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3-1 愛しい君の残酷なお願い(2)

 04,2016 12:07



"別荘に、藍那ちゃんと・・・依織ちゃんも誘っていい?"
美月ちゃんは僕らにそう言った。
その言葉に知紘達は首をかしげる、"どうして宮森さん達?"そう顔に書いてあった。
僕は僕で、美月ちゃんの急な提案に驚きを隠せなかった。
何故美月ちゃんが彼女を誘うのだろう。
二人にクラスメート以外の接点はほとんどないはずだ。
そして藍那は、気づかれないように注意を払いながら、いつも美月ちゃんのことを避けている。
「いいんじゃない?」
唯一、美月ちゃんの提案にあっさりと相槌を打ったのは千里だった。
藍那と千里は同じ中学校出身で、普段は一緒にいたり教室で沢山言葉を交わすわけではないけれど、
お互いを名前で呼び合うほどには親しい。
だからだろうか、千里はすんなりと美月ちゃんの言葉を受け入れていた。
そしてそれを聞いて知紘やヨシも「別にいいよ」と戸惑いながらも声を揃えた。
「ありがとう。早速二人を誘ってくるね」
美月ちゃんが嬉しそうにそう言った。
僕はちらり、と藍那を見る。
まだ何の話も聞かされていない彼女は、友人と微笑みながら話をしている。
そこへ美月ちゃんがゆっくりと近づいて行った。
僕は思う。彼女は、行くべきではない。
何故ならこの旅行、彼女にとっては残酷なものでしかないからだ。
「千里、君は宮森さん達に来てほしい?」
千里は僕の質問の意味が分からなかったのか、目を瞬かせた。そして言う。
「来てほしくない理由はない。
藍那とは友達だし、美月がそうしたいって言うなら来てほしいと思う」
僕は額を手で押さえると、わざとらしく大きく息を吐いた。
「千里って、罪な男だよね」
「?」
まあ、でもきっと彼女は断るだろう。
よっぽど自虐的な性格でなければ、選択を誤ることもない。
そう僕は思っていた。思っていたのに。




「君は馬鹿なの?」
目の前で机に項垂れる藍那を見て僕はぼそりと言った。
翌日、僕らは例のパソコン室にいた。勿論此処に、僕ら以外の生徒はいない。
昼休みに、ポストの確認に此処へ向かっていた僕を見かけたらしく、
珍しく彼女も自らこの場所へと足を運んでいた。
僕は前日の美月ちゃんの別荘の話を彼女に持ち出して、
「君もびっくりしてたね、上手いこと断れた?」
と、そんな言葉を投げかけたのだ。
当然、彼女が誘いを断ったと思い込んで。
すると、彼女は近くにあった椅子に座ると奇妙な声を上げて項垂れ始めた。
そして机に突っ伏したまま、小さく低い声で言ったのだ。
「行くことになった」
「え・・・何処に?」
全く違う話を始めたのかと思ってそう聞けば、彼女は顔を上げて僕をギロリと睨んだ。
「だから行くことになったの!愛澤 美月の別荘に!」
「・・・は?」
何の冗談だろう。
しかし事情を聞けば、それは彼女にとって最上の災難だった。
友人に夏休みの予定はない、と言ってしまっていて言い訳ができなかったこと、
そして何よりも不幸なのが千里に別荘行きを進められてしまったこと。
前者が理由なら仕方がないにしても、最終的には後者で折れたなんて。
"君は馬鹿なの?"
僕の言葉に再び彼女ががっくりと項垂れた。
綺麗な黒髪が心細そうに、微かに揺ら揺らと揺れる。
「いやでもあの二人が一緒にいるところを見なければいけなくなる。分かってるの?」
当然それに気づかない訳ではなかっただろうに、一体どうするつもりなのだろう。
傷つくのが目に見えている。
藍那は顔を少し上げ、涙で潤んだ目を覗かせると僕を見上げて困ったように言った。
「自分が馬鹿なのは分かってるけど、苦しいと思ったけど
・・・でも千里の言葉を断ることなんてできない」
できないもん。
彼女にしては珍しい拗ねたような言葉に、僕は自分の制服のベストをきつく握った。
「・・・・・・」
何、この可愛い子。君は僕の理性を試しているの?
普段強気で気高い印象が強い彼女だからこそ、その姿にはギャップがあった。
やばい、咄嗟に自分の服を握らなかったら、衝動的に抱きしめていたかもしれない。
どきどきする自分を誤魔化そうと、僕はすぐ近くにあった棚に手を駆ける。
そしてゆっくりと引き出しを引いた。
ラビットメールのポストだ。
「はあ、何でこんなことになるの―・・・」
彼女の小言を聞きながら、カコンと小さな音を立てて開いたポストに、僕は視線を落とした。
そこには新しい、白い封筒がそっと置かれていた。
最近手紙を受信するペースが速くなってきたように思う。
ポストは常には開かずに鍵を閉めていることも多いが、
僅かな時間の間、開けていただけで手紙が入ってくる。
ポストの場所が、少しずつ露見してきたのかもしれない。
今だ机に意気消沈している彼女に言う。
「落ち込んでるところ悪いけど・・・新しいメールを受信したよ」
白い封筒を取り出し、そっと丁寧に封を破っていく。
中にはシンプルな灰色の便箋が一枚入っていた。
僕はそこに書いてあった文字を静かに読んでいく。
そして最後まで読み終わった所で、僕は彼女にその手紙を渡した。
彼女は無言でそれを受け取り、口に出してそれを読んでいく。

