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2-1 彼女が見つめる先に

 22,2016 20:41



「バレたぁ!?何が何でそうなったの!?」


2nd mail 意地っ張りな私と先輩

1

月曜日の朝から、脳天を直撃されるような甲高い声に僕は頭を押さえた。
肩をかくかくと強く揺さぶられ、「やめて」と抗議するものの
美衣の力はいきおいを増すばかりだった。
「分かった、説明する。だから、落ち着いて」
「そういうあなたはもっと焦りなさいよ!」
いや、内心は十分に焦っているんだけど。
ともかく僕は、美衣に事の次第を話すことにした。
体育の授業を抜け出し、教室で手紙を広げていたところを本人に見られてしまったこと、
そして、彼女にラビットメールの手伝いを頼んだことを。
美衣は不審そうに僕を見ながら、ため息をついた。
「手伝いを頼むって・・・何でそんなややこしいことを」
「時間が欲しかったんだよ」
「でもだからって手伝ってもらうなんて…」
そこで美衣は一度言葉を切ると、
何か閃いたようにニヤリと笑って言った。
「もしかして、ようやく愛しい藍那ちゃんに告白する気になった?」
首を横に振って、僕は美衣の言葉を否定した。
「告白なんてしない。相手を困らせるだけだろ。
 それに仲良くなるどころか、完全に僕は嫌われたよ」
悲しいことに、昨日彼女が僕に向けた視線はとても強い敵意だった。
その上、変態というレッテルまで貼られてしまっている。
「まあともかく、何か進展したら教えてよ。・・・違うか、後退したらかな」
「・・・・・・」
「あれ、言い過ぎた?ごめんねー!」
ここまで全然心のこもっていないごめんねを、僕は生まれて初めて聞いた。
校門をくぐり、下足箱の所へ向かうと美衣は言った。
「とりあえず、昨日の帰りにポストの鍵を開けたんでしょ?
 手紙、受信しているかもしれないんじゃない?見に行ったら?藍那と」
その言葉に、彼女をポストに誘う想像をしたけど、
想像の中の彼女は僕を一瞥するなり言った ―「なんで私があなたと?」。
これを現実に言われたら流石に少しへこむ。
「じゃあ私はここで」
「うん。分かった」
ポストにはいつもの通り一人で見に行こう。
そう思って、美衣とは玄関で別れた。


A組につけば、知紘が僕に気づいて声をかけてきた。
「おはよ、綾」
知紘は相変わらずお洒落っぷりで、指定のネクタイの裏地を自分好みに変えてきている。
裏地というさり気なさがいいのかもしれない。
そう思って挨拶を返すと、僕は自分の席について教室をそっと見回した。
彼女はまだ来ていないようだった。
緊張する。
金曜日に、ラビットメールのことをばれて以来、会うのはこれが初めてだ。
「綾君」
ふと名前を呼ばれて、声がした方に顔を向ける。
そこには意外な人物が立っていた。
愛澤 美月。クラスのアイドル的な存在の女の子。
千里と仲が良い僕は、自然と美月ちゃんとも親しくなった。
「おはよ、美月ちゃん。どうしたの?」
美月ちゃんは眉を少し下げると、小さな声で言いにくそうに僕に言った。
「実はね、今日の日直・・・本当は私と綾君で、」
その言葉に黒板を見ると、確かに僕と美月ちゃんの名前が書かれていた。
「だけど私、放課後都合が悪くて・・・。
 今日の日直を他の子に変わってもらうかもしれないの、ごめんね」
そう言って可愛く謝る彼女 ―をくいるように見つめる野郎達の視線が暑苦しい。
困ったような表情の美月ちゃんも可愛い!とか思っているんだろう。
かくゆう僕も、上目遣いの美月ちゃんには流石に照れた。
ところで。
普段真面目な美月ちゃんが日直を代わってもらった理由はなんだろう。
今日何かあったっけ、と考えたところですぐに思い出した。
小さな声で美月ちゃんに耳打ちする。
「弓道の対抗試合、見に行くの?」
僕の言葉に、美月ちゃんは顔を赤らめて手で口元を押さえた。
彼女がよくする癖だ。どうやら図星らしい。
そして弓道部と言えば、やはり彼だろう。
弓道部二年エース、本郷 千里。
以前練習している所を見せてもらったけど、流石というか・・・とても様になっていた。
今日の放課後は弓道室に女子のギャラリーが殺到するだろうな。
「綾君、内緒にしてね」
「分かったよ、美月ちゃん」
「千里には見に行くこと、伝えてないの?」
「…うん、恥ずかしいし」
千里のことを話す美月ちゃんは、いつもより更に可愛く感じた。
美月ちゃんも千里も、両思いだということにまだ気づいていない。
それは二人に片思いをする子にとっては、最後の、そして唯一の可能性でもある。
― 藍那
彼女のためを思うなら、想いが通じ合う前に、二人を引き離してしまえばいい。
だけどそれはできなかった。
純粋で、正直で、優しい美月ちゃんを僕は傷つけたくはない。
「ありがとう。綾君」
僕は彼女に対する気持ちとはまた別の気持ちで、美月ちゃんのことが好きだから。
笑顔を見せる美月ちゃんに、どういたしましてと返した僕の耳に
ふと誰かの声が聞こえてきた。
「ちょっと立ち止まらないでよ、― 藍那」
思わず声がした方に顔を向ければ、教室の入り口で彼女が僕の方を見ていた。
昨日とはまた違った、どこか冷めたような表情で。
後ろにいたらしい、早海 依織に促されて彼女は自分の席へと歩いていく。
僕に背を向けたその背中は、とても華奢で ― 弱弱しく見えた。


