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3-2 新倉兄弟(2)

 22,2016 15:06



"君たちは本当によく似ているね"

今まで何度も言われた言葉を僕は思い出す。
確かに鏡で見る僕と澪は同じ顔をしていたし、兄弟なのだから仕草が似ているのは
至極当然のことで、それ故にその言葉を「そうかもね」と軽く流すことが多かった。
だけど、まさかここまでだとは思っていなかった。
僕はただただ驚いていた。
「おはよ、澪!」
「澪君、おはよー!」
知らない子達が僕に平然と声をかけてくるこの状況に。
「お、おはよう」
ぎこちなくそう返事をすれば、誰も僕が澪ではないことに気が付かないまま学校へと入っていく。
僕は玄関の前で呆然と立ち尽くしていた。
本当に似てるんだ・・・僕ら。
ふと自分が着ている服を見た。これは澪の学生服だが、サイズはピッタリだった。
見た目で綾と見破られることは恐らくないだろう。
僕は心の中で、よし、と気合を入れると慣れない校舎へと足を踏み入れた。
大体の校舎の構造は澪に聞いていたものの、まず下駄箱を探すだけでも一苦労だった。
玄関でうろうろしていたら怪しまれてしまう。自然を装いつつ周りを見回す。
「あった・・・」
1110という番号を見つけて僕はそこに靴を入れた。
どうも澪は1組の出席番号10番らしい。
ちなみに校舎は至って単純な造りで、一階に一年、二階に二年、三階に三年の教室がある。
上から見るとエイチ型になっており、縦線の片方の部分が教室塔、
もう反対側が音楽室や化学室等がある特別教室塔らしい。
そして教室塔と特別塔を繋ぐ横線部分に玄関や職員室等がある。
分かりやすい間取りに安心しつつ、僕は下駄箱のすぐ近くにあった階段へと向かう。
確か補習は一組で行われると言っていたな、澪の言葉を思い出しながらゆっくり階段を上る。
その途中で、不意に後ろから名前を呼ばれた。
「澪?」
僕はゆっくりと振り返る。
階段の一番下で僕の事を見上げている女の子がいた。
肩につくぐらいの髪、優しい印象のたれ目。
おっとりとした印象のあるこの子を僕は知っていた。
一度澪が家に連れてきたことがある子だ。
彼女?と聞いたけど、「残念ながら違うよ」と澪は言っていた。
確か名前は―

「蒼唯(あおい)」

ちゃん、と続けそうになるのを寸前で止めた。
確か澪はこの子のことをそう呼んでいたはずだから。
蒼唯ちゃんは不思議そうに僕に言った。
「澪、どこ行くの?職員室にでも用事?」
そこで、僕ははたと気が付いた。
自分が二年生だから自然と足が二階へ向かっていたが、そもそも澪は一年生だ。
補習の教室は二階にではなく、一階にあるのだ。
動揺しているのがばれないように、僕は白々しく「うん」と頷いた。
この後、一緒に行くなんて言われたらおしまいだ、そう内心どきどきした。
蒼唯ちゃんは「ふうん?」と可愛く首をかしげる。
「ところで今日学校に来てるってことは・・・澪、補習に出るの?」
「うん、そうだけど」
僕の返事を聞いて、蒼唯ちゃんは訝しげに目を細めた。
「学年首席の澪が?」
その言葉に驚いたのは僕だった。
学年首席?澪が?
初めて知った事実に、雷に打たれたような衝撃が走る。
前々から自分の事を誇大評価したり、自慢したりしない奴だと思っていたけど、
まさか学年トップであることを隠していたとは。
いや、隠していたわけではないんだろう、きっと必要がないと思って話さなかっただけだ。
・・・こんな形で知って、お兄ちゃんはびっくりだけど。
さて、こうなってくると言い訳に困る。
確かに補習は誰でも参加できると澪は言っていたけれども、
学年首位者が補習に出るのは明らかにおかしい。
真面目な生徒ならまだ分かるが、あの最低限のことしか必要としない澪を思えば、
蒼唯ちゃんが不思議がるのも当然だ。
僕は頭を捻って考える。
"なんとなく"、そんな考えは澪の答えとしては有得ない。
僕は一か八かの賭けに出た。
「明冶が心配で、様子を見に来たんだよ」
送り主である明冶君の名前を出すのは、リスクが伴う。
これで怪しまれてしまったら、今後の調査に響いてくるのは分かっていた。
僕はドキドキしながら、じっと蒼唯ちゃんの反応を待つ。
すると蒼唯ちゃんは少し間をおいてから、
「―・・・そっか。ちょっと心配だもんね」
と警戒心を解いたように言った。僕の返答は間違っていなかったようだ。
「私先に教室に行ってるね。じゃあ、また」
そして蒼唯ちゃんはそう言うと、教室の方へと歩いて行った。
僕は階段の途中で立ち止まったまま、ため息をついた。前途多難だ。
外見で兄弟だということがばれないにしても、性格と彼が持っている情報の違いは大きい。
とりあえず、職員室の前を通って一階に戻ろう。
そう決めて僕は再び階段を登り始めた。



