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3-2 新倉兄弟(1)

 22,2016 15:05



2

「ただいまー」
夏は日が長く、家に着いた時にはもう六時を過ぎていたが、外はまだとても明るかった。
「おかえり、綾」
家の扉を開けるなり、可愛いエプロンを着た可憐な少女...ではなく母が僕を出迎えた。
母は、童顔なせいか年齢の割にとても若く見える。
一緒に外へ出掛けて、姉か彼女に間違えられることもしばしばあった。
「澪(みお)、帰って来てる?」
「少し前に帰ってきたわよ」
「分かった、ありがとう」
玄関のすぐ横にある階段を上り、二階へ上る。
二階の奥にはトイレ、右側は窓があり、左側には部屋が二つ並んでいる。
手前は僕の部屋、奥は澪の部屋だった。
一度自分の部屋に行き学校の荷物を置いてくると、僕は澪の部屋を訪れた。
"MIO"と書かれたネームプレートがかかった扉をノックする。
トン、トン、トン。
「澪、いる?」
そう短く聞けば、少ししてからキィッと音を立てて部屋の扉が開いた。
そこからひょっこり顔を出したのは、僕の弟の澪だった。
歳は一つ下の高校一年生で、僕とは違う学校に通っている。
「何?兄貴」
寝ていたのか、寝そうだったのか、ぼんやりとした目で澪は僕に尋ねた。
「ちょっと澪に聞きたいことがあるんだけど」
「・・・聞きたいこと?」
澪と僕は双子のように似ているらしい。
歳が一歳しか違わないからか、体型もほとんど同じで、
自分達には分からないが、声や仕草もよく似ているという。
だけど性格は少し違っているようで、僕は"人当たりが良い"、弟は"クール"と言われることが多い。
確かに弟は年齢の割には落ち着いているし、何事にも冷静で感情の起伏があまりない。
「澪の同級生に明冶って子いたよね?」
「明冶?…僕の友達だけど」
澪はふああ、と大きく欠伸をすると目を軽く擦る。
そして目を閉じたかと思えば、すう・・・と静かな寝息が聞こえ始める。
おやすみ^^・・・・・・じゃなくて!
「澪、寝ないで。最後まで話聞いて」
「・・・ん、うん。ごめん」
それで話って?
澪はそう言いながら、自分の部屋に入るように促した。
僕は頷いて澪の部屋に足を踏み入れる。
澪の部屋の中は、シンプルな家具が幾つかあるだけで、とてもすっきりとしていた。
真ん中にある透明な長テーブルの傍に座ると、澪がベッドに腰を下ろして僕を見た。
「で、明冶の何が知りたいの?」
端的に、澪は言った。
「―・・・うちの学校の子が、どうも何かの事情で明冶君に怒っているって話を聞いて」
あの手紙の文面からすると、
間違いなく差出人の秋乃ちゃんという子は明冶君に対して怒っているに違いない。
失望した、なんて友達に早々言える言葉ではないからだ。
「・・・怒る?」
しかし、何故そんな他人を罵倒するような手紙がラビットメールのポストに入れられたのだろうか。
相手に苛立ちを伝えたい?
そんな理由ならば、わざわざラビットメールを利用するだろうか。
本来なら相手を傷つける手紙は絶対に送ったりはしない。
だけど何の事情も知らないまま、送られたものを簡単に一蹴することはできない。
きちんと調べなくては。
「何か分かることある?」
「トラブルがあったとか、そんな話は聞いたことがないけど。
でも、最近落ち込んでいるような・・・塞ぎこんでいるような様子はあるかな」
「それはどうして?」
「僕には分からないよ。聞いてはいないし、明冶から話してくることもないし。
ところで、それを知って兄貴はどうするつもり?」
おっと。
聞かれるとは思ったけど、こんなに早く指摘されるとは思っていなかった。
そう思って苦笑いをした僕に、澪はため息をついた。
「聞いてほしくないなら、聞かないけど。
とりあえず兄貴が知りたいことは、本人に聞かない限りは分からないと思うよ」
こうやって余計なことに首をつっこまない所は、本当に澪らしいと思う。
澪は人の悩みを聞いたり助言をすることに長けてはいるものの、
自分の方から詮索したり追及することを好まないのだ。
逆を言えば、澪から明冶君の情報は得ることができないということにもなるけれど。
「ねえ、僕が明冶君に会うことってできないかな?」
「・・・どうかな。携帯もほとんど繋がらないし、家にもいないみたい」
「そっか・・・」
まいったな・・・。
あいにく明冶君と僕の直接的な繋がりはない。
前回、蛍川君とはそれこそ初めは赤の他人だったわけだけれども、
共通の友人である増岡のおかげで運よく知り合いになることができた。
しかし今回は、弟の友人だ。
友人の友人とは話が違ってくる。
僕が困っていることに気づいたのか、澪は無言で僕の顔を見つめた後、
自分の通学用の鞄の中を漁り始めた。がさごそ。
「澪?」
「ちょっと待って」
しばらくして見つけていたものがあったのか、澪は「これだ」と小さく呟くと一枚の紙を取り出した。
机の上に広げられたそれは、何かの時間割のようだ。
僕はその用紙の一番上に書いてあった文字を口に出して読んだ。
「・・・"夏休み補習、日程表"?」
「そう。期末試験で赤点を取った生徒が受ける補習の時間割。
確か明冶も今回は何教科か出るはずだったよ。
ちなみに、この補習は誰でも希望すれば参加は自由なんだ」
お盆以外で、組み込まれた補習のスケジュール。
僕の学校と同じで毎日午前中だけあるようだった。
しかし、これが今の話とどう関係してくるのだろう。
引っ掛かったのは、澪の最後の言葉。
「参加できる、ってことは・・・」
まさか、と思って澪の顔を見る。
澪は涼しげな笑顔を浮かべて頷いた。
我が弟ながら、とんでもないことを平然と思いつくから恐ろしい。
「明冶に会えるよ」
澪は補習の紙を僕に渡し、微笑んだ。
「兄貴が"新倉 澪"として補習に行けばね」


