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4-1 前途多難な旅(4)

 17,2016 20:49



「そっか・・・」
本当に不思議なものだな、と僕は思う。
藍那は美月ちゃんを避けている。
それは千里が好きで、そして美月ちゃんを羨ましく思っているから、憧れているから。
でもそんな美月ちゃんだって藍那に憧れている。
美月ちゃんは、優衣ちゃんという子が好きだった男の子の名前を口にはしなかった。
しかしおそらくそれは十中八九、千里に違いない。
"恋"がなければ、二人が友達になるのを邪魔するものはなかったかもしれない、
だけど"恋"がなければ、二人を繋ぐものもなかった。
「藍那ちゃんの方からしたら、私がそのことを知っているなんて知らないだろうし、
一方的にいつも話しかけられて、きっと迷惑よね。嫌いになるのも当然だわ」
「そんなことは・・・」
「でも、それでも私は友達になりたいって気持ちを捨てきれないの」
切実な美月ちゃんの思いに、僕は自然と口が開いた。
「僕はね、美月ちゃん」
これは嘘でも慰めでもない、本当に僕が思っていることだ。
「彼女は、君のことを嫌ってなんていないと思うよ」
今も、あの時も。
彼女のことをよく知っている僕には分かるんだ。
藍那は美月ちゃんのことを嫌ってなんていない。
きっと本人も勘違いをしているかもしれないけれど。
「・・・綾君」
美月ちゃんが僕を見つめる。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「大丈夫だよ」
優しくそう言えば、美月ちゃんは「うん」と頷いて笑った。
その拍子に美月ちゃんの頬に涙が伝い、「あ、それはやばいな」と思った瞬間。
後ろから珍しく、苛立ったような千里の声が聞こえた。
「何泣かせてんだよ、綾」
本当に王子様はいいタイミングで現れる。
美月ちゃんは「違うの」、と言いながら人差し指で涙を拭った。
「・・・・・・」
美月ちゃん。
大丈夫だよ、美月ちゃん。
友達になりたい、その思いはきっと届くから。


