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4-1 前途多難な旅(3)

 17,2016 20:49



「冷たいー気持ちい~!」
隣で浮き輪に掴まりながら、のんびりと泳いでいる依織を横目で見る。
結局あの後、あの発言について依織は何も語らなかった。
冗談かもしれない、普段から依織は何処か掴めないところがある。
何の意図もなく、私をからかうために言った可能性も少なくはない。
深く追求する必要はないのかもしれない、そう思って私は自分の浮き輪に視線を落とした。
全長350メートルもある流水プールはとても穏やかに水が流れていた。
流水プールは此処以外にもあと一箇所あり、他にも滝や海岸をイメージしたプールもあるらしい。
こんな大きな施設ではぐれてしまったら、互いを見つけるのは容易くはない。
先ほどの話し合いで、四時には休憩スペースで集合になったけれど、
今はまだ皆で同じプールを泳いでいた。
しかしもうそろそろ、井上さんが別れて泳ぐことを提案してくるんじゃないか。
そう思った直後、井上さんではなく大倉君が言った。
「なあ、俺スライダーに行きたいんだけど!」
どうやら大倉君には、のんびりと流れるプールは性に合わなかったらしい。
少し前から静かに泳いでいるな、とは思っていたけれど、
もしかしたらずっとスライダーに行きたい気持ちを押さえていたのかもしれない。
「いいねー!ちょっと予定より早いけど、解散にしよっか!美月、いい?」
「私は別にいいよ?」
井上さんと愛澤さんがそう言えば、稲垣君が手を上げて発言した。
「スライダー系に行くか、別のプールで泳ぐか、の二手に別れる?」
「そうだな。じゃあ、スライダーに行きたい人ー?」
千里の言葉に四つの手が上がる。
大倉君、稲垣君、井上さん、依織だった。
ということはプールで泳ぐグループは、私と千里と新倉君と愛澤さんだ。
・・・・・・・・・・・・・。
一体何の罰ゲームなの、これは。
「えー新倉君、スライダー行かないの?」
新倉君にだけそう聞く井上さんは、とても大胆な性格をしている。
積極的すぎるその姿に私は呆気に取られて二人を見つめる。
新倉君は困ったように微笑んだ。
「んー・・・実は、あんまり好きじゃないんだよね」
「そうなのー?残念!・・・でも私もあんまり得意じゃないから、すぐ戻ってこよっと」
隣で依織が「絶対嘘だよねぇ」と呟いたので、私は苦笑いをするしかなかった。
ところで。
どうしよう、私。
「なら、四人でスライダー突撃してきまーす!!」
大倉君の言葉が耳をすり抜けていく。
どうしよう、このまま愛澤さん達といていいの?本当に大丈夫なの?私。
・・・ううん、― 無理だよ。
「ちょっと待って!」
思わずそう声を上げれば、スライダーに向かおうとしていた四人が足を止めて私を見る。
「どうしたの、藍那ちゃん?」
井上さんが不思議そうに首をかしげた。
私は四人に向かって言う。
不自然だったかもしれない、それでも耐えられるか否かで言えば、確実に後者だった。
千里と愛澤さんがいる空間で、私はどう呼吸をしたらいいか分からない。
「・・・ごめんなさい、私もやっぱりスライダーに行く」
千里達三人の方は見れなかった。
千里の顔も、愛澤さんの顔も、そして新倉君の顔も今は見れない。
だって私は、弱虫だから。
強くなんてない。
弱くて弱くて、とても惨めだった。