* * *


終業式まではあっという間だった。
先日あった期末試験の結果が怒涛のように返ってきて、
落ち込んでいる者から、いい結果が出て喜んでいる者など様々だった。
ちなみに僕はいつもと変わらず良くも悪くもない点数で、
今担任から貰った通知表の内容も一年の三学期とは大して差はなかった。
クラスメートと別れの挨拶を交わし、僕は知紘と玄関へ向かう。
何処かに藍那がいないだろうか、そう思って周りを見ながら歩いていたものの
とうとう彼女には会えなかった。
手紙を受信したあの日以来、彼女とは話をしてはいない。
元々連絡先を交換しておらず(拒否された)、
二人きりでないと話ができない(彼女は人目があるところで僕と話すのを嫌がる)からだ。
「今日が終業式でも、明日からは補習だから全然夏休みの意味ないよな」
隣で知紘がずれた眼鏡を直しながら言った。
今日の眼鏡はレンズの縁は黒色で、耳当てのフレーム部分はキャメル色に黒チェック模様だった。
僕でも分かる、某有名ブランドのものだ。
「そうだね、A組だから仕方がないけど」
「でも成績上位者は免除、とかあってもいいのにな」
点数おかしいだろ、あいつら化物だぜ、と知紘は言った。
先日あった期末試験の上位30人の名前と得点が、今日職員室前に掲示された。
補習や課題の多さからか、いつもA組の生徒がその大半を占めている。
そして上位三人は一年の時から順位が変わらない不動のトップスリーであり、
毎回それ以下とは次元の違う高得点を叩き出している。
ちなみに三位が千里で、
もし部活をしていなければ彼が一位になるのではないかと僕らは勝手に予想をしている。
「ところで、最近美衣ちゃん見かけないな」
下駄箱に内履きズックをしまいながら知紘は言った。
「そうだね。まあ、いつかふらっと出てくるんじゃない?」
「そんなお化けみたいに・・・」
顔をしかめて知紘が言った。
どうしていきなり美衣の話をしたかは分からなかったが、
僕はふと思い出したことがあって知紘に聞いた。
「ねえ、そういえば夏休みの美月ちゃんの別荘に行く件なんだけど。
美月ちゃん・・・宮森さん達を誘ったよね。どう思った?」
「んー、意外だったよ。美月ちゃんって宮森さん達と仲がいいようには見えないし。
 宮森さんって大人しくてミステリアスじゃん。
 一緒に旅行に行って騒ぐイメージないけど、どうなるんだろうな」
そうだよね、やっぱりそう思うよね。
実際の所、彼女はミステリアスではない。
至って素直で普通の女の子だ。
しかし人付き合いが苦手で不器用なのだろう、こんな勘違いをされることが多い。
「早海さんの方はそうだな、明るくて誰とでも話しているような感じがあるけど、
宮森さんと仲がいいからかな、彼女も何処か不思議な雰囲気があるな」
「・・・・・・なるほど」
そう曖昧に相槌を打つと、知紘は言った。
「まあ、これを機会に仲良くなるっていうのもいーかもしれないけど」
僕は玄関の扉を開けようとして、その手を止めた。
仲良くなる?
「・・・どっちと」
思わずそう聞けば、僕の質問の意味が分からなかったのか知紘は首をかしげた。
「・・・なんか綾、急に不機嫌にならなかった?」
「なってないよ」
彼女がクラスにもっととけ込んで、楽しく過ごしてくれるなら僕も嬉しい。
だけど、彼女の魅力に知紘も気づいて好きになってしまったら嫌だなと思っただけで。
・・・ああ、確かに不機嫌になっているかもしれない。
「それならいいけど」
そう言って、校門の前で知紘は笑った。
知紘と僕の家は正反対の位置にあるので、ここで別れなくてはいけない。
「じゃあ、明日からの補習だるいけど頑張ろうな、綾」
知紘の言葉に僕は頷いた。
「なら、また明日」
そうは言ったけど、知紘達には悪いけど明日僕はこの学校には来ない。
僕が向かうのは此処ではなくて、澪達の学校の方だ。
学校を振り返り僕は小さな声で呟いた。
「やっぱり彼女には事情を話しておきたかったな」



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