しばらくして三人で談笑しながら泳いでいたところに、井上さんと知紘が戻ってきた。
井上さんは興奮した様子で僕達に言った。
「スライダー本当にやばかったよ!見た目以上にスリルもあったし!」
そういえば井上さんはスライダーがあまり得意でない、とさっき言っていた。
気分が高揚しているのを見れば楽しかったようにも見えるけれど…。
「怖かった?・・・大丈夫?」
そう言うと、何故か井上さんは頬を赤くして俯いた。
「・・・うん。心配してくれて、ありがとう」
一気に井上さんが静かになった。
疲れたのだろうか、そう思っていると同じことを考えたらしい千里が言った。
「疲れたのなら休憩する?」
井上さんは慌てたように首を横に振った。
「ううん。そんなの皆に悪いし、一人で待っているのも寂しいし」
確かにこんな人がたくさんいる中、一人でいたら寂しくなるだろう。
だけど皆で休憩をしたら、僕らは何とも思わなくても井上さんは罪悪感を感じるに違いない。
とすれば。
僕は井上さんに言った。
「じゃあ、僕が一緒にいようか?別に皆で休む必要はないんだし」
正直なことを言えば、あまり泳ぐのが好きではない僕は休憩が苦ではない。
それに僕には一つ気になっていることがあった。
どうしてあと3人が戻ってこないんだろうか。
元からスライダーに行きたいと言っていたヨシ達はともかく、
藍那はスライダーが得意でないように見えた。
さっきのやりとりで戻って来にくいにしても、今一体どこにいるのだろう。
休憩所にいたら、もしかして藍那を見つけられるかもしれない。
結局僕は、彼女のことばかり考えている。
「本当!?新倉君!」
急に大声を出した井上さんに、知紘が苦笑いをしながら言った。
「そんだけ元気なら、休む必要ないんじゃないの」
「え!?違う、本当に疲れてるよ!新倉君と休んだら、ちゃんと元気になるはず!」
僕と休んだら元気になる、その理由は分からないけれど役に立てるのであればそうしたい。
そして僕は藍那を待てるし、一石二鳥というやつかもしれない。
「うん・・・じゃあ、私達もう少し泳いでくるね」
美月ちゃんは苦笑いをしながらそう言うと、千里達と一緒にプールの方に戻っていた。
残ったのは僕と井上さんの二人だけ。
周りからは、色んな人が楽しそうに泳いでいる声が聞こえる。
僕はそんな人ごみの中で、まだ頬が赤く、いつもよりも大人しい井上さんに言った。
「休憩所、行こっか」
「うん!」
元気にそう返事した井上さんと一緒に休憩所に向かう。
エリア内に休憩所は幾つかあるようで、僕らは一番近い休憩所に入った。
壁がガラスで、周りの景色がよく見えた。
此処なら井上さんを休ませながら、藍那を探せるだろう。
そう思って、椅子に座った。
すると隣で井上さんが、不思議そうに言ってきた。
「さっきから新倉君、何だか落ち着かないけど…どうしたの?」
「え?そうかな」
少しとぼけてそう返す。気を逸らせるように、外を指差して僕は言った。
「人いっぱいだね」
「うん。夏休みとはいえ、すごい人だね」
ふと休憩所の時計を見れば、針は三時を指していた。
あと一時間もすれば、皆此処に集合することになっている。
だから見つからなかったとしても、すぐにその姿を確認することはできるはず。
そうは思うけど、やっぱり藍那に会いたくて。
僕の目線は自然と外に向かい、彼女を探してしまう。
今日の彼女は―…と、藍那の姿を思い出したところで、僕は頬を手で押さえた。
頬にじわじわと熱が帯びていく。
藍色の水着。形はとても大人っぽく、だけど柄やフリルは女の子らしく可愛いデザインのそれ、
正直彼女があんな水着を着るとは思っていなかった。
なんだよあれ、可愛すぎるだろ。
だけどその可愛さを本人は全く自覚していないから厄介なのだ。
・・・どうしていつも僕には対して警戒心剥き出しなのに、肝心な所で無防備なんだろう。
「新倉君、もしかして誰か探してるの?」
隣で井上さんが言った。
「え・・・?」
図星をさされて咄嗟に返答できないでいると、井上さんは少し不機嫌そうな顔をして
僕との距離を縮める。え、何、どうしたの?
「真面目そうな新倉君がナンパをするとは思えないし、
ということは知っている人を探している。・・・違う?」
違わないけど、違うとしか言いようがなかった。
慌てて言ったものの、井上さんはまだ僕を不審そうに見ている。
「本当かなあ?あ、もしかして。もしかして?」
そう言って、井上さんは僕に詰め寄った。
「新倉君、美月を探してるんじゃないの?新倉君も美月が好きなの?」
「え・・・?」
新倉君も、ということは他の誰かが美月ちゃんのことを好きなのか。
それが千里のことなのか、はたまた他の誰かのことなのかは分からない。
それよりも、いきなり変な誤解を持たれたことに僕は驚いていた。
急にどうしてこんな話の展開になったんだろう。
僕は、戸惑いながら素直に答えた。
「確かに僕は美月ちゃんのことが好「ほらあ、やっぱり!」・・・・」
皆まで言う前に遮られた。
「男の子って本当に美月ばっかり!確かに美月は可愛いし、性格もいいよ?
でもちょっと愛し愛される関係が不平等すぎない?!」
すっかり興奮しきった井上さんに圧倒されながら、僕はまあまあとなだめる。
何が井上さんの怒りのトリガーだったのか、さっぱり分からない。
とりあえず落ち着いてもらおうと、
「美月ちゃんばっかりじゃないよ、井上さんのことが好きな人もいるよ」
そう言ったことが更に状況をおかしな方向に向かわせるとは思わなかった。
「じゃあ聞くけど、新倉君は私と美月、どっちが好き?」
「え?どうしてそんな話に・・・!?」
「ねえ答えて。私と美月、どっちが好き?やっぱり美月なの?」
どっちなんて、そんなの言えるわけがない。
そんな優劣を決めることに何の意味があるというのだろう。
美月ちゃんは、僕にとってはある意味特別な存在で、
可愛いとは思うし、優しくしてあげたいとも思う。
だからといって井上さんが美月ちゃんより価値がないか、と言われたらそんなはずがない。
「どっちが好きなんて言えない」
比べることなんてできない ―そう彼女を除いては。
そう心の中で思った、その時だった。
視界の隅に見覚えのある姿が見えた。
僕ははっとしてガラスに左手を当てる。
― 藍那。
「でも知りたい!だって私は新倉君のことが―」
井上さんの言葉が耳から零れていく。
僕の視線は遠くに見えた、藍色の彼女に惹きつけられていた。
そしてその横にいるのは男だ。
あれは、ヨシ?
「―っ」
僕は急に立ち上がると、「ごめん、すぐに戻るから!」と視線は外に向けたまま井上さんに言った。
「・・・え?ちょっと新倉君!?」
僕は休憩所を出ると、藍那が見えた方に走った。



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