昼食の時間、知紘には用があって遅れる、とだけ伝えて三階の例の部屋に向かった。
しんと静まり返った空間の中、自分の歩く足音が響く。
僕はパソコンの方へ向かい、いつものようにラビットメールのポストを開けた。
一か月ぶりに昨日の帰り、ポストを開けた。その翌日の今日だ。
こんなに早くは入っていないだろう、と思った僕の予想に反してそこには手紙が入っていた。
「・・・受信しました」
そう呟きながら、うっすらと黄色した封筒を手に取る。
中を見られることが想定されていたのか、封はされていない。
僕はそっと中から便箋を抜き取り、それを広げて目で文を追っていく。
そこには女子らしい丸い字で、柔らかな恋心が綴られていた。
差出人は1年生の女の子。宛名は2年C組の蛍川君だった。
それを確認すると僕は棚に鍵をかけた。
すると、僕しかいないはずの教室に静かな声が響いた。
「本当に、あなたがそうやって手紙を受け取って読んでいるのね」
何処か棘のある言葉で彼女 ―宮森 藍那は言った。
部屋に入ってきた彼女に僕は言った。
「また、変態とでも言う?」
「言ってほしいなら、何度でも」
彼女はそう言って微笑んだ。
だけどその目は笑っていない。僕のことを軽蔑しているのが分かる。
傷つく、けれど彼女の気持ちも分からないでもない。
「・・・ところで、約束は覚えているよね。君もこの手紙を読んで」
手紙を彼女に差し出すと、彼女は僕をキッと強く睨んだ。
「こんなプライベートなものを私にも読ませるの!? ―悪趣味にも程がある」
「だけど差出人自身が、ラビットメールに気持ちを委ねているんだよ。
 そこを否定することは君にはできないよ?」
彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
そして怒りで体を震わせた後、僕から手紙をひったくった。
「あなたに手紙を預けておくなんてできない、私が持つわ」
「別にそれでもいいよ」
僕はそう言うと黒板の前まで移動した。
そしてチョークで、名前を二つ書いていく。
水野 沙菜(みずの さき)。
蛍川 嘉文(ほたるがわ よしふみ)。
今回の手紙の差出人と受取人の名前だった。
「差出人は水野 紗希。一年の・・・確かバスケ部の子だ。
 受取人は2年C組の蛍川 嘉文。
 僕は蛍川君の方を探るから、君は水野さんの心境や状況を調べてほしい。期限は二週間内」
「・・・どうして差出人の方も調べる必要があるのよ」
「それはやってみれば分かる」
そう僕は言い切ると、さっと素早く黒板消しで二人の名前を消した。
「やるからには、責任を持ってやってね」
「・・・っ分かったわよ!」
指図されたのが嫌だったのだろう、彼女は乱暴に扉を閉め、教室を出て行った。
僕は壁に寄りかかりながら、そっと外を見た。
初夏の青々とした木々がそよそよと風に揺られている。
僕は、はあと重いため息をついた。
「・・・・・・どんどん嫌われていくな」




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