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2-2 握られた手(2)

 22,2016 20:46



新倉君に腕を引かれたまま、必死に彼の後について歩く。
身長差はそんなにないのに歩幅が違うからか、歩くのが早く感じる。
途中で、自分の足にもつれそうになって私は慌てて言った。
「新倉君!待って!」
その言葉に、新倉君はぴたりと足を止めた。
そこは放課後の、誰もいない一階の渡り廊下。
夏の暑さを感じる中で今一番熱いのは、握られている腕。
想像よりも大きかった彼の手は、私の腕を体育館からしっかり掴んだままだ。
でも、さっき先生に握られた時のような恐怖は感じない。
しばらくしてゆっくりと彼は振り返った。
「・・・ごめん。痛かった?」
「痛くは、ないけど」
そう素直に言えば、彼は安堵の小さなため息をつくとそっと私の腕を離した。
彼は私から目を逸らし、体育館の方を無言で見つめる。
「新倉君・・・さっき帰ったんじゃなかったの?」
どうしてまた体育館に戻ってきたんだろう。
忘れ物でもしたんだろうか?
新倉君は体育館を見つめたまま、静かに言った。
「嫌な予感がして、心配になって戻ったんだ」
「嫌な予感?」
そう聞けば、彼は私の方に視線を戻した。
「神戸先生に何もされなかった?」
「え?うん、それは・・・大丈夫」
"大丈夫だった"・・・だけど。
もしも、新倉君が来てくれなかったら、一体私はどうなっていたんだろう。
そう考えたらまた恐怖心が蘇ってきて、私は自分の腕を抱いた。
震えそうになるのを、必死に体を固くすることで堪えようとする。
「おかしいと思ったんだ、君を見る神戸先生の目が。
 あれは教師が生徒に向ける目じゃない。
 今までそう感じたことはなかった?」
「うん…だって普通はそんなこと考えないじゃない」
「君は、」
そこで新倉君は、私の顔の方にゆっくりと手を伸ばした。
突然のことに驚いてその手を見つめていると、新倉君は私の頬にそっと触れた。
びくっ、と体が震える。
青みがかった黒く真剣な瞳が私をまっすぐに見つめる。
視線が逸らせない。頬を優しく撫でられ、つい目を閉じそうになる。
くすぐったい。得体の知れない心地よさに、頭がぼんやりしてしまう。
この感覚は一体、何?
ぼうっとして彼を見つめ返していると唐突に彼は目を細め、冷たい口調で言った。
「…やっぱり無防備すぎる。
 なんで嫌いな男に、こんなことをされてるのに嫌がらないの?
 危機感が足りないから、あんなことになるんだよ」
「!」
まさか試された?
その事実と彼が言った言葉に頭にカッと血がのぼるのを感じた。
無防備?危機感が足りない?
思わず頬に触れていた新倉君の手を、払い除けた。
しかし彼は驚いた様子もなく、私をただ静かに見ている。
その態度がまた私を苛々させた。
「あなたみたいな変態にそんなこと言われたくない!」
「僕が変態だろうがなかろうが、君が危ない目にあっていたのは事実だよ」
「…っ」
正論であり、事実を言われているのは分かる。
今回の件で新倉君に非は何もないことも。
だけど一度高ぶった感情は簡単におさまってくれない。
何を言っても無駄。
新倉くんはいくら私に罵られようとも、
ラビットメールのことがばれようとも、いつだって取り乱すことなく冷静で。
だから、
「そうかもしれないけど・・・でもあなたには関係ないじゃない!」
またどうせいつものように、表情一つ変えずに淡々と言い返される。
"そうだね、僕には何の関係もないよ"そんなことを言われる。
そう思っていた。-でも。
「-関係ある!!」
新倉君は、先ほどとは一変した強い口調で言い切った。
初めて聞く、彼の焦ったような声。
真剣な目はまっすぐに私を見ていた。
「急に…一体どうしたの」
私は唖然として、彼に尋ねた。
今まで何を言われても平然としていたのに、
どうして今の言葉にそこまで揺さぶられたの?
私たちはただのクラスメートで、その事実を言っただけなのに。
「どうして関係あるの…?」
「ラビットメールの仲間だから、という理由では駄目?」
正直それだけでは納得ができなかった。
他にも理由があるように思えた。
だけどこれ以上追求しても、きっと新倉君は答えてくれないだろう。
そんな気がした。
「ともかく・・・あまり無防備だと何かされても文句は言えないよ。気をつけてね」
しばらくして新倉くんは息を吐くと、いつもの調子で言った。
その言葉に思わず顔が赤くなるのを感じながらも、
すっかり怒りがおさまっていた私は、今度は素直に頷いた。
「…わ、分かったわ」
新倉君は安心したような表情を見せると自身の時計を見た。
私も校庭の方に目を向ける。
思ったよりも時間が過ぎていたようで、近くに他の生徒の気配はない。
流石にもう帰らないと。そう思ったところで、新倉君が言った。
「家まで送っていくよ」
「…へ!?」
どんな展開なの、それ。
新倉君に家まで送ってもらうというシチュエーションを一瞬想像して、
私は思い切り首を横に振った。流石にそれはあり得なさすぎて。
「送る!?いいっ、一人で帰れます!」
「そう?…分かった。とりあえず気をつけて帰るんだよ」
新倉くんは何故か残念そうな顔をしてそう言うと、玄関の方に歩いて行った。
その途中で一度振り返ってきたので、私はびくりと体を震わせた。
遠くでよく見えないが、一瞬、新倉君が微笑んだような気がした。
そして再び新倉君が背を向けたところで、私は大きなため息をついた。
ああ。
「…言えなかった」
何だかんだ、今日は新倉君に助けられたのだ。
だから、ありがとうとお礼くらいは言うべきだった。
忘れていたわけではない。
言い合いになって、しかも新倉くんの様子がいつもと違ったから、
すっかり言うタイミングを逃してしまっただけで。
私はもう一度ため息をつくと、玄関へと歩き出す。
そういえば。
そっと頬に手を触れる。先ほど、新倉君に触れられたところだ。
先生の時は怖かったけれど、新倉君に触られた時は怖いとは感じなかった。
大人と子どもの違いからだろうか。
「・・・?」
とにかく彼の言うとおりだ。危機感を持とう。
ということで、新倉君。
これから私は半径1メートル以内にはあなたに近づかないんだから。



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