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1-4 再び現れた彼女は(2)

 06,2016 21:23



そして、夜。
いつもの時間、私は森の中を小走りで駆け抜けていた。
早く湖に着きたかった。早く彼に会いたかった。
魔女とのやり取りがどうしても自分の中で引っかかっていて不安で仕方がなかった。
空を見れば、今晩は月も星も雲に隠れて見えなかった。
「もし、会えなかったら?」
心の中で抱いた疑問を思わず口にして顔を振る。
そんなわけはない、きっと。大丈夫。
そう自分に言い聞かせている内に、湖へとたどり着いた。

湖を見渡すと、自分より早くに来ていた人物を見つけて、私は一つ大きな息を吐いた。
「オネット、来てくれたんだね」
イズミは私を笑顔で迎えてくれた。そっと私は胸を撫で下ろす。
ほら、何もなかった。不安なんていらない心配だった。
イズミの傍に駆け寄る。
「勿論よ」
「よかった。今日はなんだかいつもと違う暗い空をしていたから、
もしかして来てくれないのかと思ったよ」
「それを言うなら私の方よ。でもあなたが来ないなんてこと、あるはずがないものね」
そう言えば、イズミは一つ頷く。
そして、その表情からは急に笑顔が消えた。
真剣な瞳が私をまっすぐに捕える。
「さっそくだけど、答えを聞かせてくれるよね?」
イズミが私の左手を優しく取ると、少しまた距離が縮まる。
「僕と結婚してくれますか」
私は深く息を吸った。

そうだ、これは長年の”私の夢”だった。
彼との結婚、その夢が今叶う。
どう気持ちを伝えよう。
喜んで?ありがとう?いいえ、それよりももっと私が伝えたいのは、
彼を愛しているということ。
私はイズミの真剣な瞳を見返す。そして告げた。
イズミの目が見開かれた。

"愛してます、王子"
「さようなら」

何の音もしない。森のすべてのものが息を殺して私たちを見ているかのように思えた。
静寂の中、私は震える手で自分の口元を抑えた。
(今、私は何を。)
イズミは唖然とした様子で私の腕を離した。
呆然とお互いにお互いを見つめる。
どうして。違う。

"愛しているの"
「愛せないの」

どうして?!
混乱して繰り返せば繰り返すほど、気持ちとは真逆の言葉しか口から出てこなかった。
どんどん辛そうに顔を歪めていくイズミの顔が、涙でぼやける。
違うの!・・・違う!
必死に顔を横に振るも、イズミは私の心に気が付かない。
「・・・オネット、それが君の出した答えなの?」
そしてイズミの絶望的な問いに、私は喉が熱くなりながら声を絞り出した。

"違う!あなたしかいないの"
「―あなた じゃないの」

急に彼が遠ざかっていく気がした。
どうしてなの?私は何を言っているの?
イズミは小さく「そっか」と自嘲的に呟くと、
私を見つめ、しかしそれ以上は何も語らずに静かに身を翻した。