「"―明冶へ。
君には、心底失望した。
あの日の約束、忘れたの?  秋乃"」

手紙を読み終えた彼女はしかめっ面をしていた。
額に皺を寄せて手紙をじっと見つめている。
「これは、ラブレター・・・じゃないよね?」
「失望したなんて書いてあるからね」
「そうよね・・・。ところでこの名前、なんて書いてあるの?めいじ?」
僕は首を横に振った。
明冶。これは"めいじ"とは読まない。
「"みょうじ"、だよ」
「どうして分かるの?・・・もしかして新倉君の友達?」
「同じ学校の子じゃないし、友達でもないよ。でも僕はこの子を知っている」

― 名前なのに、"みょうじ"。面白いでしょ?

そう聞いたのは、つい最近のことだったと思う。
家でご飯を食べながら他愛のない話をしていて、僕はそれを聞いた。
だから、彼に聞かなくてはいけない。
「どうして?」
素直に不思議そうな顔をした彼女に僕は言った。
「明冶君は、僕の弟の友達なんだ」
「・・・あなた、弟なんていたの?」
意外だ、とでも言いたげな表情を僕に向けて彼女は僕を見上げた。
「まあね。だけど、差出人の方が分からないんだ。こんな名前の子いたっけ」
何秋乃ちゃんって言うんだろうか?
こちらの名前には身に覚えがなかった。
明冶君が弟の同級生で僕らよりも一つ年下なのだから、"秋乃ちゃん"も一年生だろうか?
そっちの方は探さなくてはいけないか、そう思っていると彼女が言った。
「秋乃なら私の知り合いよ」
今度は僕が驚く番だった。なんて運がいい。
「君の知り合いなら話が早い、そっちの方は任せてもいいかな?」
「ええ。でも正直、どうしてあの子がこんな手紙を出したのか・・・見当もつかないわ」
手紙に視線を落としながら彼女がそう呟く。
「・・・今回は少し訳有りな気がするね」
来週には終業式があり、すぐに夏休みに突入する。
学校を跨いだ調査には時間がかかるかもしれない。一刻も早く取りかからなければ。
そう思っていると、彼女が言った。
「―秋乃の方も調べるけど、その明冶君の方も何か手伝えることがあったら言って」
「え」
驚いた。
まさか彼女の方からそこまで協力的な言葉が出るとは思っていなかった。
恐らくは前回の手紙の依頼で、彼女が自分に落ち度があったと反省しているからかもしれない。
僕は彼女に否があったとは全く思っていないけれど。
思わず嬉しさから笑ってしまうのを抑えつつ、彼女に頷いて見せた。
「ありがとう。君の力が必要になったら言うよ」
とりあえず、携帯番号教えてくれない?
調子に乗ってそう言うと、彼女は「それは嫌よ」と僕の期待を瞬殺した。



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