◇  ◇  ◇


スライダーの方に行く、と言った藍那は僕らの方を振り返らなかった。
そんな藍那を美月ちゃんが困惑した表情を浮かべて見ている。
僕は一つため息をつくと、千里に言った。
「少し、喉が渇いたね」
すると千里は僕の顔を物言いたげに見た。
しかし、深くその言葉を追及することなく、千里は僕の言葉に同意してみせた。
「そうだな。・・・俺、何買ってくるよ。何がいい?」
美月ちゃんは何も言わず、今だ藍那達の後ろ姿を目で追っている。
僕は首を振って、千里に言った。
「何でもいいよ。ありがとう、頼んだよ」
千里がいなくなってから、僕は美月ちゃんの隣に立ち、同じように藍那達を見つめる。
不意に美月ちゃんがぽつりと呟いた。
「藍那ちゃんって・・・私のことが嫌いだよね」
あまりにも悲しげな声に、美月ちゃんの顔を見る。
藍那に避けられている事に気づいていたんだ。
だけど、それにも拘わらず美月ちゃんは何度も彼女に話しかけていたということか。
自分のことを避けている人に関わろうとすることは、勇気がいることだ。
拒絶されると誰だって傷つく。それなのに。
「どうして、この旅行に宮森さん達を誘ったの?」
美月ちゃんは僕の方を見る、そして素直に答えた。
「藍那ちゃんと、ずっと友達になりたかったから」
その言葉に僕は自然と目を見開いていた。
「ずっと・・・?」
「うん。中学校の時から。
学校は違ったんだけど、ちょっと藍那ちゃんのことを知るきっかけがあって」
僕はそっと胸を撫で下ろした。
まさか、あの頃のことを覚えているのかとそう錯覚してしまった。
あの時のことを知っているのは僕とミーしかいないのに。
そう、美月ちゃんも千里も、藍那も知らない。
だけどそれ故に、僕は運命というものを感じずにはいられない。
やはり君達は切っても切れない縁にあるんだと。そして、僕も
「きっかけって?」
日差しが強くて僕らは日陰に入った。
千里はまだ戻ってこない。もしかしたら、しばらく戻ってこないかもしれない。
さっきのやり取りで、恐らく千里は僕が美月ちゃんと話をしたがっていることに気づいた。
だから自分が買いに行く、と言って僕と美月ちゃんを二人きりにした。
・・・よく好きな子と自分以外の男を二人きりにできるな、とも思うけど。
信頼してくれているのなら、素直に嬉しい。
ベンチに座り、美月ちゃんの方を向く。
「あのね…」
美月ちゃんはゆっくりと話し始めた。
そして語られた内容は、僕も知らない彼女達の"今"の接点だった。
「私の友達にね、藍那ちゃんと中学時代に同じクラスだった子がいるの。
その子は中学一年の時に、体育会の応援合戦の学年代表になったんだけど、
それに立候補した理由がね、好きな人が代表になったからだったらしいの。
でも、その子―優衣って言うんだけれど、優衣はとても責任感があって、頑張り屋で。
やろうと思った理由はどうであれ、その役割を全うしようと必死に練習をしていた。
別々の学校だった私とその子は、時々放課後に喫茶店でお茶をしたりしていたのだけれど、
練習で疲れながらも、代表にやりがいを感じて、やる気に満ち溢れていたのが見て分かったわ。
だけどね、優衣は実はいじめに合っていたの。
その理由を聞いてびっくりした。
優衣が好きな男の子はとても人気があって、
いじめてた子は、優衣とその男の子が一緒に代表になったのが許せなかったらしいの。
確かにね、優衣も最初に代表になったのは恋心からかもしれない。
でも本当に頑張っていたと思うし、大変だったと思う。
それなのに、それを嫉妬で認めなかった子達が優衣を傷つけ始めた。
何人かの友達はそれに気づいたけれど、止めてはくれなかったらしいの」
自分のことのように美月ちゃんは辛そうに顔を伏せた。
「見て見ぬふり。
 ・・・でも分からないでもない、いじめを止めると今度は自分が標的にされるかもしれない。
そう分かっていて止めるには、とても勇気がいることだって私も思うもの。
そしてある日、優衣は教室で代表になったことを責められて突き飛ばされた。
さらに追い打ちをかけるように鞄を投げられそうになって、―でもその時に、
助けに来てくれた人がいた」
「まさか、それが宮森さん?」
「そうなんだって。藍那ちゃんと、優衣の好きだった男の子も。
二人のおかげで、優衣は大事に至らなかったらしいんだけど、
・・・藍那ちゃんは、自分が叩かれそうになっても優衣を庇ったんだって。
 "それが本当に正しいと思うなら、そうすればいい"・・・そう言って」
藍那が友達を庇った。
僕は目を閉じた。
彼女の姿をそっと瞼の裏に浮かべる。
怖かったに違いない、美月ちゃんが言うように勇気がいる行動だ。
悩んだに違いない、でも彼女なら何回悩んだとしても ―きっと同じことをしたのだろう。
自分を犠牲にしても正しいと思った方へ進もうとする。
なんて不器用で、なんて心が綺麗だろう。
「その話を聞いた時、顔も知らないその二人に私は本当に心から感謝した。
優衣を助けてくれてありがとう。
そう思ったのと同時に、私はその二人のことを知りたいと思った。仲良くなりたいと思った。
そして偶然、その二人と同じ高校になることができた。私は」
美月ちゃんは、そっと空を仰いだ。
「友達になりたい。私は ― 藍那ちゃんに憧れている」



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