゆっくりと首を横に振った。
「私は・・・無理だよ」
笑ったように彩加は言うが、その瞳は切なげに揺れている。
涙を我慢しているのは、誰の目にも明らかだった。
「本当に祐樹(ひろき)君のこと、諦めるの?」
「だって祐樹は・・・朱音(あかね)ちゃんと付き合うと思うから」
香川 彩加、少し内気な彼女には幼稚園からの幼馴染 -祐樹がいた。
彩加は幼い頃からずっと祐樹が好きだった。
しかし、あまりにも距離が近すぎてずっと思いを伝えられずにいる。
いつ伝えよう、いつ伝えられるだろう。
そう思っているうちに、月日が経ってしまっていた。
もしかしてこのもどかしい関係はこの先もずっと続くのかもしれない、
この関係は変わらない、でも離れなくて済むならそれでもいい ―彩加はそう思っていた。
しかし、一つの区切りが数日前に突然やってきた。
それは朱音という同じクラスの女子が祐樹に告白したことにある。
その話を聞いた直後、彩加の頭の中は真っ白になった。
「付き合うかどうかなんて分からないじゃない」
「でも、あの二人ね、どんどん仲が良くなっているんだよ。
幼馴染の私が間に入っていけないくらいに…ね」
変わらないなんて、ありえないのに。
どうして離れないでいられるなんて思ったんだろう。
彩加はそう言って、再び俯いた。
何と声をかけていいか分からず、友人らは彼女を心配そうに見つめた。
しかし茉莉だけが彩加を説得し続けた。
諦めるのはまだ早いよ、やれるところまでやってみようよ、と。
開いた窓から、初夏の爽やかな風が入ってきて彼女達の間を通り抜けていく。
茉莉は元気付けるように彩加の手を取った。
「ラビットメールに手紙を出そう、彩加」
彩加は茉莉を見つめた。
ただの噂の、しかも知らない人に自分の運命を委ねるのは正直怖い。
それでも、それに縋るしか彼女に残された選択肢はなかった。
彩加は目に涙を浮かべて、ようやく頷いた。



「―・・・」
近くの廊下で壁に背を持たれながら、静かに少女たちの話を聞く少年がいた。
男にしては白く細い腕を組みながら、少年は悲痛な彩加の言葉を静かに聞いていた。
"どうして離れないでいられるなんて思ったんだろう"
涙を堪えたような声を聞きながら、少年は右手をそっと制服のポケットに手を突っ込む。
そこには小さな鍵が入っていた。
「ラビットメールに手紙を出そう、彩加」
さて、彼女はどうするのだろか。
少年は取り出した鍵を見つめながら、心の中で思う。
香川 彩加は己の気持ちを諦めるのだろうか、それとも見えない希望に縋るのだろうか。
選ぶのは友人でも誰もでもない、彼女自身だ。
一歩前へと進むのには、勇気がいる。
しかし、それでも彼女が後者を選ぶのならば―…
「…うん。私、出してみる」
その言葉が聞こえた瞬間、少年は右手で鍵をぎゅっと強く握った。
その口が緩やかな弧を描く。
少女達はまだ話を続けていた。
しかしそれをもう聞くことなく、少年は教室に背を向けると歩き始めた。
向かった場所は、教室棟とは正反対の位置にある特別棟。
その特別棟にある情報室と呼ばれる教室に入ると、少年は一つの棚の前で立ち止まる。
棚の一番上の引き出しには鍵穴があった。
少年はもう一度持っていた鍵を見つめた。
丸くて小さな、銀色の鍵。
(彼女が、後者を選ぶのならば―)
「・・・僕が手伝ってあげる」
少年は、微笑むと鍵を差し込む。
そしてカチリという小さな音と共に、― ラビットメールのポストは開かれた。
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