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1-4 再び現れた彼女は(1)

 06,2016 20:45



4

城に戻ってきてもまだ体が熱かった。
布団の中で私はさっき王子 ―イズミに言われたことを思い出していた。
”結婚しよう”
つい数か月前まで私の心は不安でいっぱいだった。
ずっと待っていても会いに来てくれないこと、再会しても約束を覚えてくれていなかったこと、
切なくて心が悲鳴を上げていた。
それが今、こんなに心は満たされている。
本当はすぐにでも返事をしたかった。
断る理由なんてない。私はずっと彼と一緒にいたいと願っていた。
「早く明日にならないかしら」
早くこの気持ちを伝えたい。
幸せな未来を想い、私は目を閉じた。


* * *

湖の前で待っていたイズミの名前を呼ぶ。
「オネット・・・君の答えは出たのかな?」
イズミは振り向くと、微笑みながら私にそう聞いた。私は無言で頷く。
「イズミ」
迷う理由なんてない。
彼の傍にいることが幸せだから。
やっと伝えられる。心から気づいたこの思いを。
”愛しています”
私はそう口にしようとした、その時だった。
どこからともなく誰かの声が聞こえた。

「―本当にそれでいいの?」


* * *


「・・・・・・?」
急に意識が戻ってきて、私はゆっくりと瞼を開けた。夢を見ていたらしい。
部屋の中は真っ暗で何も見えない。
まだ真夜中だろう、そう思って再び眠ろうとしたが、何かの気配に気づいて私は体を起こした。
誰かいる。此処に。
(一体何?)
私は真っ暗な空間にいる何かに向かって問いかけた。
「誰・・・・?」
すると闇の中で、誰かが笑った気がした。
くすくすくす。くすくすくす。
不気味な笑いに思わず震えた腕を抱く。
次第に目が暗闇に慣れてきて、少しずつその姿が見えてきた。
「見つかっちゃった」
顔は見えないが、体のシルエットがぼんやりと見えた。
その曲線でその人物が女性だと分かった。
震えて掠れそうになる喉に強く力を入れて私は言った。
「誰なの?」
「私は、魔女」
「魔女・・・?」
魔女がどうして此処に?
「・・・アテナンティス国の第一王女。
とても明るくて実直で優しい心を持つことから人々からはオネット姫と呼ばれ、愛されている」
目の前にいる魔女は、訳もわからず困惑している私に一方的に語りかける。
恐怖を感じて、私はベッドから立ち上がった。
「幼い頃、森の湖で出会った王子に恋し逢瀬を重ねるも、王子は再会を約束をして別れを告げた」
「何で」
それを知っているの。
今度は声が震えるのを気にする余裕はなかった。
「何ででしょうね?」
魔女は笑う。
そして袖の長い服から、細長い腕を伸ばすと私の顔に指を向けた。
「あなたが嫌いよ、オネット」
魔女の冷たい声が部屋に響いた時、私の体に電気を通したような衝撃が通り過ぎた。
「・・・・っ」
頭が真っ白になる。手足がしびれて感覚が急に遠くなった。
そして瞳が意志とは関係なく、閉じていく。
意識が―
「おやすみ、オネット。明日の幸せな夜を夢見ながら」
私の意識はそこで途絶えた。


「―姫様!姫様!どうなさったんですか!!」
「んー・・・ロウザ・・・?」
強く体を揺すぶられるのを感じて私は目を開けた。
いつも通り明るい朝の光が部屋に差し込んでいる。
閉じていこうとする目を擦り、欠伸をしながらふとロウザを見ると、その顔色が悪いのに気付いた。
「・・・どうしたの?」
「どうしたもこうしたもありません!
起こしに来てみたら床で寝ておられるんですもの、倒れておられるのかと思いました!」
そう言って興奮気味で彼女は言う。
確かに自分は今、ベッドの横にいる。
不思議に思って首をかしげた私は、次の瞬間体中にチクリとした痛みを感じた。
「痛っ」
そして私は思い出した。真夜中のことを。
魔女がこの部屋にいた。
どうしてここに来たのだろうか。そして、私に何をしたのだろうか。
分からない。
「床で寝ていれば痛くて当然ですよ!今後はこんな寝方はお止めください!」
いつになく感情的になっているロウザの言葉は、耳をすり抜けていく。
私は寝間着のままの自分の体を見つめる。
見たところ、小さな痛み以外に変わったところはなさそうだ。
痛みだけだったのだろうか?
何もなければそれでいい。しかし、何か胸騒ぎがする。
私は自分の胸を両手でギュッと抑える。
今日の夜、どうかイズミと無事に会えますように。
そう思いながら私は一日を過ごした。

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