"待っていかないで、違う、・・・!!!!"
「―――― 」

私の言葉はイズミに届かなかった。
遠のいていくその姿を私はただ黙って見つめるしかなかった。
行ってしまった。行ってしまった・・・!
足に力が入らず、体が地面へと落ちていく。
顔を手で覆って私は、声にならない叫びを上げた。
どうか、嘘だと言って。
彼を引き留めて。
誰でもいい、私の気持ちを誰か彼に伝えて。
必死にそう心で願った、しかしそれを叶えるものは誰もいない。
「嫌・・・行かないで」
力が入らない。まるで動かない人形のような体に、冷たい雫が降ってくる。
雨だった。
「どうして・・・」
どうして伝えられなかった?
ぽつり、ぽつりと初めは小さく降っていた雨はやがていきおいを増し、私の体を強く打ち始めた。
この雨に溶けて私も消えてしまったらいいのに。この悲しみと、どうか。
そう願い地面に両腕をついた-その時。
後ろから、雨音に混ざり何かの足音が聞こえた。
その音は段々と近づいてきて、自分の真後ろで止まった。
「なんて憐れなお姫様」
冷たい声で後ろに立つ誰かは言う。
「私の魔法はいかがだったかしら?」
その言葉に思わず私は振り向いた。
何故か大雨の中、体が全く濡れていない少女が私を見おろし-否、見くだしていた。
真っ黒な服を身に纏っている。そう、あの時の魔女だった。
「さっきの・・・あなたが?」
「ええ、そうよ」
躊躇うこともなく、あっさりと魔女は肯定した。
まさかあの夜、私にかけた魔法は。
「・・・どうして!」
思わず地面に膝をつけたまま、魔女の長いスカートに掴みかかった。
魔女を見れば、強く掴んでいるのにも動じず、変わらず私を見下ろしている。
睨み合うように視線を外さずにいると、魔女は冷めた声で言った。
「どうしてかなんて、答えてあげない」
その言葉に酷い苛立ちを覚えた。
脳裏にあの書庫で読んだ本の内容と絵が浮かんできた。
あれは紛れもない真実だったんだ。
ああ。まるで、
「・・・・・・悪魔のようね」
「あら、綺麗な心のあなたからそんな言葉が出てくるなんて光栄ね」
嬉しそうに魔女は笑う。
何がおかしいの。
「あなたが最初からそんなんだったらよかったのよ。
綺麗じゃなければ誰も傷つかず、誰も傷つけず。こんな結末も迎えなかった、違う?」
「・・・何を言っているの?あなたは一体何を」
「だから、あなたなんかが私に質問しないでよ!」
魔女は、スカートを掴んでいる私の手を強く振りほどいた。
私の手は地面に叩きつけられた。
「あなたが嫌いよ、オネット」
魔女は小さく微笑んだまま、言う。

「あなたがあの王子と結ばれる可能性があるというのなら、
私が全て探し出して、― 全て壊してあげる」

「・・・っ」
どうしてここまで魔女が私に固執しているのか、
王子と結ばれるのを阻もうとするのかが、全く分からなかった。
魔女に会ったのは昨晩の夜が初めてだったはずだ。
それならば、もしかしたら王子が魔女と何かが関係があるというのか。
だけど、それがどうか分かったところで時間は戻せない。
イズミは私から離れた。
あの言葉は取り消せない。  ―私の言葉は届かない。
「うう・・・う・・・」
強く噛んだ唇から血の味がする。息をするのが苦しい。
呼吸がどんどん荒くなり、私は地面に蹲る。
そんな私の様子を見てか、
「ああ・・・本当に、浅ましい」
魔女は呆れたようにそう言うと、酷く残念そうな声で告げた。
「そう。あなたがそんなに浅はかだというなら、いいわ。
魔法を解きたいというなら・・・解いてあげる」
「・・・っ・・・・・・?」
その言葉に、弾かれたように私は顔を上げた。
魔女は冷たい笑みを浮かべていた。
「だけど私のところまでたどり着けたなら、サーヴァリアの森まで来れたなら・・・ね」
サーヴァリアの森?
「サーヴァリア・・・ここがそうでしょう?」
「違う。そうであってそうじゃない。本当のサーヴァリアと呼ばれる場所はもっとここより奥。
この湖は境界線なのよ。表のサーヴァリアと真のサーヴァリアのね。
私は真のサーヴァリア ―魔女の森で、滑稽で浅ましいあなたが来るのを待っているわ」
そう言う魔女の体がどんどん透けていく。
その時に、魔女は本当はここにはおらず、違う場所から自分に話していたのだと知った。
これも魔法だというのだろうか。
消える前に魔女は言う。
「あなたが進む先に、あなたの望む未来はあるのかしらね」
その呟きには何故か憂いが混ざっていた。

魔女が消えた後を見つめながら、なんとか私は足を立たせる。
上手く頭が回っていなかったけれど、私の心は決まっていた。
サーヴァリアに行こう。魔法を解かなくてはいけない。
過ぎた時間は戻らない。イズミに言った言葉はもう取り消せない。
体も心もぼろぼろだった。それでも、私はまだ諦められなかった。
夢を。

(chapter1 end)
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