職員室の前を通り、10分ほど校舎をうろついた後、僕は1組の教室へやってきた。
そこには三十組余りの机と椅子が並べられていた。
既に十人ちょっとの生徒がおり、その中には先ほど会った蒼唯ちゃんもいた。
蒼唯ちゃんと一緒に談笑しているのは、意外にも派手な感じの女の子達で、
中には金髪に近い髪の子もいる。校則にはひっかかっていないんだろうか。
そう思っていると、その女の子達の集団が一斉に僕の方を見た。
「澪君!どうして補習に来てるの!?」
明るい茶髪の子が目を丸くしながら僕に言った。
思わず愛想笑いをしそうになり、
でも澪は不用意に笑ったりしないことを思い出して、僕は静かに言った。
「ちょっとね・・・」
さっきは蒼唯ちゃんに明冶君のことを言ったけれども、全員に理由を話す必要はないだろう。
そう思って言葉を濁すと、女の子達は「ちょっとって何?」と何故か目を輝かせた。
よく分からないが、何かを期待しているらしい。
困ったな、そう思っていると
隣にいた蒼唯ちゃんが「まあ別にいいんじゃない?」と僕に助け船を寄越した。
「ところで、明冶の奴も補習なんでしょー?」
背の高いポニーテールの女の子が語尾を伸ばしながらそう言った。
「え、明冶って点数悪かったの?」
「冴子知らないの?明冶の奴、試験の最終日すっぽかしたらしいよ。それでじゃない?」
話が見えずに無言でいる僕に蒼唯ちゃんが言った。
「一限目のテストの途中で急に外に飛び出して行ったから・・・びっくりしたよね。
あの日何があったか、澪にも教えてないんでしょ?
結局あれ以来何だか塞ぎこんでいるように見えるし、心配だよね?」
絶妙な説明だった。
勿論、蒼唯ちゃんは僕が事情を知っていることを前提に話しているのだから、
今の言葉は説明ではないのだけれど、僕が状況を理解する上ではかなり助かる発言ではあった。
蒼唯ちゃんに内心感謝をしつつ、僕は澪らしく応えた。
「まあね。僕には話をしてくれるのを待つことしかできないけど」
実際は、待つつもりはない。
様子を窺って機会があれば、それとなく僕の方から追及するつもりだ。
そうでなければ、自分の本来の補習をさぼってまで、調査に来た意味がないのだ。
僕は自分の学校を思い出してため息をついた。
初日から補習を欠席だなんて、知紘達に何を言われるか。
そんなことを考えていた僕は、この時はまだ知らなかった。
まさか自分の学校の方に、弟の澪が行っていようとは。



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